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アイテム
アカゲザル(Macaca mulatta)を用いた行動神経学的研究 : 交感神経活性と学習達成度の連関
https://az.repo.nii.ac.jp/records/3827
https://az.repo.nii.ac.jp/records/382767f92848-5526-4bfe-b7ed-4f92358d2155
名前 / ファイル | ライセンス | アクション |
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Item type | 学位論文 / Thesis or Dissertation(1) | |||||
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公開日 | 2013-11-26 | |||||
タイトル | ||||||
タイトル | アカゲザル(Macaca mulatta)を用いた行動神経学的研究 : 交感神経活性と学習達成度の連関 | |||||
言語 | ||||||
言語 | jpn | |||||
資源タイプ | ||||||
資源タイプ識別子 | http://purl.org/coar/resource_type/c_46ec | |||||
資源タイプ | thesis | |||||
著者 |
内山, 秀彦
× 内山, 秀彦 |
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抄録 | ||||||
内容記述タイプ | Abstract | |||||
内容記述 | 種々の発達障害や精神疾患の増加、またキレる子供などが社会的な問題になっている。これら認知、学習、またある種の行動障害は、医学的に脳の高次機能障害と理解されているが原因は未だ明らかとなっていない。 このような情動、学習、行動に関わる分野において脳機能に限定された認知的研究は多々みられるが、最終的な出力経路である末梢神経系に関わる報告は少ない。 そこで本研究は、特に交感神経系に着目し、2頭の若齢雄アカゲザルの学習課題遂行に伴う自律神経活性の評価から、脳機能と交感神経活性との関連性を考察した。 第1章 遅延見本合わせ課題(DMTS:Delayed Matching To Sample)の適用 ―塩酸メチルフェニデート(MPD)による内的変化の測定― 注意欠陥多動性障害(Attention deficit hyperactivity disorder, ADHD)は注意の欠如、多動性、衝動性といった行動特性を示す。薬物療法ではドーパミントランスポーターアゴニストである塩酸メチルフェニデート(MPD)が主に用いられ、脳内のドーパミン(DA)やノルアドレナリン(NA)濃度を上昇させ、注意の向上や行動の改善をもたらす。DAやNAに代表される脳内カテコールアミンは、学習・記憶の形成過程に関与することが知られており、ADHDにおいてもこれらの神経伝達物質の欠損、調節不全との関連が疑われている。 そこで第1章では、落ち着きのないADHD類似性行動を示す2頭の若齢雄アカゲザルに対し、遅延見本合わせ課題(DMTS)を遂行させ、正解率(Correct Ratio, CR)および提示刺激に対する反応時間(Reaction Time, RT)を測定した。また、0.1-0.5mg/kgのMPD投与と共に血中カテコールアミン濃度の測定を行い、学習能力向上の過程における交感神経の変化とともに、注意、記憶との関連を明らかにすることを目的とした。 DMTSにおける遅延間隔は学習の達成を妨げ、CRは低下した。しかし、0.3、0.4、0.5mg/kgのMPDは有意にCRを上昇させ(P<0.01)、RTにおいても減少傾向が示し、注意・記憶の向上が示唆された。また、この際、0.3mg/kgのMPD投与では有意な血中NA濃度の上昇が見られた(P<0.05)。 学習はある刺激に対する反応の繰り返しから、個体が有利に働くための新しい反応を獲得していく過程と結果である。一方、適度な緊張下において、生体は神経系、内分泌系を賦活化させ、外部からの刺激に適応しようとすることは一般にストレス反応として知られており、まさに学習過程もその状態にあるといえる。この学習過程と生体反応の指標としての血中NA濃度を見た場合、より効率よく学習、記憶を進めていたとも考えられた。 このように学習に困難を来すADHD症状に着目し、末梢カテコールアミン濃度を交感神経活性の指標として比較した第1章では、脳内の活性が学習行動に大きく影響を及ぼし、一方で交感神経系の賦活は学習の達成に十分条件であると考えられ、その活性の結果として得られる学習達成との連関を示唆する結果となった。 第2章 心拍変動による自律神経活性の評価 第1章の結果を受け、脳活動を伴う学習遂行中の経時的な交感神経変動を捉える必要性が考えられた。交感神経活性の指標として血中カテコールアミンを用いた場合、その半減期は極めて短く、またカテーテル等による定期的な血液採取も考えられるが、侵襲的かつ行動制限を強い、学習課題遂行といった行動に自由度をもつ場合の測定は困難になる。そこで第2章では、交感神経のリアルタイムの変動を捉えるため、ホルター心電図を用いた心拍変動解析を試み、単純な弁別学習(DL)とDMTSの2種類の学習遂行中の自律神経変動の比較から、学習達成度と交感神経活性との関連性を精査することを目的とした。 アカゲザルによる心拍変動解析の報告はなく、またサルを対象とした心電図測定の報告も少ない。これらの報告では、動物の扱いの困難さから麻酔などを用いて心電計を装着させてきた。しかし拘束によるストレスや麻酔薬の影響から信頼性に欠ける面があった。