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アイテム
犬のてんかんの治療に関する研究:治療評価法の開発および迷走神経刺激療法の検討
https://az.repo.nii.ac.jp/records/5475
https://az.repo.nii.ac.jp/records/54750e1f0433-d83a-48b7-a792-da2cebd1013a
名前 / ファイル | ライセンス | アクション |
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Item type | 学位論文 / Thesis or Dissertation(1) | |||||||
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公開日 | 2022-06-21 | |||||||
タイトル | ||||||||
タイトル | 犬のてんかんの治療に関する研究:治療評価法の開発および迷走神経刺激療法の検討 | |||||||
タイトル | ||||||||
タイトル | Study of a treatment in dogs with epilepsy: Development of a treatment evaluation method and consideration of vagus nerve stimulation therapy | |||||||
言語 | en | |||||||
言語 | ||||||||
言語 | jpn | |||||||
資源タイプ | ||||||||
資源タイプ | thesis | |||||||
著者 |
平嶋, 洵也
× 平嶋, 洵也
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抄録 | ||||||||
内容記述タイプ | Abstract | |||||||
内容記述 | 【第1 章 緒言】 てんかんはてんかん発作(以下発作)を生じる慢性の脳疾患である。てんかんの治療評価には発作頻度が重要だが、その情報は飼い主からの報告に依存しているため、犬の発作頻度が過小報告されている可能性がある。過小報告は治療の失敗やてんかんの難治化を招く危険性があるため、犬の発作頻度を客観的に評価する方法が必要である。 てんかん罹患犬の20%-30%は、抗てんかん薬による内科療法に反応せず発作が十分に抑制できない薬剤抵抗性てんかん(DRE)という状態である。この状態の患者は重篤な発作によって死亡することや、安楽死が考慮されることがある。犬のDRE には内科療法に追加すべき新たな治療法が必要だが、獣医療では未発達である。そこで、人のDRE 症例に対する治療法として確立している迷走神経刺激療法(VNS)に注目した。VNS は皮下に植込んだデバイスにより左頚部の迷走神経を間欠的に刺激することで発作を抑制する。 本研究では犬のてんかんの治療を評価法および治療法の2 つの面から発展させるため、第2 章において治療評価法の開発を、第3 章では犬のDRE に対するVNS の検討を行った。 【第2 章:犬のてんかんに対する治療評価法の開発に関する研究】 第1 節:加速度を用いた犬のてんかん発作検出アルゴリズムの構築[目的]発作頻度を客観的に評価するには、自動で発作を検出するシステムである「てんかんモニタリ- 2 -ングシステム」が必要である。本研究では、加速度とマハラノビスの距離を使用し、発作を検出するめのアルリズム構築を目指した。 [方法]てんかん罹患実験犬3 頭から記録された強直間代性発作(TCS)の加速度データから「発作時の基準加速度データ」を、健常犬27 頭(実験犬16 頭と家庭犬11 頭)から記録された日常生活を送っている際に記録された加速度データから「非発作時の基準加速度データ」を作成した。その他のてんかん罹患実験犬4 頭から記録されたTCS の加速度データと上記2 つの基準加速度データとのマハラノビスの距離を求め、TCS の加速度データがどちらの基準加速度データに分類されるか検証した。 [結果・小括]4 頭から記録されたTCS の加速度は、全て発作時の基準加速度データに正しく分類された。したがって、加速度とマハラノビスの距離を用いることで、発作検出アルゴリズムの構築が果たされたと考えられた。 