@misc{oai:az.repo.nii.ac.jp:00003839, author = {小野, 晋}, month = {2014-04-16}, note = {第1章. 緒言  小動物領域における頭蓋内病変の診断法は、神経学的検査、脳脊髄液検査およびcomputed tomography(CT)やmagnetic resonance imaging(MRI)検査法などの画像診断法を組み合わせて行っているのが現状である。しかし、これらの検査法だけでは、特に頭蓋内病変の確定診断を行うことは困難である。Koblik(1999)らは、犬の頭蓋内病変50例について組織学的検査を行ったところ、MRIによって神経膠腫と診断された4例は、病理診断では脳軟化や非化膿性脳炎などの非腫瘍性病変であったと報告している。医学領域においても同様の報告があり、MRIまたはCT検査によって頭蓋内の悪性腫瘍や原発性脳腫瘍と診断された病変に対して、病理組織学的検査を実施した結果、10%以上が非腫瘍性病変であったと報告している。したがってCTおよびMRI検査所見のみから頭蓋内病変の確定診断を行うことは危険であり、治療方針の決定には生前の病理組織学的検査による確定診断の必要性が強く求められている。  そこで、医学領域においては、CT画像上で計測した頭蓋内病変の座標を基にして頭蓋内に正確に針を挿入し生検を行う定位脳生検法が確立されており、頭蓋内病変の確定診断に積極的に用いられている。また、海外ではいくつかの小動物用CT定位脳生検装置が開発されている。しかし、これらの装置においては、侵襲性の高い頭部固定法を用いており、さらに犬種間の相違や病変部位の違いが脳生検の難易度や精度に悪影響を与えるなど、実用性に関していくつかの問題点が指摘されている。そこで、本研究では、動物への侵襲性が少なく、再現性があり、生検精度が高く、いずれの犬種にも応用可能な小動物専用の定位脳生検装置の開発を目的とした。 第2章. 頭部固定法の検討  始めにヒトで応用されている脳生検装置を用いて動物の頭部固定を行い、動物の頭部を固定するための必要条件と問題点について検討した。イヌやネコはヒトと比較して頭蓋が小さく、さらに頭部の向きが90°異なることから、ヒトと同様の方法で小動物の頭部を固定することは困難であった。そこでピン固定法、スタンド固定法、台固定法の3方法による頭部固定法を考案し、各々の固定法を用いて正常ビーグル成犬の頭部を固定し、固定の強度、座標計測画面の画質および術野の確保について検討した。  ピン固定法は座標計測画面に対する金属アーティファクトの影響が著しく、さらに術野の確保が困難であった。したがって、定位脳生検に対する頭部固定法としては不適であると判断された。スタンド固定法では固定の強度が不十分であったが、頚部および体幹部の固定を併用することにより一部応用可能であると判断された。台固定法では頭部側面をタオルで覆うことにより術野の確保が困難となり、特に小型犬や猫に対する応用性が低いものと判断された。  以上のことから小動物の定位脳生検における頭部固定法としては、スタンド固定法を基本形として上下顎部を固定し、頚部および体幹部の固定を併用する事が重要であると判断された。 第3章. 試作装置の作成  小動物用定位脳生検用の試作装置を作成し、様々な犬種に対する応用性および本装置における針先の位置精度について検討した。第2章の結果から、試作装置は顎部の固定と頚部および体幹部の固定を併用する固定方法が望ましいと判断された。そこで、バイトブロックおよび歯科用印象材を用いて上顎を固定し、吸引式固定クッションを用いて頚部および体幹部を固定する構造とした。  作成した試作装置が異なる犬種間に対応可能であるか検討するため、供試動物として頭蓋冠の異なるチワワ、ポメラニアン、シーズー、ミニチュアダックスフント、ビーグル、ゴールデンレトリーバーを用いて、固定の強度、座標計測画面の画質および術野確保について検討した。その結果、今回使用した全ての犬種に対して、十分な強度の固定が可能であった。また、座標計測画面の画質および術野の確保に関して特に問題は認められなかった。  次に脳生検用ファントムを用いて針先の位置精度について検討した。ファントム内部に存在する24箇所の標的に針を挿入し、標的と針先の距離を計測して脳生検における誤差を計測し検討した。その結果、試作装置における生検誤差は2.6mm ± 0.7mmであり、頭蓋内病変の組織採取に対して十分な精度を有するものと判断された。  以上のことから定位脳生検装置の試作装置を用いることにより様々な犬種に対して比較的精度の高い脳生検を行うことが可能であると判断された。 第4章. 