WEKO3
アイテム
稀な腸管病原菌による集団感染事例の病因に関する研究
https://az.repo.nii.ac.jp/records/5347
https://az.repo.nii.ac.jp/records/5347e46a852c-3bee-4406-b15b-a54ceb75febd
名前 / ファイル | ライセンス | アクション |
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diss_de_otsu0027 (3.5 MB)
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diss_de_otsu0027_jab&rev.pdf (183.1 kB)
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Item type | 学位論文 / Thesis or Dissertation(1) | |||||
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公開日 | 2019-05-16 | |||||
タイトル | ||||||
タイトル | 稀な腸管病原菌による集団感染事例の病因に関する研究 | |||||
タイトル | ||||||
タイトル | Studies of the pathogenesis of outbreaks caused by rare enteric pathogens | |||||
言語 | en | |||||
言語 | ||||||
言語 | jpn | |||||
資源タイプ | ||||||
資源タイプ識別子 | http://purl.org/coar/resource_type/c_db06 | |||||
資源タイプ | doctoral thesis | |||||
アクセス権 | ||||||
アクセス権 | open access | |||||
アクセス権URI | http://purl.org/coar/access_right/c_abf2 | |||||
著者 |
磯部, 順子
× 磯部, 順子× Isobe, Junko |
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抄録 | ||||||
内容記述タイプ | Abstract | |||||
内容記述 | 腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli : EHEC)は,1982 年に出血性腸炎の原因菌として最初に報告された比較的新しい病原菌である。本菌に関しては,①出血性腸炎のほか,溶血性尿毒症症候群(hemolytic-uremic syndrome: HUS)や脳症等を起こし,死亡する例もある,②牛が本菌のリザーバーである,③血清群としてはO157, O26, O111 など多種あるが,重症化するのはO157 による場合が多いこと,などが明らかにされている。 2011 年4~5 月にかけて富山県をはじめとした北陸3 県と横浜市で,牛肉ユッケを原因食品としたEHEC による大規模な食中毒が発生した。患者数181 名,HUS 発症者34 名(19%),HUS 34 名中21名が急性脳症を発症,5 名が死亡という非常に重症例の多い事件であった。181 名の患者糞便を対象とした細菌学的検査では,55 名からEHEC O111:H8 (stx2 )またはEHEC O157:H7 (stx1 & stx2 / stx1 /stx2 ),あるいはその両方が検出されるという非常に複雑な結果であった。さらに,stx を保有しない大腸菌O111:H8 が52 名の患者から分離された。このO111 は,Multilocus variable tandem-repeatanalysis (MLVA) やpulsed-field gel electrophoresis (PFGE) により,stx2 保有O111:H8 と同様の遺伝的背景を持っていることが確認された。これまで報告されたEHEC 感染症の病態では,血便やHUSを呈する割合や死亡などの重症例は,EHEC O111 より,O157 による方が多いことが知られている。本事例では重症例が多い上,EHEC O111 とO157 の2 種類のEHEC が検出された。そこで,この重症者の多い食中毒事例の病因をさらに詳細に検討するために,患者の免疫応答の一つである血清抗体価の上昇に着目し解析を行った。 一方,Yersinia enterocolitica も腸管感染症起因菌の一つであるが,感染事例の報告はそれ程多くはなく,わが国で2018 年現在報告されている集団事例は25 事例程度である。Y. enterocolitica のリザーバーとしては豚が知られているが,食中毒の原因食品・感染源についてはその多くが不明である。2012 年に富山県で患者4 名のY. enterocolitica による集団感染事例が発生した。本事例の病因について明らかにする目的で,発生状況及び原因菌について疫学的解析を行うとともに,原因と推定された簡易水道水から原因菌を検出する方法について検討を行い,感染源の解明を図った。 これら稀な病原菌による病因について検討したところ,以下の結果を得た。 Ⅰ.腸管出血性大腸菌による食中毒事例の病因について 1. 181 名の患者糞便を対象とした細菌学的検査の結果,55 名からEHEC O111:H8 (stx2 ) またはEHEC O157:H7 (stx1 & stx2 / stx1 / stx2 ),あるいはその両方が検出された。内訳は,EHEC O111 のみ検出25 名,O111 & O157 検出12 名,O157 のみ検出18 名,両菌陰性126 名であった。 中でも,HUS 発症者34 名では,EHEC O111 のみ検出9 名,O111 & O157 検出8 名,O157 のみ検出1 名,両菌陰性16 名であった。また,急性脳症発症者21 名では,EHEC O111 のみ検出7 名,O111 & O157 検出6 名,両菌陰性8 名であった。死亡者5 名では,3 名からEHEC O111 のみ検出,他の2 名は陰性であった。 2. 患者181 名のうち,60 名から収集された血清について,凝集反応(Microagglutination: MA)試験により,E.coli O111 及び O157 のO 抗原に対する血清抗体価を測定した結果は以下の通りであった。 1) 患者60 名の血清抗体価では,O111 に対する抗体陽性者は45 名(75.0%)であったが,O157 に対しては10 名(16.7%)であり,O111 に対する抗体陽性率がO157 陽性者に比べて有意に高かった(p<0.001)。 2) E.coli O111,O157 の両方あるいはどちらか一方が分離された患者41 名の抗体陽性者は,O111に対して33 名(80.0%)であったのに対し,O157 に対しては8 名(19.5%)であり,O111 に対する抗体陽性率はO157 に対する陽性者に比べて明らかに高かった。これらの患者のE.coli O111 に対する血清抗体価は,最も高い値は1:10,240 であったのに対し,O157 に対する最も高い血清抗体価は1:320 であった。 3) E.coli O111 に対する血清抗体価の中央値は,HUS 患者および血便患者ではいずれも1:1,280 であったのに対し,下痢便患者では1:40 と低かった。また,HUS 患者と下痢患者,血便患者と下痢患者を比較すると,いずれもHUS 患者,血便患者の血清抗体価の方が有意に高かった(p<0.01)。 4) E.coli O111,O157 の両方が分離されなかった患者19 名の抗体陽性者は,O111 に対して12 名(63.2%),O157 に対して2 名(10.5%)であり,O111 に対する抗体陽性率はO157 に対する抗体陽性者より高かった。これらの患者の血清抗体価の中央値は,O111 に対しては1:640 であるのに対し,O157に対しては1:20 であった。これらを比較すると, O111 に対する血清抗体価が有意に高かった(P<0.01)。 