@misc{oai:az.repo.nii.ac.jp:00005417, author = {髙村, 一樹}, month = {2021-04-05}, note = {【緒言】  心臓手術での人工心肺の使用は全身性炎症反応を引き起こし、術後の死亡率や合併症発生率を増加させる潜在的な要因となっている。そのため、炎症反応を抑制および制御することは生命維持、手術成績向上のために重要であると考えられる。近年、犬の心臓病においても人工心肺を用いた開心術が行われるようになり、予後の改善が可能となった。しかしながら、周術期炎症反応およびその制御に関する報告は少なく、不明な点が多い。  そこで本研究では、薬学的戦略により犬の人工心肺下僧帽弁修復術における周術期炎症反応の制御について検討を行った。まず研究1では、抗炎症薬として一般的に広く使用されているステロイド剤の影響を評価した。次に研究2では人工心肺を用いた僧帽弁修復術の炎症病態の解明のため、血中サイトカイン濃度測定および血中サイトカイン濃度の推移を調査し、抗炎症薬の投与タイミングを推察した。さらに、研究3ではステロイド剤とは別の作用により抗炎症作用が得られるフザプラジブナトリウムの効果を検討した。 \n【第1章】メチルプレドニゾロンが人工心肺を用いた僧帽弁修復術に与える影響に関する検討  [目的]人医療において、人工心肺時におけるコハク酸メチルプレドニゾロン投与は炎症反応を抑制し、患者の予後改善効果を期待して使用される。本章では、人工心肺下僧帽弁修復術を実施した犬におけるメチルプレドニゾロン投与の有用性を臨床的に検討した。  [方法]2016年11月から2017年3月までに僧帽弁修復術を実施した犬を回顧的に調査した。対象を手術中にコハク酸メチルプレドニゾロンを使用していた群 (MP群) と使用していなかった群 (non-MP群) に分類した。有用性の評価として、血液検査結果 (総白血球数および血漿中C反応性タンパク濃度) および術中イベント、術後合併症、術後30日死亡率を両群間で比較した。  [結果]MP群が24症例、non-MP群26症例であった。評価項目全てにおいて両群間で有意な差は認められなかった。術後30日以内に死亡した症例は3症例であった。全て急性呼吸不全が原因であり、MP群であった。急性呼吸不全の原因は横隔神経麻痺、肺水腫、急性呼吸窮迫症候群を疑う症例がそれぞれ1症例ずつであった。  [小括]本研究では、コハク酸メチルプレドニゾロンの有用性を明らかにすることはできなかった。術後30日以内に死亡した症例は全てMP群であり、死因は全症例急性呼吸不全であった。投与量や投与時期について更なる研究が必要である。 \n【第2章】人工心肺使用時の抗炎症薬投与時期を推察するための炎症関連因子測定  [目的]人医療では人工心肺を用いた心臓手術における抗炎症薬の投与時期は様々であり、投与時期は統一されていない。抗炎症薬の種類により作用発現時間は異なるため、投与時期によっては抗炎症作用が十分に得られない可能性がある。そのため、本章では犬の人工心肺装置を用いた僧帽弁修復術時の抗炎症薬の投与時期を推察するために総白血球数および血漿中C反応性タンパク濃度、血中サイトカイン濃度測定を行なった。  [方法]2019年5月から6月までに僧帽弁修復術を実施した体重5.0kg以上の犬を対象とした。総白血球数および血漿中C反応性タンパク濃度、血中サイトカイン (IL-6, IL-8, IL-10, TNF-α) 濃度の測定を術前、人工心肺中、大動脈遮断解除後自己心拍開始時 (リビート) 、手術終了後3、12、24、48、72時間に実施した。  [結果]組み入れ基準に満たした症例は5症例であった。総白血球数は術後3時間で術前と比較し高値を示し、血漿中C反応性タンパク濃度は術後24、48時間で術前と比較し有意な高値を示した。IL-6およびIL-10は術後3時間で高値を示したが、IL-8は有意な変動は示さなかった。TNF-αはすべての測定ポイントにおいて定量限界未満であった。  [小括]血中サイトカイン濃度は術前と比較し術後3時間から高値を示し、血漿中C反応性タンパク濃度は術後24、48時間で有意に高値となることが明らかとなった。