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Porphyromonas gulae 保有による犬歯周病病態の疫学的調査と歯周病予防薬の効果検討
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名前 / ファイル | ライセンス | アクション |
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Item type | 学位論文 / Thesis or Dissertation(1) | |||||
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公開日 | 2023-06-05 | |||||
タイトル | ||||||
タイトル | Porphyromonas gulae 保有による犬歯周病病態の疫学的調査と歯周病予防薬の効果検討 | |||||
タイトル | ||||||
言語 | en | |||||
タイトル | Epidemiological investigation of canine periodontal pathology caused by Porphyromonas gulae infection and investigation of the effect of periodontal disease preventive drug. | |||||
言語 | ||||||
言語 | jpn | |||||
資源タイプ | ||||||
資源タイプ | thesis | |||||
著者 |
白畑, 壮
× 白畑, 壮 |
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抄録 | ||||||
内容記述 | 歯周病は、犬や猫などの小型伴侶動物において、罹患率の最も高い感染症であり、その過程で認められる歯垢の付着、歯肉炎および歯周炎は、米国における犬31,484頭の調査において、最も重要な健康問題であると結論付けられている。また、2歳になるまでに猫の70%、犬の80%が歯周病を有しており、小型犬・トイ種では特に影響を受けやすいとされている。犬の歯周病は、歯周病原性細菌が歯周ポケットにバイオフィルムを形成し、歯肉の傷害および歯槽骨の融解を引き起こす慢性歯科疾患である。歯周病は多くの歯周病原性細菌が関連しあって形成される疾患であるが、ヒトではPorphyromonas gingivalis(以下、P. gingivalis )、 Treponema denticola およびTannerella forsythiaの3菌種をRed complexと呼び、特に悪性度が高いとされている。一方、犬や猫では、P. gingivalis の近縁種であるPorphyromonas gulae(以下、P. gulae)が歯肉溝から分離され、歯周病の発症および増悪に重要な役割を有していることがわかっている。P. gulaeの菌体表面に存在する線毛を形成する病原蛋白質である分子量41kDaのフィンブリリンはFimAと呼ばれ、歯への付着や病原性に重要な役割を示すことが判明している。FimA蛋白質をコードするfimA遺伝子は、A型、B型、およびC型の3種類のサブタイプに分類され、これらのfimA遺伝子の中で、C型のP. gulaeが重度の歯周炎の犬の口腔内で優勢であるため、最も病原性が高いと考えられている。年齢によるfimA遺伝子型の推移、fimA遺伝子型と歯周病の重症度および歯周病の臨床的特徴との関連は不明である。また、歯周病は歯周炎および歯槽骨の融解が引き起こされると回復が難しい疾患であり、動物病院だけでなく、飼い主による自宅での予防的デンタルケアの重要度は高い。 そこで本研究では、第1章で日本の小型犬種におけるP. gulaeの各fimA遺伝子型の年齢別保有実態と歯周病態(歯周病スコア)と臨床的兆候(永久歯数)の関連に関する疫学調査を実施し、続いて第2章および3章では、犬の疫学調査に基づいた犬の歯周病予防製品CPC + Pt含有製剤(Q-nessマウスクリーナー®、株式会社QIX)の効果について、それぞれin vitroおよびin vivoで調べた。 