@phdthesis{oai:az.repo.nii.ac.jp:00005349, author = {上原, 拓也}, month = {2020-10-28, 2019-10-07}, note = {【第1章】緒言  犬は、チワワのような小型犬からグレートデンのような超大型犬まで大きな体格差が存在する種である。小動物臨床の現場では、変性性僧帽弁疾患(以下DMVD)や気管・気管支軟化症(以下TBM)の罹患率および発現する臨床徴候は、体格の違いによって異なることを経験している。これらの疾患は中型および大型犬では罹患率が低く、小型犬では高いことが知られている。さらに小型犬ではDMVDの初発の臨床徴候は発咳であることが多く、背景に存在するTBMとの関連が指摘されている。一方、大型犬のDMVDにおける初発の臨床徴候は呼吸困難が多く、発咳は稀である。このように小型犬と大型犬では同一疾患にも関わらず臨床像は異なり、その原因は不明である。さらに別の角度から体格差に注目した先行研究では、体格によって心臓超音波検査の収縮機能指標に差異が存在することが明らかになっている。しかしながら、体格差が心臓内の血流動態や心臓のポンプとしての効率に影響するかまでは言及できておらず、そのような報告はこれまでない。そこで本研究は、これまでほぼアプローチされてこなかった犬の体格差に注目し、体格差の心臓および大気道の形態的および心内血流動態に及ぼす影響について検討することとした。 【第2章】研究1 犬の体格差が心臓と大気道の形態に及ぼす影響 〔目的〕過去には、単純X線撮影像による2次元情報をもとに心臓サイズや気管の形態について検討した報告がある。別の報告では、体格差による各主要臓器の重量について言及している。しかしながら、これらの研究では胸腔内臓器を3次元構造として捉え、その大きさや形態を正確に評価するには至っていない。さらに各臓器間の解剖学的関係性に関して検討した報告はこれまでない。そこで本研究の目的は、正常犬の心臓および大気道の形態を、コンピュータ断層撮影(Computed tomography:以下CT)画像を用いて3次元的に評価し、それらの形態の体格による差を検討することである。 〔方法〕2008年4月から2016年6月の間に麻布大学附属動物病院あるいはあいち犬猫医療センターにて胸部CT検査を実施した1歳以上の犬のうち、心臓および呼吸器疾患が認められない226頭の犬を本研究に使用した。本研究に組み込まれた犬は、体重ごとに小型犬、中型犬、大型犬の3群に分けた。医療用画像解析アプリケーションOsiriXを用いてCT画像から相対的な胸郭心臓容積比、気管椎体間距離比、第4胸椎レベルにおける気管径比、気管支分岐部角度を測定し、3群間で比較検討した。 〔結果および小括〕本研究では、体格差によって心臓と大気道の解剖学的特徴が異なることが明らかとなった。すなわち、小型犬は大型犬と比較して胸腔容積に対して心臓容積が大きく、気管から椎体までの距離が相対的に短いことが明らかとなった。さらに、小型犬では気管が楕円形を呈していることが解明された。このことは、左房拡大した際の臨床徴候の発現の違いに繋がる可能性があるが、これを検証するには更なる研究が必要である。 【第3章】研究2 左房拡大を伴う僧帽弁逆流モデル犬のCT画像解析による左房の形態学的評価 〔目的〕DMVDに続発して左房が拡大した場合、左房の形態がどのように変化するかを3次元情報から評価した研究はこれまでない。そこで本研究では、小型犬では気管椎体間距離が短いという研究1の結果を踏まえ、左房拡大が特に背側方向に生じた場合、気管への圧迫がより顕著に生じやすく、それが発咳のリスクになり得ると推察し、左房拡大の形態について評価することとした。 〔方法〕研究1に組み込まれた心拡大を伴わない正常ビーグル犬5頭を正常群とし、実験的に作成した慢性僧帽弁逆流モデル犬4頭をMR群として本研究に使用した。医療用画像解析アプリケーションOsiriXを用いてCT画像を解析し、気管椎体間距離比、第4胸椎レベルにおける気管径比、気管支分岐部角度および左房径を測定し、2群間で比較した。 〔結果および小括〕MR群の左房は、心臓の長軸方向すなわち背側方向に拡大していることが明らかとなった。左房の拡大により気管は圧迫され、さらには左房が気管を背側に挙上することで気管と椎体までの距離が短縮することが解明された。以上のことから、研究1で見出された解剖学的特徴をもつ小型犬では、左房拡大を生じた場合発咳を誘発しやすいと推測された。 【第4章】研究3 体格差が心内血流動態に及ぼす影響 〔目的〕近年、心臓超音波検査にて非侵襲的に左室内の血流動態を解析することで心機能を評価する血流可視化技術 (以下VFM)が開発された。VFMは、カラードプラ画像とスペックルトラッキングデータを同時に解析することで、左心室内の血流情報を可視化するものである。医学領域では、心機能や心臓容積の左室内血流動態に及ぼす影響についていくつか研究がなされているが、小児と成人を比較したものであり、成長による影響や心拍数の制限から真の心臓容積の影響については解明されていない。そこで本研究では、犬における体格差の心内血流動態に及ぼす影響を検討することとした。 〔方法〕麻布大学で飼育している実験ビーグル犬および本研究への協力に同意した飼い主が飼育している臨床上健康な成犬を本研究に使用し、体重により小型犬群および中型・大型犬群の2群に分けた。VFMを搭載した心臓超音波診断装置(proSound F75 PremierおよびLISENDO 880;日立製作所)を使用し、VFMを用いてエネルギー損失(以下EL)、渦度、左室内圧差を測定し、2群間で比較検討した。 〔結果および小括〕小型犬では、ELが中型・大型犬と比較し高値であった。中型・大型犬におけるELと渦度は強い相関関係を示したが、小型犬では相関が認められなかった。このことから、小型犬は体格の大きな犬とは異なるエネルギー効率を呈し、非効率的な血流を生み出していることが明らかとなった。しかしながら、この結果が疾患の発生や病態にどう影響するのかは不明であり、今後のさらなる検討が必要であると考えられた。 【第5章】総括  本研究は、犬における体格差が形態および心内血流動態にどのように影響を及ぼしているかを明らかにすることを目的とした。  本研究の結果から、犬では体格が小さくなるにつれて胸腔容積に対して心臓容積が大きいことが明らかとなり、加えて小型犬では気管は楕円形を呈し気管から椎体までの距離が相対的に短いことが明らかとなった。このような小型犬の気管の解剖学的特徴は気管・気管支軟化症の発症リスクに関連している可能性があると考えられた。しかしながら、これらの可能性を立証するためにはさらなる研究が必要であると考えられた。  続いて本研究は左房が拡大した場合の形態変化を検討し、左房拡大の大気道の形態に及ぼす影響も合わせて評価した。その結果、左房拡大は水平方向よりも垂直(背側)方向に拡大していることが明らかとなり、気管の圧迫・挙上といった発咳を誘発する要因を生み出している可能性が示唆された。  最後に、体格差の心内血流動態への影響を検討した。その結果、小型犬では著しく心内のエネルギー損失が大きいことが明らかとなった。中型および大型犬では、エネルギー損失は渦の形成や心機能指標と関連していたのに対し、小型犬では関連性が認められなかった。そのため小型犬では大きな体格の犬とは異なる特有の血流動態を呈していると考えられた。したがって、今後の展望としては小型犬の非効率的な心内血流動態と疾患の関連性を解明していく必要があると考えられた。}, school = {麻布大学}, title = {犬の体格差が心臓と大気道の形態および心内血流動態に及ぼす影響}, year = {} }