第2 節:発作検出アルゴリズムの性能評価 [目的]第1 章では、すでに記録された加速度を用いてアルゴリズムの検証を行ったため、実際に犬が発作を起こしている最中に発作が検出されるか検証することとした。第2 章では、アルゴリズムを搭載したてんかんモニタリングシステムの試作機を犬に使用し、その性能を評価した。 [方法]フェーズ1 では3 頭のてんかん罹患犬に試作機を使用し実現可能性試験を行なった。フェーズ2 では多施設共同研究によるアルゴリズムの性能評価を行なった。入院中、一次預かり中のてんかん罹患犬に試作機を使用し、その様子をウェブカメラで録画した。犬に実際に生じたTCS 回数を確認した。TCS 検出感度、TCS 誤検出率、陽性的中率、TCS が発生してからアルゴリズムがTCS を検出するまでの所要時間を評価した。 [結果・小括]フェーズ1 では3 頭中1 頭から3 回のTCS が生じ、3 回全て検出した。フェーズ2 では14 頭の犬に試作機が使用され、5 頭の犬から合計35 回のTCS が生じ、その内26 回を検出した。フェーズ1 と2 の結果を合わせると、TCS 検出感度は76.3%(29/38 回)であった。誤検出は1頭の犬に3 回生じ、TCS 誤検出率は0.026 回/24 時間、陽性的中率は89.7%、TCS 検出までの所要時間の中央値は11 秒であった。本アルゴリズムを用いることで、てんかんの治療評価法となるてんかんモニタリングシステムの開発が可能となるだろう。 【第3 章:犬における迷走神経刺激療法に関する研究】 第1 節:VNS の病理学的検討 [目的]VNS には出力電流や周波数といった変更可能な刺激条件が存在する。人には各条件の推奨設定があるが、犬の推奨設定は不明である。第1 節では、犬のVNS における刺激条件に対する1つの指標を提案するため、VNS を長期的に実施した犬の迷走交感神経幹に対する病理学的検討を行った。 [方法]てんかん罹患実験犬2 頭を用いた。迷走神経刺激装置植込み術を実施し、1 頭は出力電流を人の推奨設定である2.25 mA(実験犬1)、1頭は0.5 mA(実験犬2)とした。その他の刺激条件は同一とした。VNS 開始から1 年後に左右の頸部迷走交感神経幹に対する病理検査を実施し、実験犬1 と2 の病理所見を比較した。 [結果・小括]実験犬1 の左側迷走交感神経幹において、神経周囲性に顕著な線維増生と血管新生および軸索腫大が認められた。実験犬2 の左側迷走交感神経幹において、神経周囲性に軽度な線維増生と血管新生が認められ、軸索腫大は認めなかった。実験犬1、2 ともに右迷走交感神経幹に著変は認めなかった。出力電流を人と同様のレベルまで上昇させると、犬では軸索障害が生じる可能性が考えられた。 第2 節:VNS の長期的評価 [背景・目的]犬のDRE に対するVNS の有効性を示唆した短期的な臨床研究が過去に存在するが、てんかんに対する治療法の有効性を評価するには長期の観察が必要であり、過去の報告では不十分である。第2 節では、犬に対するVNS の長期的な有効性を評価した。 [方法]研究期間は2018 年10 月から2021 年10 月までの3 年間とした。麻布大学附属動物病院神経科に来院しDRE と判断されVNS が適応と考えられた症例を用いた。第1 節で用いた実験犬2 頭の治療経過も使用した。VNS 開始前をベースライン期間、VNS 開始後を観察期間とし、両期間におけるTCS および焦点起始発作の頻度を比較した。症例に関しては、VNS 開始前および研究終了時における焦点起始発作持続時間と犬および飼い主のQOL を比較した。この比較には専用に作成した視覚評価スケール(VAS)の結果を用いた。VNS に関連すると判断された副作用および術後合併症の有無も調査した。 [結果・小括]3 頭の症例が用いられ、合計5 頭の観察期間の中央値は12 ヵ月(範囲:7-24 ヵ月)であった。症例3 頭にて、TCS と焦点起始発作の発作頻度がベースライン期間と比較すると観察期間において減少し、減少率の中央値はそれぞれ47.1%と54.0%であった。実験犬2 頭は強直間代性発作のみを示し、発作頻度の減少は認めなかった。VAS を用いた焦点起始発作持続時間とQOL に関する評価では、症例3 頭の飼い主全員にてVNS 開始前よりも開始後にVAS の数値が短縮し、それらの改善を表していた。副作用として、刺激強度を上昇させた際に咳が全頭で生じた。術後合併症として、デバイスを植込んだ術創部における漿液腫が1 頭に生じた。