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アイテム
牛のハロセン吸入麻酔に関する研究
https://az.repo.nii.ac.jp/records/3167
https://az.repo.nii.ac.jp/records/31679fff5508-abae-4fe0-ab56-f064d82ed484
名前 / ファイル | ライセンス | アクション |
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Item type | 学位論文 / Thesis or Dissertation(1) | |||||
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公開日 | 2013-01-22 | |||||
タイトル | ||||||
タイトル | 牛のハロセン吸入麻酔に関する研究 | |||||
言語 | ||||||
言語 | jpn | |||||
資源タイプ | ||||||
資源タイプ識別子 | http://purl.org/coar/resource_type/c_46ec | |||||
資源タイプ | thesis | |||||
著者 |
高瀬, 勝晤
× 高瀬, 勝晤 |
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抄録 | ||||||
内容記述タイプ | Abstract | |||||
内容記述 | 家畜における吸入麻酔の歴史は古く,1847年Bouley,Seifértが馬及び犬でエーテル吸入麻酔を実施したのに始まる。さらにHering,Lafosse,Sewell,Defay,Wirthらも同様に実施した。これら初期の吸入麻酔方法はいずれも簡単なもので,開放式あるいは反開放式であった。しかしこれらの麻酔方法では,吸入濃度を一定にすることは難かしく,麻酔薬及び酸素の大量消費,死腔の存在,呼吸抵抗等の不備な点があるが特に呼吸停止時に人工加圧呼吸ができないことが最大の欠点であった。その後,前投薬の発達に加えて優秀な炭酸ガス呼吸剤の出現は,装置回路の閉鎖式を可能とした。1946年,LodiobiceとAranesは人間用の閉鎖往復式麻酔器を改良して牛,馬にサイクロブロペイン麻酔を実施した。その後,馬を中心として多くの人達により閉鎖式吸入麻酔器が試作され,研究されてきた。 反芻獣の吸入麻酔については,1957年,Hallがハロセンで,FisherとJenningsがエーテルで牛に実施して以来,数多くの報告がみられる。 一方,我が国における大動物の吸入麻酔については,木全が1934年,馬でナルコポン・エーテル合併麻酔をしたのに始まり,近年,吉田らは大動物麻酔器を試作し,馬にハロセン麻酔を実施して良好な成績を得ている。又小笠原らも,1954年大気加圧人工呼吸装置を考案して以来,大動物吸入麻酔の研究を進め,閉鎖循環式吸入麻酔器を試作し,牛,馬にエーテル,ハロセン麻酔を実施した。さらに西川らも,牛2例について,ハロセン麻酔時の血圧変化について報告している。 しかしながら,これら反芻獣における吸入麻酔の研究は,麻酔のテクニック及び臨床所見についての報告が大部分であり,最も重要である麻酔と呼吸の動態との関係についての研究報告は極めて少ない。 牛に対して全身麻酔を実施する場合,他の家畜と異って危険が多いと考えられる。即ち,牛は肺活量が比較的小で横臥,仰臥の場合,第1胃により横隔膜が圧迫され,その為に呼吸の抑制が考えられる。又唾液の分泌が著しく,第1胃内容の吐出もしばしばみられ,誤嚥することが多いからである。さらに長時間の横臥,反芻の中止は鼓張の誘発の危険もあり,呼吸に対し大きな影響を与える。 抑々,牛の全身麻酔として従来から抱水クローラルの静脈注射が多く用いられてきた。この麻酔剤は本来比較的危険の少ない優秀な催眠剤と考えられているが,全身麻酔として使用する場合の量では循環器系,呼吸器系に対し有害作用が多いとされ,前記の牛の特異点をさらに助長する欠点を有する。 近年,ようやく台頭してきた吸入麻酔法は,麻酔深度の調節が可能なこと,覚醒が早く,気管チューブ挿管により気道の確保ができる等多くの利点を有し牛には適した麻酔方法と考えられる。 吸入麻酔剤としてはエーテル,クロロフォルム,笑気等があるが,麻酔作用が弱いので麻酔の導入は単独では行えず,又副作用が多い等の欠点を有する。1956年,Sacklingらにより開発されたハロセンは,麻酔作用が強く,導入もすみやかに行われ,覚醒も早く,気道を刺激することなく,唾液の分泌を抑制する等の利点を有し,牛には適した麻酔薬と考えられる。 以上の観点から,著者は牛19頭に対し小笠原,高瀬らが試作した大動物用閉鎖循環式吸入麻酔器を使用し,次の3群に分けて,ハロセン吸入麻酔を実施した。即ち,第1群は臨床応用上の麻酔術式を得る為の基礎的研究で,麻酔中の各種臨床所見を初めとして,ハロセン濃度及び消費量等について観察すると共に,従来極めて報告の少ない血液ガス,酸塩基平衡に及ぼす影響について動静脈血の両面から詳細に検討をした。又心電図所見,酸素飽和度,血液性状等についても併せて研究した。 以上の基礎成績をさらに裏付け,ハロセン吸入の安全濃度を究明する為に,第2群として,人為的に過剰吸入を加えて,その時の生体の変化についても同様に比較観察した。又第3群として,実際の臨床手術例に対し,ハロセン吸入麻酔を応用し,その効果を追求した。 以上の諸研究において得られた成績は次の通りである。 