@phdthesis{oai:az.repo.nii.ac.jp:00005397, author = {窪村, 亜希子}, month = {2020-11-23, 2020-11-20}, note = {下痢原性大腸菌はヒトに下痢等の腸管感染症を引き起こす大腸菌の総称であり、腸管出血性大腸菌(Shiga toxin-producing Escherichia coli, STEC)が代表的な分類として知られている。一方で腸管凝集性大腸菌(Enteroaggregative E. coli, EAEC)は、2012年に国立感染症研究所の感染症サーベイランスシステムに下痢原性大腸菌の新たな分類として追加され、分離同定の指標としてaggRなどの遺伝子が示された。EAECは海外の調査において、健康者からも高率で分離され、分離されたEAECのO抗原型には多様性があること、さらに他の下痢原性大腸菌分類に比べ薬剤耐性率が高いことなどが報告されている。しかしながら、国内ではEAECについて十分な調査がされていない。そこで本研究は、(1)2012年から2013年にヒトの便検体から分離されるEAECについて、その分離状況や病原性について調査を行い、(2)EAEC 40株についてO:H抗原型と薬剤耐性状況について確認を行い、(3)各下痢原性大腸菌分類の薬剤耐性状況の比較、およびインテグロンと薬剤耐性の関連性について検討を行った。  第1章においてはEAECの分離率とその病原性、およびO血清型について検討を行った。近年、地方衛生研究所においてもaggRを保有する大腸菌であるEAECが新たな下痢原性大腸菌として認知されるようになった。しかしEAECは、地方衛生研究所における食中毒等の調査において、消化器症状を示さない健康者の検便検体からも分離されるが、その分離率や病原性等については明らかになっていない。そこで、本研究ではEAECの分離率とその病原性、およびO血清型について検討することとした。  2012年から2013年までに川崎市健康安全研究所に搬入された検便検体のうち大腸菌様コロニーが分離可能であった1,029 名(健康者682名、有症者347名)を供試検体とした。1,029 検体のうち32検体からEAECが32株が分離され、分離率は3.1 %(健康者3.2 %、有症者2.9 %)であった。さらに32株のうち24株(75.0 %)は市販される43種類のO血清に該当しないことから、O血清型別不能(O-untypable, OUT)となった。細胞付着性試験ではEAEC 32株中16株(50.0 %)が凝集性付着を示した。さらに遺伝子検査の結果から、凝集性付着線毛遺伝子が32株中30株(93.8 %)で検出された。  以上により、EAECの健康者における分離率は他の下痢原性大腸菌よりも高値であり、またヒトがEAECを保菌している可能性も示唆された。しかしながら細胞付着性試験及び遺伝子検査結果から、EAECの病原性は否定できないため、EAECを下痢症等の病原微生物と特定するには、症状や疫学情報等と併せて検討する必要があると考えられた。また、多くの株がOUTとなったことから、国内の市販血清によりEAECのO血清型別を行う事は困難であると考えられた。  第2章においては、第1章でOUTとなったEAECの株を中心に遺伝子検査によりO抗原の特定を行い、さらにH抗原と薬剤耐性状況についても併せて検討した。Nataroらは下痢原性大腸菌の病原性はO:H抗原型に関連すると報告している。また海外の調査では、EAECの薬剤耐性率は他の下痢原性大腸菌に比べて高く、特にアンピシリン(ABPC)、ST合剤(SXT)、テトラサイクリン(TC)の耐性率が高いことが示されている。しかしながら国内でEAECのO:H抗原型や薬剤耐性状況を調査した報告は少ない。本研究では、OUTであったEAECのO抗原型について遺伝子検査により特定することでEAECのO:H型の流行状況について確認するとともに、薬剤耐性状況についても調査を行った。  2012年から2014年に川崎市内のヒト検便検体から分離されたEAEC 40株を供試菌株とした。結果から、EAECの主なO:H型はO131:H27, O99:H10および O176:H34であった。薬剤感受性試験では、供試した12薬剤のうち9薬剤で耐性株が認められ、ABPC(82.5 %), SXTおよびTC (52.5 %)の順に最も高い耐性率を示した。  EAECの主なO:H型(O99:H10, O131:H27およびO176:H34)はいずれも食中毒等患者からの分離報告があることから、病原性を有する可能性が示唆された。薬剤感受性試験からEAECの薬剤耐性パターンは海外の報告と同様であることが確認された。  第3章においては、第2章で確認されたEAECの薬剤耐性率について、他の下痢原性大腸菌の薬剤耐性率と比較を行った。さらに薬剤耐性に関与するインテグロンとその可動領域に含まれる薬剤耐性遺伝子の検出も併せて行った。インテグロンは、intI1により可動領域部分に薬剤耐性遺伝子を取り込むことが確認されている。さらにインテグロンを保有する大腸菌は非保有菌に比べ高い薬剤耐性率を示すことが知られている。しかしながら、ヒト由来の下痢原性大腸菌におけるインテグロン保有状況やその可動領域の遺伝子について調査した報告は少ない。そこで本研究では、下痢原性大腸菌の各分類について薬剤耐性状況を確認することで、第二章では検討できなかったEAECと他の下痢原性大腸菌の薬剤耐性率について比較を行うとともに、各下痢原性大腸菌についてインテグロン保有の有無やその可動領域部分から検出される薬剤耐性遺伝子と実際の薬剤耐性パターンについて比較検討を行った。  2012年から2014年までにヒトの検便検体から分離されたEAEC 40株、腸管病原性大腸菌 37株、STEC 83株、腸管毒素原性大腸菌2株の合計162株の下痢原性大腸菌を供試菌株とした。下痢原性大腸菌162株の薬剤感受性試験の結果、10薬剤のうち7薬剤でEAECは他の下痢原性大腸菌より高い耐性率を示した。遺伝子検査結果から162株のうち27株がインテグロンを保有していた。さらに薬剤耐性率の比較によりインテグロン保有株は、非保有株に比べ7薬剤で耐性率が有意に高いことが示された。しかしシークエンス解析結果から、可動領域部分に含まれる薬剤耐性遺伝子は主にaadAとdfrAの2種類のみであることが確認された。  以上より、EAECは他の下痢原性大腸菌に比べ高い薬剤耐性率を示すことが確認された。さらに下痢原性大腸菌においてもインテグロン保有株の方が7薬剤で耐性率が有意に高いことが示された。しかし可動領域に含まれる薬剤耐性遺伝子の種類は少なく、インテグロンが取り込んだ薬剤耐性遺伝子による薬剤耐性の表現型への影響は少ないことが示唆された。  以上、本研究は、ヒトから分離される下痢原性大腸菌のうち極めて知見が少なかったEAECの分離率やO:H型について明らかにし、さらに病原性を有する可能性についても示した。また同時に、各下痢原性大腸菌の薬剤耐性状況や検出したインテグロンと薬剤耐性との関連性についても示したことで今後の薬剤耐性菌研究に寄与する研究となった。}, school = {麻布大学}, title = {ヒト由来下痢原性大腸菌の病原性および薬剤耐性とインテグロンの関連性に関する研究}, year = {} }