本研究の結果、3 頭のDRE 罹患犬に長期的な発作頻度の減少、発作持続時間の短縮、犬と飼い主のQOL の上昇が認められた。副作用および合併症も軽度であったため、VNS は犬のDRE に対し長期的にも有効な治療法となることが期待された。 第3 節:VNS の治療効果予測に関する調査 [目的]第2 節の研究の結果、5 頭中2 頭にVNS の治療効果を認めなかった。したがって本研究では、第3 章第2 節の研究で使用した犬5 頭から定期的に記録した心拍変動(HRV)および脳波の結果、さらに各犬の個体情報からVNS の治療効果を予測することができないか予備的に調査した。 [方法]第2 節でVNS に反応した3 頭をレスポンダー、反応しなかった2 頭をノンレスポンダーと - 4 - した。HRV は植込み手術前とVNS 開始1−6 ヵ月後まで毎月、鎮静下脳波検査は術前とVNS 開始1、3、6 ヵ月後に実施した。HRV は5 分間記録した心電図を用い時間領域解析と周波数解析を、脳波は視覚的および定量的評価を行なった。レスポンダーとノンレスポンダー間でHRV および脳波所見の時間的推移の傾向および術前の測定値に差があるか、各犬の個体情報とVNS の治療効果の関連を調査した。 [結果・小括]HRV と脳波所見の時間的推移にて、レスポンダーとノンレスポンダー間で傾向の差は認めず、VNS 開始6 ヵ月後までの推移からはその後の治療効果を予測できない可能性が高いと考えられた。レスポンダーの術前におけるHRV、特にLF/HF の測定値は、ノンレスポンダーよりも低い傾向にあった。術前に評価したレスポンダーの脳波異常域は全て多発焦点性であり、ノンレスポンダーは局在性であった。術前におけるHRV および脳波所見の評価によるVNS の治療効果が予測できる可能性が示唆された。 【第4 章 総括】 本研究は犬のてんかんの治療を評価法と治療法の面から発展させるために行われた。 第2 章の結果、構築したアルゴリズムにより発作は検出可能であり、このアルゴリズムは実用化を十分に期待させる性能を有することが明らかとなった。アルゴリズムをさらに改善することで、将来評価法が完成するだろう。 第3 章では、第1 節にて犬にVNS を実施する際出力電流を人と同じ強度まで上昇させない方が良い可能性を認めた。その結果をもとに第2 節では臨床例にVNS を実施し、VNS は犬のDRE に対しても長期的に良好な治療効果を認めることが期待できると判明した。だが、その治療効果には個体差があった。第3 節では術前のHRV および脳波所見を評価することでVNS の治療効果が予測できる可能性が示唆された。今後もn 数を増やし、研究2 で判明した可能性の検証を行っていくことで、VNSがDRE 罹患犬に対する治療法として確立していくと考えられた。 |
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学位名 | ||||||||
学位名 | 博士(獣医学) | |||||||
学位授与機関 | ||||||||
学位授与機関名 | 麻布大学 | |||||||
学位授与年月日 | ||||||||
学位授与年月日 | 2022-03-15 | |||||||
学位授与番号 | ||||||||
学位授与番号 | 32701甲第170号 | |||||||
Rights | ||||||||
値 | 本論文の一部は以下のとおり公表されている。(Part of this dissertation has been published as follows.) Hirashima J, Saito M, Igarashi H, Takagi S, Hasegawa D. Case report: 1-year followup of vagus nerve stimulation in a dog with drug-resistant epilepsy. Front Vet Sci, (2021) 8: 708407. Hirashima J, Takagi M, Saito M. Heart rate variability and electroencephalogram as predictors of the therapeutic outcome of vagus nerve stimulation in dogs with epilepsy: a preliminary study. J Azabu Univ, (2022) 33: 27-40. |