@misc{oai:az.repo.nii.ac.jp:00003798, author = {小林, 亮介}, month = {2014-04-16, 2014-08-19}, note = {【緒言】  足細胞は腎糸球体の表面を覆う上皮細胞で、基底膜、内皮細胞と共に糸球体血管係蹄における選択的濾過機能に重要な役割を果たしている。特に高分子蛋白質に対するバリアとして機能しており、糸球体疾患の臨床徴候であるタンパク尿の発現には足細胞傷害が密接に関連している。近年、ヒトでは先天性ネフローゼ症候群の原因分子として同定されたnephrinをはじめとし、足細胞に発現する様々な分子(足細胞関連分子)がその機能ならびに足突起、スリット膜などの特殊な形態を維持していることが明らかになってきた。すなわち、正常な足細胞の機能と構造はスリット膜を中心とした足細胞関連分子の相互作用により維持されていることになるが、何らかの要因により分子発現が変化すると形態学的な足突起のアクチン細胞骨格の改変や糸球体基底膜との接着能の低下などにつながり、蛋白が漏出する。このため現在医学領域では、足細胞を標的とした治療や、尿中に排泄された足細胞を糸球体傷害マーカーとして用いるための研究も進められている。  獣医学領域では、タンパク尿に伴ない足細胞傷害が電顕的に観察されることはわかっていたが、分子の変化についてはほとんど研究されていない。イヌの腎疾患では糸球体疾患が多く、ヒトと同様に足細胞および糸球体傷害の早期診断、治療が臨床的に重要であると考えられる。また、ヒトの糸球体疾患とイヌのそれには類似点が多く、比較医学的に興味深い。本研究の目的はイヌの糸球体疾患において足細胞の傷害とその関連分子の発現変化を解析し、病態との関連を明らかにすることである。 第一章 正常イヌ糸球体における足細胞関連分子の発現と局在  従来、イヌにおける足細胞傷害の評価には超微形態学的観察が行われてきたが、機能的評価には足細胞関連分子の発現解析が重要である。本章ではその基盤として、これまでに明らかでなかった正常なイヌ糸球体における足細胞関連分子の発現と局在を調べた。【材料と方法】正常なビーグル犬5頭から採材した腎皮質組織と、皮質組織よりシービング法により単離した単離糸球体を用いた。ウエスタンブロット法(WB)と蛍光抗体法(IF)にてタンパク発現と局在を、RT-PCRにて遺伝子発現を検索し、透過型電顕で足細胞の構造の観察とスリット膜の長さの計測をおこなった。検索した分子はスリット膜に発現するnephrin、スリット膜基部細胞内に局在するpodocin、足突起のアクチン細胞骨格に関連するα-actinin-4、足突起と糸球体基底膜との接着に関与するα3-integrinである。抗体は作製した抗イヌnephrinポリクローナル抗体及び市販抗体を用い、プライマーは各分子の予測配列より設計した。【結果と考察】IFにおいてnephrinとpodocinは糸球体表面を覆うび漫性線状の足細胞パターンを示し、α-actinin-4及びα3-integrinは足細胞に加えメサンギウム細胞にも発現していた。また、WB、RT-PCRにより、予測された分子量のバンドが得られた。これらの結果よりイヌにおける4分子の発現と局在がヒト、ラット、マウスと同様であることが明らかになった。また、電顕観察によりイヌのスリット膜の長さは約379±24.4Åで、マウスとほぼ同等であった。(Kobayashi, R., et al. J. Comp. Pathol. 145:220-225. 2011.) 第二章 イヌの糸球体疾患における足細胞関連分子の発現および局在変化  第一章において明らかにした正常イヌ腎糸球体における足細胞関連分子の発現と局在を基に、イヌの糸球体疾患における足細胞傷害と関連分子の発現変化を明らかにし、タンパク尿、糸球体傷害との関連を明らかにするため、腎生検症例を用いた解析をおこなった。【材料と方法】持続的タンパク尿を伴う糸球体疾患(16例)および非糸球体疾患(5例)、計21例のTru-cut腎生検ならびに4頭の正常ビーグル犬腎組織を材料として用いた。糸球体疾患は膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)、メサンギウム増殖性糸球体腎炎(MePGN)、膜性腎症(MN)、糸球体アミロイドーシス(GA)、微小糸球体病変(MGA)、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)を含み、これらをさらに免疫介在性糸球体疾患(IMGD、n=11)、非免疫介在性糸球体疾患(NIMGD、n=5)に分け、非糸球体疾患(non-GD、n=5)と正常ビーグル犬(Normal、n=4)を対照群として解析をおこなった。