人工心肺後から血中サイトカイン濃度が上昇し、総白血球数および血漿中C反応性タンパク濃度は術後も高値が続くことから、人工心肺開始前には抗炎症薬を投与し、術後も継続して抗炎症薬を投与することが望ましいと考えられた。 \n【第3章】人工心肺を用いた僧帽弁修復術におけるフザプラジブナトリウム水和物の抗炎症作用の評価  [目的]第1章において人工心肺を用いた開心術におけるメチルプレドニゾロン投与の有用性を明らかにすることはできなかった。人工心肺材料と血液との表面接触は過剰な好中球の活性化を引き起し、好中球エラスターゼなどの蛋白分解酵素を誘導する。これらの反応は呼吸不全や臓器障害の要因の一つとなっている。そこで、白血球遊走阻害薬であるフザプラジブナトリウム水和物を予防的に投与し、その炎症反応抑制効果を評価した。  [方法]2020年9月から11月までに僧帽弁修復術を実施した体重3.5kg以上の犬を対象とした。フザプラジブ群 (n = 9) とコントロール群 (n = 9) に振り分け、薬剤使用に対しては二重盲検法をとった。それぞれ、麻酔導入時にフザプラジブナトリウム水和物、0.9%生理食塩水を静脈内投与し、その後4日間連続投与した。血液サンプルとして総白血球数および血漿中C反応性タンパク濃度、IL-6、IL-8、IL-10測定を第2章と同様のタイミングで行った。総白血球数および血漿中C反応性タンパク濃度測定については術後96、120時間まで実施した。  [結果]患者背景および麻酔時間、人工心肺時間、大動脈遮断時間に差は認められなかった。また、総白血球数およびIL-6、IL-8、IL-10に有意な差を認めなかった。血漿中C反応性タンパク濃度は術後120時間後にコントロール群で有意に低値を示した。好中球/リンパ球比はフザプラジブ群で低値を示したものの、有意な差は認められなかった。血漿中フザプラジブナトリウム濃度は術後12時間で最低有効血中濃度を下回る症例がいた。  [小括]本研究では、人工心肺使用に対する抗炎症薬としてのフザプラジブナトリウムの有用性を明らかにすることはできなかった。重症疾患モデルに対しては臨床用量よりも高濃度での投与で薬効を示すことが確認されている。そのため、今後はフザプラジブナトリウム水和物の用法用量を検討する必要があると考えられた。 \n【総括】  本研究は犬の人工心肺を用いた僧帽弁修復術における周術期炎症反応の解明およびその抗炎症療法の確立を目的とした。  本研究の結果からはコハク酸メチルプレドニゾロンによる僧帽弁修復術後の総白血球数および血漿中C反応性タンパク濃度の抑制効果は認められなかった。今回の投与量では炎症反応を抑制することはできなかったと考えられる。投与量に比較検討や他の炎症指標の検討が必要である。また、術後30日以内死亡した症例は全てMP群であり、死因は全症例急性呼吸不全であった。しかしながら、術後合併症との関連性については症例数を増やし、更なる研究が必要である。  血中サイトカイン濃度は術前と比較し術後3時間から高値を示し、血漿中C反応性タンパク濃度は術後24、48時間で有意に高値となることが明らかとなった。人工心肺後から血中サイトカイン濃度が上昇し、総白血球数および血漿中C反応性タンパク濃度は術後も高値が続くことから、人工心肺開始前には抗炎症薬を投与し、術後も継続して抗炎症薬を投与することが望ましいと考えられた。  さらに、白血球遊走阻害薬であるフザプラジブナトリウム水和物の炎症反応抑制効果を評価した。本研究では、ベットサイドで評価可能な総白血球数および血漿中C反応性タンパク濃度に加え、血中サイトカイン濃度を測定したが人工心肺使用に対する抗炎症薬としてのフザプラジブナトリウムの有用性を明らかにすることはできなかった。血漿中フザプラジブナトリウム濃度は術後12時間で最低有効血中濃度を下回る症例がいた。そのため、今後はフザプラジブナトリウム水和物の用法用量を検討する必要があると考えられた。  本研究の成果は、犬の人工心肺使用時の血中サイトカイン濃度の推移が明らかとなり、その挙動を抑制するための抗炎症薬の投与時期の推察に貢献するものであると考えられる。今後は各種抗炎症薬の投与量の比較検討を行うとともに術後合併症や死亡率との関連性について研究を進める。}, title = {犬の人工心肺下僧帽弁修復術における周術期炎症反応抑制に関する研究}, year = {} }