@phdthesis{oai:az.repo.nii.ac.jp:00005392, author = {宋, 朦}, month = {2021-03-12, 2020-05-08}, note = {【背景と目的】  脊髄損傷(spinal cord injury)は小動物臨床において多く認められる疾患である。犬において、落下事故や腫瘍、椎間板ヘルニアなどにより生じる脊髄損傷は、炎症、神経組織の破壊により四肢、内臓麻痺などの機能障害を引き起し、生活の質を著しく低下させる。  電鍼療法(electro-acupuncture)は中国伝統医学の鍼灸療法に基づいて電気刺激を併用し、より高い効果を求める治療法である。犬脊髄損傷に対して四肢麻痺の改善など、高い有効性を示すことが経験的には認められている。しかし、その効果メカニズムについてはまだ完全に明らかにされていない。  本研究では、電鍼療法と神経活動との関連性に視点を当て、その効果メカニズムの一端を解明し、臨床応用ための科学的根拠を明確にすることを目的とした。第一章では、ラット脊髄損傷モデルにおいて電鍼療法による神経機能改善効果を客観的に評価する方法を確立した。さらに電鍼部位と脊髄の間の神経伝導路(坐骨神経)を遮断することにより、電鍼刺激の神経機能改善効果に対する影響を評価した。第二章では、電鍼療法の神経回路修復に対する影響を調べるため、神経順行性トレーサーを用いて脳から脊髄への皮質脊髄路(corticospinal tract, CST)の状態を調べた。そして、軸索再生に関与するサイトカインをタンパク質レベルで評価した。第三章では、足三里(ST36)の電鍼刺激が脛骨神経の神経刺激と同様に神経活動を誘発するかを調べた上で、電鍼刺激頻度の違いによる神経誘発電位の変化を評価した。 第一章 神経上行性伝達遮断の電鍼刺激効果に対する影響 【方法】  実験にはSDラット(オス, 7週齢)を用いた。初めに局所麻酔薬であるリドカインの反復投与による末梢神経に対する毒性の有無を確認するために、ノーマルラットをコントロール群(Control 群、4匹)と神経遮断群(Lido群、5 匹)に分け、Lido 群のラットにイソフルラン麻酔下で、ラットの両側坐骨神経の通過点(大転子と坐骨結節の間)にリドカイン(1%, 0.5mL)を1回/日、14日間注入した。実験の第1、3、7、10、14 日目に、Control群とLido 群において誘発筋電図検査(F波検査)を実施し(Lido群は、リドカイン投与直前に実施)、末梢神経機能を評価した。そして、14日目にリドカイン投与部位付近の坐骨神経を採材し、各群のラット1匹ずつを用いて HE 染色を行い、リドカイン投与部位付近の坐骨神経組織を観察した。  神経可逆遮断が脊髄損傷ラットの電鍼刺激効果へ及ぼす影響を観察する実験では、最初に体性感覚誘発電位(Somatosensory Evoked Potential, SEP)を記録するための脳波表面電極をラットの頭蓋骨に取り付けた。4-5日後に、すべてのラットにおいて第8-9胸椎の椎弓を切除し、脊髄硬膜を露出した箇所に10gのロッドを20mm上から落下させることで脊髄損傷を引き起こした。これらの脊髄損傷ラットをランダムに脊髄損傷群(SCI群、6匹)、脊髄損傷+電鍼刺激群(SCI-EA群、6匹)、脊髄損傷+神経遮断+電鍼刺激群(SCI-NB-EA群、6匹)に分けた。SCI-EA 群およびSCI-NB-EA 群では、脊髄損傷の直後から、イソフルラン麻酔下で、ST36にて刺激頻度1Hz、20分間/日で14日間電鍼刺激を実施した。神経遮断は、ラットの両足にリドカインを0.5mLずつ、毎日の電鍼刺激を行う直前に坐骨神経の通過点に注入することで実施した(SCI-NB-EA 群)。神経機能検査は、電気生理学的検査であるSEP検査および行動学的機能検査であるBBBテスト(Basso Beattie Bresnahan test)を、損傷前および損傷後1, 3, 7, 10, 14日目に実施した。 【結果と考察】  リドカインの14日間反復投与は、F波検査および組織学検査により、コントロールとの差は認められなかった。即ち、リドカイン反復投与は、坐骨神経に対して機能的、組織的に影響がないことが示唆された。したがって、リドカインを用いて神経を選択的かつ一過性に遮断する方法は、中長期(14日間)の研究に信頼できる方法と考えた。  脊髄損傷により、ラットの神経機能は著しく低下した。その後、各群ラットの感覚機能および運動機能は徐々に回復し、7日目からSCI-EA群のSEPの振幅がSCI群(P <0.01)およびSCI-NB-EA群(P < 0.01)と比較して有意に高かった。また、14日目のSCI-EA群のBBBスコアは、SCI群(P <0.05)およびSCI-NB-EA群(P <0.01)と比較して有意に高かった。しかし、SCI群とSCI-NB-EA群の間にはこの差異は認められなかった。以上の結果より、電鍼刺激は脊髄機能回復を促進すること、坐骨神経の神経遮断により、その回復効果が消失することが明らかとなった。以上のことから、電鍼療法のメカニズムとして神経上行性伝達が関連することが考えられた。 第二章 電鍼刺激の神経回路修復に対する影響 【方法】  実験にはラットの偽処置群(Sham群、8匹)、脊髄損傷群(SCI群、11匹)および電鍼刺激群(SCI-EA群、11匹)を用いた。Sham群では、第8-9胸椎の椎弓を切除し、脊髄硬膜を露出した後に、打撃を行わずに縫合した。