3. 上述した血清診断の結果から,本事例の病因においてEHEC O111:H8 stx2 が主要な役割を果たしたことが示唆された。 4. さらに,EHEC O157 のみが分離された患者の血清で,O111 に対する抗体価が陽性であった事例も確認されたことから,複数のEHEC に感染している患者の場合,患者便から分離されるEHEC が主要な起因菌であるとは限らないことが示唆された。また,E.coli に対する血清抗体価を測定することは,複数のEHEC による感染症において,それがO157 以外の血清群においても,きわめて有用であることが明らかとなった。 Ⅱ.Y. enterocolitica による集団感染事例の病因について 1. 2012 年7~8 月,富山県においてY. enterocolitica O8 による患者4 名の集団感染事例が発生した。感染源追及の過程で,患者らが共通に飲用していた簡易水道水から,大腸菌は検出されなかったが,一般細菌数が最大700 CFU /mL 検出され,本飲用水は水質基準である一般細菌数100 CFU /mL を超えていることが判明した。 2. この簡易水道水を感染源と疑い,起因菌であるY. enterocolitica O8 を分離する方法について検討した。すなわち,水からY. enterocolitica を分離することは非常に困難であると考え,効果的に集菌する方法として,本菌のO 抗原に対する抗体を磁気ビーズに感作して自家免疫磁気ビーズを作製し,これを用いて簡易水道水からY. enterocolitica O8 を分離することに成功した。とりわけ,水道水中の夾雑菌によりY. enterocolitica のビーズへの吸着が抑制されることを考慮し,増菌培養液を10 倍希釈して培養することでY. enterocolitica O8 をより高率に分離することができた。 3. 分離株について,制限酵素Not Ⅰ による分子疫学的解析法の一つであるPFGE により解析した結果,水道水から分離されたY. enterocolitica O8 株と4 名の患者便から分離された株は同一のPFGE型を示し,同一起源の由来株であることが明らかとなった。この結果により,患者4 名は簡易水道水を飲用したことによる集団食中毒であると判断するに至った。 4. 簡易水道水が本菌に汚染された原因は,貯水タンクのパイプに注入されることになっている塩素タンクが空であったことと推定された。このことから,飲用水については,塩素濃度を適切に維持し,衛生的に管理する体制が重要であることが再認識された。 5. 塩素消毒による衛生管理が不十分な簡易水道水を原因とするY. enterocolitica O8 集団感染事例は,日本では初めての報告である。 このように,腸管出血性大腸菌による非常に重症例の多い大規模食中毒事例において,原因菌としてEHEC O111:H8 と O157:H7 の2 種類の菌が検出された。一般的にEHEC の血清群の中では,O157 の方が,O111 より病原性が強いと考えられているが,本集団事例の病因においては,EHECO111:H8(stx2 )がO157 より主要な役割を果たしたことが,菌の分離状況に加え,血清学的診断によっても裏付けることができた。また,希な病原菌の一つであるY. enterocolitica O8 による集団感染事例において,その感染源が塩素管理の不十分な簡易水道水であったことを解明した。簡易水道水を原因とするY. enterocolitica による集団感染事例は,日本では初めての報告である。 以上のように,2 つの集団感染症事例について,詳細な細菌学的検討を行うことにより,稀な腸管病原菌による感染症の病因を明らかにすることができた。 |
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Abstract | ||||||
内容記述タイプ | Other | |||||
内容記述 | Enterohemorrhagic Escherichia coli (EHEC), which were first reported as a causative agent of hemorrhagic enteritis in 1982, are newly emerging as bacterial pathogens. Regarding the major attributes of EHEC infection, three features are generally considered: i) EHEC can cause hemorrhagic colitis and occasionally death due to characteristic complications, such as hemolytic uremic syndrome (HUS) and acute encephalopathy (AE); ii) cows are a natural reservoir of EHEC, and iii) although the most common EHEC serogroups are O157 followed by O26, O91, O103, O111, O121, and O145, severe cases, such as those with bloody diarrhea, HUS, AE, and death, are often related to serogroup O157. A large outbreak of EHEC serogroups O157 and O111 occurred in the Hokuriku region and Kanagawa Prefecture from April to May 2011. The causative food was a raw beef dish called yukhoe. A total of 181 cases were reported in this outbreak, which included 34 cases with HUS, 21 with AE, and 5 deaths. EHEC O111:H8 (stx2) and/or O157:H7 (stx1stx2, stx1, or stx2) were isolated from the stool samples of 55 among the 181 patients by bacteriological examinations. In addition, stx-negative E. coli O111 were also isolated from the stool samples of 52 patients. The stx-negative E. coli O111 strain had a genetic background identical to the EHEC O111:H8 (stx2) strain, as determined with pulsed-field gel electrophoresis (PFGE) and a multiple-locus variable-number of tandem repeat analysis (MLVA). In this outbreak, many severely affected patients were reported, and two serotypes of EHEC O111 and/or O157 were detected in stool samples of the affected patients. To further understand the etiology of this foodborne outbreak, we performed serological studies on antibodies to O-antigen of E. coli O157 and O111 in the sera of patients. On the other hand, Yersinia enterocolitica