また透過型電顕を用い足細胞の観察をおこなった。IFではnephrin、podocin、α-actinin-4、α3-integrinの発現・局在変化を観察し、半定量的にスコア化し、グループ間での比較とタンパク尿(Urinary protein/creatinine ratio)との相関関係を解析した。また、足細胞の核に特異的に発現するWT1の免疫染色により、各症例の糸球体におけるWT1陽性足細胞数を計測した。さらに、蛋白レベルで最も発現低下の著しかったnephrinの遺伝子発現を定量的に解析するため、laser microdissection(LMD)法にて凍結切片より糸球体を各症例100個切り抜き、real-time RT-PCRにより解析した。【結果】電顕観察では、検索した糸球体疾患全例において様々な程度の足細胞傷害(細胞体の腫大、足突起の扁平化、スリット膜の消失、細胞表面微絨毛の増加)が確認された。一方、非糸球体疾患では足細胞はほぼ正常であった。IFにおいては、足細胞傷害に伴うnephrinの顆粒状化、α-actinin-4の染色パターンの変化がみられた。また、スコアリングによる比較では糸球体疾患のいずれにおいてもnephrinが最も高度に発現が低下していた。NIMGDではIMGDと比較し4分子ともに発現低下が高度であり、NIMGDとIMGDにおけるnephrin、podocinの発現はnon-GD、Normalと比較し有意に低下していた。タンパク尿と発現スコアの相関解析では、特にnephrin、podocinで高い負の相関を示した。また、疾患ごとの差を見てみると、最も症例数の多いMNの比較では形態学的変化の重篤なものほど分子の発現低下は著しく、MGAとFSGSではそれぞれの病態を反映した局在の変化を示していた。WT1陽性足細胞数はNIMGDで最も高度に減少し、IMGDと共にNormalに比較して有意に減少していた。また、一部の糸球体疾患では傷害足細胞においてWT1発現の低下がみられた。nephrin mRNAの定量的解析では、疾患糸球体では正常糸球体の約26.2倍の発現上昇がみられた。【考察】本章の研究により、イヌの糸球体疾患では形態学的に足細胞傷害が明らかで、同時に足細胞関連分子の発現低下、足細胞数の減少が起こることが明らかになった。ヒト、実験動物においてnephrinはpodocinと共にスリット膜の機能に密接に関わり、発現低下により係蹄からの蛋白漏出が誘発されることが証明されている。本研究において、様々なイヌの蛋白漏出性糸球体疾患においてスリット膜の消失と同時にnephrinの顕著な発現低下が観察されたことから、nephrinがイヌの糸球体疾患の病態に深く関与すること、足細胞傷害の感受性の高いマーカーになることが示唆された。タンパク尿と関連分子の発現スコアの相関解析の結果からは、nephrinとpodocinが係蹄からの蛋白漏出に重要な役割を果たすこと、さらに尿中の早期診断マーカーとして有用である可能性が示唆された。WT1陽性足細胞数の計測では、各糸球体疾患において足細胞数の減少が明らかになった。足細胞は増殖能に乏しく、数の減少は不可逆的な糸球体硬化に至る重要な要因であることから、イヌにおいても糸球体疾患の進行に足細胞の脱落・減数が関与していることが示された。また、近年ラットなどの実験動物で傷害足細胞におけるWT1の発現低下が報告されており、WT1は腎発生期だけでなく転写調節因子として正常な足細胞の機能の維持にも役割を担っていると考えられている。イヌの足細胞におけるWT1の役割は不明であるが、正常糸球体では成熟足細胞に限局して強発現しているWT1が、傷害により低下することが明らかとなった。傷害糸球体におけるnephrin遺伝子発現は顕著に上昇していた。ヒトの臨床検体を用いた研究では、糸球体傷害に伴うnephrin mRNA発現上昇、低下いずれの報告もあるが、本研究における発現上昇の意義は不明であった。NIMGDにおける足細胞傷害は、いずれの解析においてもIMGDより高度であった。NIMGDに含まれるMCDおよびFSGSは、ヒトにおいては一次的な足細胞傷害が病態に深く関わるとされる疾患である。イヌにおけるMCD、FSGSの報告は非常に少なく、病態などの詳細は未だ不明であるが、本研究においてヒトと同様に高度な足細胞傷害が示された。  以上、イヌの足細胞関連分子に関する基礎的研究と、主に生検材料を用いた臨床例の研究により、イヌの糸球体疾患においてその治療や慢性腎不全への進行阻止には足細胞を標的とした戦略が重要であり、足細胞及び関連分子の解析は生検組織における病態把握に有用であることが示された。}, title = {イヌの腎糸球体疾患における足細胞傷害と足細胞関連分子の発現変化に関する研究}, year = {} }