SCI 群およびSCI-EA 群において、「第一章」と同じ方法で脊髄損傷モデルを作成した。SCI-EA群において、脊髄損傷モデルを作成後に電鍼刺激を14日間行った。  CST 観察実験では、脊髄損傷モデルを作成した14日後、大脳感覚運動皮質に、マイクロシリンジで10%ビオチン化デキストランアミン(biotinylated dextran amine, BDA)を注入した。更に14日後に、損傷部位後部の脊髄を採材し、そこに到達したCST線維をアビジン-ビオチン複合体(avidin-biotin-peroxidase complex, ABC)染色法により染色した。  軸索再生サイトカインに関する実験では、脊髄損傷モデルを作成した14 日後に、ラットの大脳感覚運動皮質および損傷部位の脊髄を採材し、ウエスタン・ブロッティング法を用いてNogo-A(Neurite outgrowth inhibitor A / Reticulon 4A)、PTEN(Phosphatase and Tensin Homolog Deleted from Chromosome 10)、STAT3(Signal Transducer and Activator of Transcription 3)のタンパク質定量測定を実施した。 【結果と考察】  Sham群の脊髄切片に、染色されたCST 神経線維が観察された。これに対して、SCI群およびSCI-EA群のCST線維染色像は、わずかな点状に散見されるのみであった。画像解析の結果では、SCI-EA群のCST線維染色領域は、SCI群に比べ多い傾向にあったが、統計学的有意差は認められなかった。  Nogo-A、PTEN、STAT3のタンパク質発現量は、大脳感覚運動皮質において、SCI群およびSCI-EA群とSham群を比較し、明らかな違いは認められなかった。脊髄損傷部位において、SCI群およびSCI-EA群がSham群に比べ、有意に少なかったが、SCI群とSCI-EA群間に明らかな違いは認められなかった。  以上のことより、2週間の電鍼刺激期間が脊髄損傷回復に効果が弱い可能性、大脳感覚運動皮質においてNogo-A、PTEN、STAT3が脊髄損傷および電鍼刺激に関与しない可能性、そして、脊髄損傷部位では正常な組織が大量に失われたことが実験結果に影響を及ぼす可能性などが考えられた。 第三章 電鍼刺激頻度の違いが神経活動に及ぼす影響 【方法】  実験の4-5日前に、すべてのラット(6匹)に体性感覚皮質誘発電位を記録するための電極を頭蓋骨に取り付けた。電極の埋め込み、電気生理学的検査および電鍼刺激は「第一章」と同じ方法で行った。体性感覚皮質誘発電位および脊髄運動ニューロン誘発電位の実験は、異なる日に実施した。  体性感覚皮質誘発電位実験および脊髄運動ニューロン誘発電位実験では、1Hzの脛骨神経刺激、続いて1Hz、2Hz、5Hz の電鍼刺激という順番でそれぞれ実施した。そして、SEP 振幅(体性感覚皮質誘発電位振幅)、F波出現率(脊髄運動ニューロン誘発電位出現率)および F/M振幅比(脊髄運動ニューロン誘発電位/M振幅比)を比較した。 【結果と考察】  脛骨神経刺激とST36電鍼刺激を比較する実験において、同じ刺激頻度(1Hz)でST36電鍼刺激と脛骨神経刺激を比べると、SEP振幅、F波出現率およびF/M振幅比には、有意な違いが認められなかった。  異なる刺激頻度によるST36電鍼刺激を比較する実験では、体性感覚皮質誘発電位振幅は、1Hzに比べ、2Hz(P <0.01)と5Hz(P <0.01)が有意に低く、2Hzに比べ、5Hz(P <0.01)も有意に低かった。脊髄運動ニューロン誘発電位出現率は、1Hzに比べ、2Hz(P <0.05)と5Hz(P <0.05)が有意に低かった。2Hzと5Hzの間に違いが認められなかった。一方、脊髄運動ニューロン誘発電位/M振幅比では1Hz、2Hz、5Hzの間に差は認められなかった。  ST36での電鍼刺激により引き起こされた体性感覚皮質および脊髄運動ニューロンの神経誘発電位と脛骨神経刺激により引き起こされたSEPおよびF波を電気生理学的パラメーターによって比較し、類似する誘発電位を記録した。これは、電鍼刺激が神経経路を活性化させることを示唆している。さらに、異なる刺激頻度のST36電鍼刺激における体性感覚皮質および脊髄運動ニューロンの神経誘発電位を比較し、刺激頻度を変化させると、体性感覚皮質および脊髄運動ニューロン神経の活性が変化することを明らかにした。 【総括】  本研究では電鍼療法効果に神経興奮伝達が重要な役割を果たしていることを明らかにした。電鍼刺激の軸索再生サイトカインに対する影響は、より長期間の観察、あるいは脊髄損傷中心部位より頭側および尾側の組織を用いて再検討する必要がある。末梢の穴位電鍼刺激が少なくとも一部は神経を介して中枢に伝達していることや刺激頻度の変化が神経活動に影響をもたらすことから、電鍼刺激は、神経回路の可塑性、さらに損傷された神経路の修復に繋がる可能性が考えられる。したがって、電鍼刺激を実施する際に刺激頻度も考慮すべきであることが本研究で明らかになった。しかし、神経活動の調節メカニズムは複雑であり、かつ未知なことが少なくないことから、刺激頻度の変化が電鍼刺激効果にどのような影響を及ぼすかは、さらなる研究が必要である。}, school = {麻布大学}, title = {ラット脊髄損傷モデルを用いた電鍼療法の神経機能改善効果メカニズムの検討}, year = {} }