is also a causative agent of enteric infection. However, only 25 outbreaks of Y. enterocolitica have been reported in Japan as of 2018. Swine are suspected of being a major reservoir for Y. enterocolitica, but the causes of foodborne infection or sources of infection are not clear. In 2012, an outbreak of illness among four patients caused by Y. enterocolitica occurred in Toyama Prefecture. In order to evaluate the etiology of the outbreak, we tried to isolate Y. enterocolitica from the tap water which was suspected to be the cause of the infection, using an immunomagnetic concentration method which was an unique isolation method, and the molecular epidemiological analysis was performed. Etiological studies on the outbreaks caused by these rare enteropathogenic bacteria were conducted, and the following results were obtained: 1. Etiological studies on the large outbreak caused by yukhoe contaminated with EHEC O157 and O111. 1) In the outbreak, EHEC were isolated from stool samples of 55 patients among a total of 181. The isolates consisted of EHEC O111 and/or O157 (with stx1, stx2, or stx1 and stx2); EHEC O111 was isolated from 25 cases, both EHEC O111 and O157 from 12, EHEC O157 from 18, and no EHEC from 126. Regarding the EHEC isolation among the 34 HUS cases, 9 cases were positive for EHEC O111, 8 for both EHEC O111 and O157, 1 for EHEC O157, and 16 for no EHEC. Among the 21 AE cases, 7 were positive for EHEC O111:H8, 6 for both EHEC O111:H8 and O157:H7, and 8 for no EHEC. Among the five cases that died, three were found to be positive for EHEC O111:H8, and two were negative for EHEC. 2) A microagglutination (MA) assay was conducted to measure antibodies to E. coli O111 and O157 in sera collected from 60 patients during the foodborne outbreak affecting 181 patients. The results were as follows: the detection rates for antibodies to O111 (45/60, 75.0%) were significantly higher than those for antibodies to O157 (10/60, 16.7%) (p<0.001). Among 41 patients from whom O111 and/or O157 were isolated, the detection rates for antibodies to O-antigens of E. coli were 33 (80.0%) for O111 and 8 (19.5%) for O157. These results showed that the positive rate for antibodies to O111 was markedly higher than that for O157. The maximum MA titer of antibodies to O111 was 1:10,240, while that to O157 was 1:320. The median value of the titers for antibodies to O111 was 1:280 in the HUS and bloody diarrhea cases and 1:40 in the diarrhea cases. Comparing the MA titer in the HUS and bloody diarrhea cases with that in the diarrhea cases showed that the MA titer of antibodies to O111 in the former was significantly higher than in the latter (p<0.01). In the 19 patients without EHEC, the detection rates for O-antigens of E. coli were 12/19 (63.2%) for O111 and 2/19 (10.5%) for O157. Therefore, the positive detection rate of antibodies to O111 was markedly higher than the positive rate of antibodies to O157, as was noted in the EHEC-positive cases. The median titer for antibodies to O111 was 1:640, while that for antibodies to O157 was 1:20. On a comparison, the serum antibody titers were higher in those with O111 than in those with O157 (p<0.01). 3) Based on the results of the serological diagnosis, EHEC O111:H8 stx2 was identified as a key player in the etiology of the outbreak. 4) In addition, the serum of five patients with EHEC O157 isolates showed additional positivity for antibodies to O111. Our results suggest that the isolates obtained from the stool specimens of patients were not always a causative pathogen, especially in EHEC infections caused by several serogroups of EHEC. Finally, the serological diagnosis using patients’ sera seems to be very useful for determining the cause of foodborne illness outbreaks by multiple serogroups of EHEC infections. 