そこで本研究では心電計装着用のジャケットを作成、無拘束でホルター心電計の適用を馴致し、学習課題施行中における心電図測定を可能とした。 心拍変動は交感神経および副交感神経由来の低周波成分(LH)と、副交感神経(心臓迷走神経)由来の高周波成分(HF)からなり、その比であるLF/HFが交感神経活動の指標として用いられる。この周波数帯域は動物種によって異なることから、本研究では長時間の心電図測定を行い、これまで明らかにされていなかったアカゲザルの周波数帯域が、LF成分0.15-0.30Hz、HF成分0.30-0.45Hzであることを明らかにした。 この帯域を基に各学習課題遂行中のLF/HFを求めた結果、学習課題を問わずその遂行において有意な上昇が示された(P<0.01)。またその変動は学習課題間で異なり、DMTSにおいて経時的に減少傾向が見られ、CRとLF/HFでは有意な負の相関が示された(rs=-0.74, n=24, P<0.01)。さらにNAは学習達成度を示すCRと正の相関を示し(rs=0.61, n=19, P<0.01,)、アドレナリン(AD)(rs=0.79, n=19, P<0.01,)およびDA(rs=0.74, n=19, P<0.01,)は負の相関を示した。 これらのことから、困難な学習の遂行など交感神経の賦活化が過剰な場合、いわゆるストレス反応となり副腎髄質からのADやDA分泌が亢進し、結果として学習達成度、課題に対する緊張感あるいはモチベーションを減退させることが明らかとなった。 第3章 Go No-Go型選択的注意課題の適用 ―チロシン(Tyr)投与における自律神経変動の測定― 行動的に問題を抱える障害には、前頭前皮質における行動選択や抑制の調節不全、つまり我慢することに問題があるとも考えられる。第1章で用いたMPDは、直接的かつ即効的にDA、NAの増加を促し、多動、衝動性を改善させると考えられているが、効果の持続時間は短く、副作用の問題、さらには12歳以上の年少児には行動面の高い改善は望めないといった対象の限定性も存在する。 そこで第3章では、カテコールアミン類の前駆物質となるチロシン(Tyr)に着目した。Tyrは経口投与によって脳内のカテコールアミン濃度やその合成が増加することが報告されており、行動の選択と抑制を伴う課題遂行のなかで、このTyr投与による自律神経変動と学習達成度との関連性を明らかにすることを目的とした。 アカゲザル2頭にGo No-Go型選択的注意課題を適用させ、Tyr(100mg/kg)を経口投与し、無投与と比較した。また学習遂行中の心電図を記録するとともに、課題遂行直後に採血を行い、血中カテコールアミン濃度を測定した。その結果、No-Goという行動抑制反応で有意にその正解率を低下した。しかしTyrの投与は有意にその正解率、すなわち行動抑制機能を向上させた。また交感神経活性指標となるLF/HFはTyrの投与によって有意に低下し、その経時的変動は一定のレベルを持続させた。さらにこのとき、AD濃度が有意に低下した(P<0.01)。 これらのことから、Tyrは脳内のNA濃度の低下を抑制し、覚醒や適度な緊張を持続させるとともに、過剰な交感神経系の賦活化によるストレス反応を抑制させ、相乗的に学習能力を向上さたと考えられた。 一方、学習に影響を及ぼす適度な交感神経活性は、まさにこのTyr投与下で起こっていたと推察された。LF/HFは学習遂行によってTyr投与の有無に関わらず有意に上昇したが、その上昇率はTyr投与下では1.2倍と軽微なものであった。またNA/ADの相関図で示した結果、Tyr投与下においてNAは500-800pg/ml、ADは200-400pg/ml付近に位置し、これらの範囲を逸脱したNAの上昇はADの急激な上昇を伴った。したがって、このわずかな上昇範囲が学習に最適な交感神経活性であると考えられた。このように、Tyrは前頭前野を中心とした脳機能の活性化を示唆させ、また適切なレベルの交感神経活性は相乗的に学習達成度の向上をもたらすことを明らかにした。 総括 MPDおよびTyrは、前頭前野を中心とした脳内のDA、NA作動性神経に作用し、注意、記憶、行動の抑制機能を亢進させるとともに学習達成度を向上させたと推論した。このとき交感神経活性の上昇がみられ、学習の達成には脳機能の活性とともに適度な交感神経系の賦活化といった中枢と末梢の連関が重要な要因になることが示唆された。この学習における必要十分な交感神経活性とは、副腎髄質からのAD分泌を過剰に促さない適度なレベルの賦活化であり、過度な賦活化は学習能力を減退させることが明らかとなった。 また、脳細胞および脳機能は幼少期に著しく発達し、この時期における適切な食事摂取は極めて重要なものであると考えられる。本研究におけるTyrは、投与量などさらなる検討が必要であると思われるが、ADHDや行動に問題を抱える内因性精神疾患、さらに鬱病といったストレスから生じる種々の神経症に対しても予防的、療法的効果の面で高い有用性があると考えられた。 このように、本研究における若齢アカゲザルの学習遂行に伴う自律神経変動は、脳と行動、学習に及ぼす交感神経系の働きを明らかにし、今日問題とされる精神疾患、行動障害などを考えるうえで一助になると考えられる。 |
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学位名 | ||||||
学位名 | 博士(学術) | |||||
学位授与機関 | ||||||
学位授与機関名 | 麻布大学 | |||||
学位授与年月日 | ||||||
学位授与年月日 | 2005-03-12 | |||||
学位授与番号 | ||||||
学位授与番号 | 甲第21号 | |||||
著者版フラグ | ||||||
出版タイプ | AM | |||||
出版タイプResource | http://purl.org/coar/version/c_ab4af688f83e57aa |