〔1〕 吸入麻酔前にGuaiacol Gycerin Ether(以下G.G.E.)100mg/kgとThiopental Sodium(以下T.S.)5mg/kgを静脈注射することにより,咽喉頭反射は消失し安全にしかも安易に気管チューブの挿管が実施できた。しかし5~10分後にはその反射も現われ,眼瞼反射は消失する例もみられたが,角膜反射は消失することなく経過した。即ち,本剤は前投薬として効果を認めるものである。 〔2〕 G.G.E.・T.S.静注後15分たって麻酔がほぼ覚醒した後,気管チューブを麻酔器に接続し,直ちにハロセンを回路内に流入させたが,麻酔の導入は比較的スムーズに行われ,その時の導入時間は平均10.5(6~19)分,導入濃度は平均2.2(1.8~2.7)%,ハロセン消費量は平均25.4(17~53)mlであった。 〔3〕 麻酔導入後90分にわたり麻酔を第3期2-3相を維持させたが,維持濃度は平均1.0(0.5~1.6)%,ハロセン消費量は平均38.9(24~53)mlであった。 〔4〕 90分間の麻酔維持後直ちに大気自然呼吸としたが,麻酔の覚醒は極めて早く,2~4分後には眼瞼反射,咽喉頭反射が出現し,10分後には頭を拳上する例もみられ,起立するまでの時間は平均31.6(15~90)分であった。 〔5〕 ハロセン麻酔の導入及び維持中の臨床所見は心拍数の増加(65~75%増),呼吸数の増加(60%増),体温の下降(1.4℃),流涎,第1胃運動の停止,軽度の鼓腸,一部第1胃内容の吐出が観察されたが,臨床的にみて危険と思われる所見もなく,麻酔終了後それらの所見もすみやかに回復し,24時間後ではまったく正常に戻っていた。 〔6〕 以上の麻酔法を手術例(脾臓摘出術,リンパ節摘出術,各種外科手術)に応用した結果,良好な麻酔状態が得られ,60~75分間の外科手術を遂行するのに充分満足できるものであった。 〔7〕 過剰吸入群では,ハロセン導入後もそのままカッパー気化器で吸入濃度を上昇させると30~34%で角膜反射が消失し,少し遅れて肛門部の疼痛反射が消失した。4~5%濃度ではすべての反射が消失し,15分間その濃度を維持すると呼吸は浅表となり,麻酔深度は第3期4相の時期と思われた。 〔8〕 麻酔の導入及び血中の心電図所見ではRR間隔の短縮がみられ,それに伴ってPQ及びQT間隔も短縮し,洞性頻脈の様相を呈した。又過剰吸入群及び手術例の麻酔群でも同様な結果が得られた。 〔9〕 血液ガス及び酸塩基平衡については,麻酔維持中,血液pHは平均動脈血で0.167~0.180,静脈血で0.119~0.146の低下がみられ,炭酸ガス分圧では平均動脈血,静脈血でそれぞれ26~35mmHg,21~30mmHg上昇し,血漿重炭酸では動静脈血とも平均5mEq/L増加した。しかし血液Base Excessは2~3mEq/Lの増加がみられたに過ぎない。これらの変化は呼吸性Acidosisの様相を示すものであるが,変化度は各々いずれも代償の範囲内であり,麻酔終了後は直ちに回復に向い,30分後では麻酔前値に回復した。又酸素分圧では動脈血,静脈血でそれぞれ100mmHg,40mmHg前後の上昇がみられたが,これは高濃度の酸素搬送下の為であり,何ら懸念されることはなかった。 手術例の麻酔群でもほぼ同じ結果が得られた。しかし過剰吸入群では,血液pHの重度の低下,炭酸ガス分圧の上昇が特に著明に現われ,重度の呼吸性Acidosisを示した。即ち,4~5%以上に吸入濃度を上昇させたり,この状態での吸入時間の延長は,呼吸停止に至ることが血液ガス,酸塩基平衡の面より鮮明に裏付けられた。従ってハロセン吸入濃度の限界は5%前後が指標となるものと思考された。 〔10〕 酸素飽和度については,G.G.E.・T.S.静注後,動脈血でやや減少するも麻酔維持中は回復し,安定していた。一方静脈血では明らかに増加したが,これは麻酔による酸素代謝の減退によるものと考えられる。 〔11〕 血漿電解質では,ナトリウム,カリウム及びクロールともやや減少傾向がみられたが著変なく,又血糖ではG.G.E.・T.S.静注後増加したが,麻酔の経過に伴って徐々に回復し,麻酔維持後90分でほぼ麻酔前値に戻った。この増加はG.G.E.・T.S.を5%ブドウ糖液に溶解した為に起ったものと思われ,ハロセン麻酔の影響は少ないものと考えられる。 〔12〕 赤血球数,白血球数,血球容積,血色素量及び血漿蛋白質はいずれも減少傾向がみられたが,その変化は僅かなものであり,特別考慮する必要はなかった。 以上述べた成績は,牛に対する閉鎖循環式ハロセン吸入麻酔の実施に当っての基礎資料を提供し,その安全性と共に,実際の手術時の術式を確立し,獣医臨床上価値のあるものと思考される。特に本研究で採用した血液ガス及び酸塩基平衡の諸成績は,麻酔が呼吸器系に及ぼす影響を極めて適確に明示し,それを考察する上に不可欠なものであった。従って,本研究が今後の牛の全身麻酔に関する研究に際し,臨床生理学的基礎資料となるものと確信する。 |
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学位名 | ||||||
学位名 | 獣医学博士 | |||||
学位授与機関 | ||||||
学位授与機関名 | 麻布大学 | |||||
学位授与年月日 | ||||||
学位授与年月日 | 1974-02-18 | |||||
学位授与番号 | ||||||
学位授与番号 | 乙第 67号 | |||||
著者版フラグ | ||||||
出版タイプ | AM | |||||
出版タイプResource | http://purl.org/coar/version/c_ab4af688f83e57aa |