@misc{oai:az.repo.nii.ac.jp:00003813, author = {平井, 徳幸}, month = {2014-04-16, 2014-08-19}, note = {1936年に、Selye, H.によって提唱されたストレスの概念は、その後に修正が加えられて、現在では、「ストレスを招来する外的刺激(ストレッサー)が加わった場合に生じる体内の歪みの状態を指している」とされている。生体にストレッサーが作用すると、種々の内分泌ホルモンや脳内物質の分泌が亢進することは周知の事実である。他方、ビリルビンは、生体内で発生した過剰な活性酸素を消去し(Stocker, R., et al.: Science, 235, 1043, 1987)、酸化分解されてバイオピリンとなり、尿中へ排泄される(Yamaguchi, T., et al.: J. Biochem., 116, 298, 1994)。このバイオピリンは、外科手術をはじめとした種々の要因による酸化ストレス下で、その強さに応じて尿中への排泄量が変化することが報告されている(Shimoharada, K., et al.: Clin. Chem., 44, 2554, 1998)。しかしながら、バイオピリンの前駆物質であるビリルビンの由来については報告されておらず、24時間ウルトラマラソンランニングのような生理学的限界に近い有酸素運動下での酸化ストレスに関する医学的知見も少ない。  そこで本研究では、24時間ウルトラマラソンランニング選手を対象として、酸化ストレスマーカーである尿中バイオピリンの動態と各種の臨床検査値との関係について検討し、バイオピリンの前駆物質が、赤血球の生理的な破壊の結果生じた血中ビリルビンであることを示唆する結果を得た。また、尿中バイオピリンの測定意義についても言及した。  その研究成果の概要は以下の通りである。 1. 材料及び方法  2003年11月8日から9日に亘って催された第19回東京学芸大学実験ランニング(24時間ウルトラマラソンランニング)の参加者の内で、本研究への協力に文書による同意が得られた15名(男性12名、女性3名)のボランティア(31-64歳 ; 平均44±9歳)を被験者とした。なお、倫理面でこれら被験者のプライバシーには十分配慮した。被験者は、24時間不眠不休で630.92mの大学構内を周回したが、その間、給水、給食、休息は随時可能とした。  尿及び血液は、競技スタート前(午前9時迄)、スタート16時間後、ならびに競技終了直後(スタート24時間後)に採取した。血液学的検査は採血当日に実施し、生化学的検査は-20℃に保存した血清を用いて採取の翌日に実施した。尿は遮光ポリチューブに分注し、測定時まで-30℃で凍結保存した。尿中のバイオピリンの測定は、バイオピリン測定用ELISAキット(シノテスト)を用いて実施した。尿中バイオピリン値はビリルビンの1μmol/lに相当する濃度を1単位とし、クレアチニン値で尿量誤差補正した値を用いた。その他の臨床検査項目については、各項目ごとに汎用されている一般的な方法に従って測定した。得られた検査値の表示は平均値±標準誤差とし、運動量に伴う各成分間の比較には対応のあるt検定を用い、有意水準は5%とした。 2. 結果及び考察 1) 24時間ウルトラマラソンランニング選手の各種臨床検査値  白血球数(×10^3μl)は、競技前に平均5.7±1.26であったが、競技終了後には2倍を超す12.2±1.43に増加した。しかし、競技前及び競技終了後における赤血球数(×10^6μl)はそれぞれ4.52±0.42、4.58±0.37、ヘモグロビン濃度(g/dl)はそれぞれ14.09±0.74、14.01±0.84であり、これらには競技の前後で有意差を認めなかった。他方、総ビリルビン値(mg/dl)は、競技前に0.61±0.25、競技終了後に1.45±0.68であり、走行距離(運動量)に伴って増加することが確認された。これらの結果から、後述するように、過激な運動によって尿中への排泄が増加したバイオピリンの前駆物質であるビリルビンは、24時間ウルトラマラソンランニングによる赤血球の機械的な破壊で生じたヘモグロビンに由来するものではなく、寿命を終えた赤血球の生理的な破壊で生じたヘモグロビンに由来すると考えられた。すなわち、運動によって活性が亢進したヘムオキシゲナーゼがこのヘモグロビン由来のヘムに作用した結果、ビリベルジンの生成が増加し、これが還元されてビリルビンの増加に至ったものと解釈した。生化学的検査の結果、競技前に比較して走行距離(運動量)が増すにしたがって、骨格筋逸脱酵素であるCK、CK-MB、ミオグロビン、AST、ALT、LDH及び炎症性蛋白であるCRPなどが増加する成績が得られた。これらの成分量の増加は、運動による筋肉細胞の破壊に起因するものと推察された。他方、TGは通常の運動時と同様に、運動量の増加に伴って低下することが確認された。 2) 24時間ウルトラマラソンランニング選手の尿中バイオピリンの動態  尿中のバイオピリンの平均値(U/g・Cre)は、競技前に1.23±0.73であったが、競技開始16時間後に2.55±0.95、競技終了後(24時間後)に4.00±1.50と増加を示し、走行距離の増加に伴って有意に上昇することが明らかとなった。生体内でのバイオピリンの動態を明らかにするために、血中ビリルビン値と尿中バイオピリン値、及び尿中バイオピリン値と走行距離の相関についてそれぞれ検討した。その結果、相関係数は、血中ビリルビン値と尿中バイオピリン値との間ではr=0.537、尿中バイオピリン値と走行距離との間ではr=0.618であり、それぞれに正の相関が認められることが明らかになった。これらの結果は、増加したビリルビンが運動によって過剰に生じた活性酸素と反応し、酸化分解されて、多くのバイオピリンの生成に至ったことを示唆するものである。  以上の結果から、尿中バイオピリンの前駆物質は、生理的に破壊された赤血球由来のビリルビンであると考えられた。一方、尿中のバイオピリンは、ビリルビンが持続的運動による酸化ストレスで増加した活性酸素を消去した結果、生じたものであると考えられた。  尿中のバイオピリンは、採取の負担がない随時尿を用いてELISAでの簡便な測定が可能である。このため、尿中バイオピリンは、酸化ストレスを評価する上で有用な生化学的バイオマーカーの一つとして、今後の活用が期待される。  参考文献 ・Stocker, R., et al.: Bilirubin is an antioxidant of possible physiological importance. Science, 235: 1043-1046, 1987. ・Yamaguchi, T., et al.: Chemical structure of a new family of bile pigments from human urine. J. Biochem., 116: 298-303, 1994. ・Shimoharada, K., et al.: Urine concentration of biopyrrins: a new marker for oxidative stress in vivo. Clin. Chem., 44: 2554-2555, 1998.}, title = {24時間ウルトラマラソンランニングにおける尿中へのバイオピリン排泄の増加及び酸化ビリルビン代謝}, year = {} }