第1章:犬におけるP. gulaeのfimA遺伝子型の保有率とfimA遺伝子型による歯周病悪性度との相関 プリモ動物病院相模原中央、厚木プリモ動物病院、相模大野プリモ動物病院および安田獣医科医院に来院した生後6〜211ヶ月齢の歯周病罹患犬225頭(過去6ヶ月以内に抗生物質を使用している症例は検討から除外)を月齢によって生後50ヶ月齢未満(n = 50)、50ヶ月齢以上100ヶ月齢未満(n = 60)、100ヶ月齢以上(n = 115)の3つのグループに分け、P. gulaeの各fimA遺伝子型の保有率、歯周病重症度および歯周病態を裏付ける臨床兆候として永久歯数を、fimA遺伝子型間で比較検討した。その結果、225頭全体におけるP. gulae陽性率は74.6%であり、その割合は加齢に伴って増加した。特に、C型のfimA遺伝子のP. gulaeを有する犬の割合が、他の遺伝子型と比較して年齢とともに著しく増加(生後50ヶ月齢未満の群で20%、50ヶ月齢以上100ヶ月齢未満および100ヶ月齢以上の群で40%以上)していた。このことからも、加齢に伴う歯周病の増加、悪化に関与しているのではないかと推測された。 次に、P. gulae の有無での歯周病の重症度スコアを比較すると、すべての年齢層でP. gulae非保有犬と比較し、P. gulae 保有犬で歯周病の重症度が高くなっていた。また、遺伝子型間での歯周病の重症度を比較すると、生後50ヶ月齢未満の群において、P. gulae 陰性の犬と比較して、A型およびC型のP. gulae fimA保有犬で有意な歯周病の重症度の悪化が観察された。50ヶ月齢以上100ヶ月齢未満の群では、P. gulae 陰性の犬と比較して、C型のP. gulae fimA保有犬で有意な歯周病の重症度の悪化が観察された。100ヶ月齢以上の群では、P. gulae 陰性の犬と比較して、全遺伝子型のP. gulae fimA保有により、有意な歯周病の重症度の悪化が観察された。そして、C型のP. gulae fimA保有により、どの月齢においても歯周病重症度を有意に悪化させることが確認された。 次に遺伝子型間での永久歯数を比較したところ、50ヶ月齢以上100ヶ月齢未満の群および100ヶ月齢以上の群において、完全な歯列(42本)を持つ犬の数はP. gulae陽性群では年齢とともに減少した。また、100ヶ月齢以上の群において、B型およびC型のP. gulae fimA保有犬で完全な歯列を持つ犬の数はP. gulae 陰性の犬と比較して有意に減少した。これらの結果は、P. gulae の存在と永久歯の数との間に有意な関連性があることを示していた。傷害を受けた歯周靭帯や歯槽骨は不可逆的であることからも、P. gulae、特にC型のfimAを保有するP. gulaeの感染防御は歯周病を防ぐために重要であることが強く示唆された。 第2章:塩化セチルピリジニウム、プラチナナノコロイドのP. gulae に対する効果検討 ヒト用の歯周病予防薬として利用されているプラチナナノコロイド(以下、Pt)および塩化セチルピリジニウム(以下、CPC)に着目した犬の歯周病予防薬の薬効解明を行った。 Pt製剤の作用機序は、炎症部位での活性酸素を除去し、局所の酸化ストレスを緩和・解消する。このことにより、活性酸素による歯周組織障害および炎症反応が緩和・抑制され、治癒が促進されると考えられる。またバイオフィルム溶解作用も認められているため、組織の修復過程で過剰な異物侵入や白血球浸潤、バイオフィルム下の細菌の定着を抑制する効果も人歯科医療では期待されてきた。また人歯科領域において、CPCは0.05%CPC溶液を歯周ポケット内の洗浄することで運動性桿菌、スピロヘータを減少させ、口腔洗浄液(含嗽剤)として使用することでプラークの蓄積の抑制や歯肉炎の改善に効果があるとの報告がある。 そこで、Pt、CPCのP. gulaeに対する増殖抑制効果、P. gulaeから産生される口臭原因物質(硫化水素およびメチルメルカプタン)に対する抑制効果、マクロファージ細胞における炎症反応に対する効果を試験管内で検証した。