2. Etiological studies on waterborne outbreak caused by Y. enterocolitica 1) A water-borne outbreak affecting four patients caused by Y. enterocolitica O8 occurred in 2012 in Toyama Prefecture. Four patients had experienced a gastrointestinal illness from July to August 2012. No common source of infection, except possibly water, was identified. Water samples were obtained from the small water-supply system of this area. In the samples, coliforms were not detected, but the standard plate count of bacteria yielded a maximum of 700 CFU/mL, which exceeded the standard value for the purity of tap water (100 CFU/mL). 2) Because the tap water was suspected of being the source of infection, we explored ways to isolate Y. enterocolitica O8, which was detected from the patients’ stool samples. We used immunomagnetic separation (IMS) to efficiently isolate Y. enterocolitica O8 from water samples. We attempted to prepare immunomagnetic beads coated with an antibody specific to the O8 antigen of Y. enterocolitica. As a result, Y. enterocolitica O8 was efficiently isolated from the tap water samples. We also improved the efficiency of isolating Y. enterocolitica O8 by combining dilution of enrichment culture and artful plating. 3) The PFGE patterns of three isolates from water samples and five clinical isolates from the four patients were identical; therefore, these strains were concluded to be the outbreak strains. Finally, we concluded a waterborne outbreak with Y. enterocolitica O8 to be the cause of infection using tap water from the affected area supplied via a small water-supply system. 4) Contamination of tap water with Y. enterocolitica was presumed to have occurred when the tank of chlorine that was used as disinfectant for the water-supply system ran empty. These findings underscore the importance of appropriately maintaining the water-supply system. 5) This is the first case report of an outbreak of Y. enterocolitica due to tap water from a small water-supply system as a causative facility. In large-scale foodborne outbreaks with severe symptoms caused by EHEC, two kinds of EHEC serogroups (O111:H8 and O157:H7) were detected as causative bacteria. Generally, EHEC O157 is thought to be a more severe pathogen than O111; however, in this outbreak, EHEC O111:H8 (stx2) played a more major role than O157 in the pathogenesis, as evidenced by the isolation of EHEC from the patients’ stool samples and serological diagnosis of the patients’ serum samples. Regarding the outbreak caused by Y. enterocolitica, which is a rare pathogenic bacteria, we identified the source of infection and showed that the causative infectious substance was tap water supplied by the water-supply facility due to a system malfunction. This is the first case report of an outbreak of Y. enterocolitica due to tap water from a small water-supply system in Japan. In conclusion, for these two outbreaks, we clarified the etiology of infections caused by two rare enteric pathogens. |
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学位名 | ||||||
学位名 | 博士(学術) | |||||
学位授与機関 | ||||||
学位授与機関識別子Scheme | kakenhi | |||||
学位授与機関識別子 | 32701 | |||||
学位授与機関名 | 麻布大学 | |||||
学位授与年月日 | ||||||
学位授与年月日 | 2019-04-10 | |||||
学位授与番号 | ||||||
学位授与番号 | 乙第27号 | |||||
著者版フラグ | ||||||
出版タイプ | VoR | |||||
出版タイプResource | http://purl.org/coar/version/c_970fb48d4fbd8a85 |