脳生検の安全性および組織採取能に関する検討  正常ビーグル犬6例に対して脳生検を行い、脳生検の安全性および組織採取能について検討した。  供試動物を全身麻酔下で頭部を生検装置に固定し、CT撮影を行い目標部位(大脳5例、小脳1例)の3次元座標を計測した。計測した3次元座標に基ずいて頭蓋内に生検針を刺入し、組織採取を行った。頭蓋内への針の刺入および組織採取による影響を観察する目的で術後一週間、一般身体検査および神経学的検査による経過観察を行った。経過観察期間の終了後にMRI検査および生検部位の病理組織学的検査を行った。一週間の経過観察期間中、6例全てにおいて一般身体検査および神経学的検査上では特に異常は認められなかった。しかし、頭部MRI検査では生検部位に軽度の出血および浮腫が認められた。生検部位の病理組織学的検査では出血、神経細胞壊死、神経突起の軸索の膨化およびグリア細胞の反応を認めたが、臨床上重大な障害は認められなかった。したがって、正常犬に対する脳生検の安全性は十分にあるものと判断された。また、本装置によって採取した組織から組織切片を作成したところ、病理組織学的診断が十分に可能であった。したがって、組織採取能も十分にあるものと判断された。 第5章. 放射線治療への応用性に関する検討  第3章で作成した試作装置に改良を加え,脳腫瘍の放射線治療に応用可能な構造とし、照射野の位置決め精度および固定の再現性に関する検討を行った。  始めに放射線治療ファントムを用いて、照射野の位置決め精度について検討した。ファントムを装置に固定後CT撮影を行い、ファントム内部の標的の3次元座標を計測した。計測した座標を元に標的に照射中心を合わせ、照射野の位置決め画像を撮影した。撮影された画像上で照射中心と標的との距離を計測し、照射野の位置決めの誤差とした。10個のファントムを用いて誤差を計測した結果、照射野の位置決めの誤差は1.4mm ± 0.7mmであった。次に試作装置を用いて脳腫瘍に対する放射線治療を行った4例について、固定の再現性を検討した。放射線治療第一週と第二週以降の照射野の位置決め画像を比較し、ズレを計測した結果、2画像間の誤差は3.7mm ± 1.5㎜であり、若干の改善の余地はあるものの、脳腫瘍に対する放射線治療を行うにあたり十分な精度を有するものと判断された。  以上の結果から、定位脳生検装置の試作装置は脳腫瘍に対する照射野の位置決め装置としても十分応用可能であると判断された。 第6章. 小動物用定位脳生検装置の作製  試作装置において認められた問題点を解決し、さらなる精度および実用性の向上を図るため、新たに恒久型の定位脳生検装置を作製し、生検の精度、照射野の位置決め精度および固定の再現性に関する検討を行った。  これまでの試作装置は木製であったことから歪みが生じ、精度低下の原因となっているものと考えられたため、アクリル樹脂およびアルミを用いた装置を作製した。装置の前方部を構成する固定枠とバイトブロックは金属アーティファクトの発生を抑制するために全てアクリル樹脂製とした。装置の後方部は、装置全体の軽量化を計るためアルミ製とした。また、頚部の安定性を高めるため頚部固定部に傾斜台を設置した。さらに脳生検装置のZアームを10cmに延長し、生検可能な範囲を広げるとともに、外径1.0mm、1.5mm、2.0mmの生検針に対応した生検針把持器を作製し、実用性を向上させた。  本装置における生検の精度および照射野の位置決め精度について、ファントムを用いて検討を行った。また、本装置を用いて脳腫瘍の放射線治療を行った2例について固定の再現性に関する検討を行った。その結果、生検の誤差は1.0mm ± 0.5mmであり、試作装置と比較してさらに精度の向上性が認められた。照射野の位置決めの誤差は1.8mm ± 0.8mmであり若干の精度低下を認めたが、再現性に関する誤差は2.1mm ± 0.5mmであり、これまでの試作装置と比較して精度の向上が認められた。  以上の結果から、今回新たに作成した恒久型装置はこれまでの試作装置と比較して精度および実用性の面でその応用性が十分にあるものと判断された。  以上の結果から、開発した小動物用定位脳生検装置は、全ての犬種および猫種に対して、精度および安全性の高い脳生検を行うことが可能であり、その小動物臨床への応用性は十分にあるものと判断された。また本装置を使用した頭蓋内座標計測法を応用することによって、脳腫瘍に対する高精度の放射線治療も可能であり、本装置は脳腫瘍の病理組織学的診断および放射線治療に対する有用性が十分にあるものと判断された。}, title = {小動物用定位脳生検装置の開発に関する研究}, year = {} }