CPC+Pt含有製剤としてQ-nessマウスクリーナーを使用し、その推奨使用濃度とされる1%を実使用濃度として効果を評価した。CPC + Pt含有製剤の実使用濃度(1%)のP. gulaeに対する増殖抑制効果の検証では、培養後4時間で陰性対照群と比較して有意なP. gulaeの増殖抑制作用が認められた。CPC + Pt含有製剤の実使用濃度(1%)のP. gulaeに対する曝露によって、細菌からの硫化水素産生が陰性対照群と比較して有意に抑制された。さらに、P. gulaeを曝露したマクロファージ細胞(J774.1細胞)に実使用濃度(1%)のCPC + Pt含有製剤を処置した際のサイトカイン(IL-1β, IL-6, TNFα)産生量を測定した結果、CPC+Pt含有製剤曝露により陰性対照群と比較してTNFα産生の有意な減少が認められた。以上の結果より、CPC+Pt含有製剤は実使用濃度において、P. gulaeに対する増殖抑制、硫化水素産生抑制および抗炎症作用を有していることが示された。 第3章:CPC, Ptの一般飼育犬の歯周病に対する効果検討 歯周病および口臭の程度が軽度から中等度の犬15頭に対して、CPC+Pt含有製剤を1ヶ月間、自由飲水投与した。製剤を適用した前後での口臭スコア、歯垢付着度、歯周病スコア、口腔内総菌数、歯周病菌活性および口腔内チオール濃度の測定を実施した。歯周病菌活性は、BANA分解活性酵素検査(BANAテスト)により評価した。BANA分解活性酵素とは、歯周病菌(P. gulae、P. gingivalis、Treponema denticola、Tannerella forsythensis)をはじめとする嫌気性細菌から産生される酵素であり、この酵素を測定することで歯周病菌活性を評価した。その結果、CPC+Pt含有製剤投与の前後で歯周病態および口臭に大きな変化は認められず、すでに歯周病が進行している犬に対するCPC+Pt含有製剤の効果は低いことが示唆された。 次にCPC+Pt含有製剤の歯科処置に対する補助効果を調査する目的で、プリモ動物病院相模原中央に来院したスケーリング等の麻酔下歯科処置を実施した犬50頭について、歯みがきとCPC+Pt含有製剤を飲水投与した群(n=15)、歯みがきのみを実施した群(n=16)、CPC+Pt含有製剤のみを飲水投与した群(n=8)、無処置群(n=11)の4群に分け、歯科処置前、処置後7日、1および3ヶ月での歯肉炎指数、歯石指数、口臭、口腔内チオール濃度、歯周病菌活性を比較した。歯周病菌活性はN-ベンゾイル-DL-アルギニルペプチターゼの酵素活性をADplit®(アドプリット:共立製薬株式会社)により測定した。ADplitによる歯周病菌活性測定は、BANA分解活性酵素検査よりも動物病院において簡易的に実施ができ、P. gulaeから特異的に産生されるトリプシン様酵素であるN-ベンゾイル-DL-アルギニルペプチターゼの酵素活性を測定することができる。その結果、歯肉炎指数、チオール濃度および歯周病菌活性がCPC+Pt含有製剤投与群で無処置群と比較して有意に低下し、歯みがき等のデンタルケアと併用することでその効果は増大することが示唆された。歯科処置後に歯みがき等の物理的なデンタルケアとCPC+Pt含有製剤を組み合わせることによって、歯周病に対する十分な予防効果がみられることが証明された。伴侶動物の高齢化が進む現代において、歯周病罹患率はますます増加することが予想される。犬における歯科医療においてP. gulaeのfimA遺伝子型の検出と歯周病リスクの評価、および歯周病を予防するために日々のデンタルケア指導は良好な口腔内環境を維持する上で有用な手段であると思われる。 |
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学位名 | ||||||
学位名 | 博士(獣医学) | |||||
学位授与機関 | ||||||
学位授与機関名 | 麻布大学 | |||||
学位授与年月日 | ||||||
学位授与年月日 | 2023-03-15 | |||||
学位授与番号 | ||||||
学位授与番号 | 32701甲第174号 |