@phdthesis{oai:az.repo.nii.ac.jp:00003452, author = {加藤, 崇 and Kato, Takashi}, month = {2014-09-22, 2013-12-25}, note = {近年、イヌでは肝炎、門脈シャント、肝硬変といった難治性の肝疾患が認められ、根治的な治療が不可能な時も多い。これら疾患は近年増加傾向にあり、早急に新規治療法が開発されることが望まれている。「自家骨髄細胞投与(Autologous bone marrow infusion; ABMi)療法」は、ヒトの肝硬変患者に対して有効性が高く、かつ容易に実施できる移植療法として注目を集めている。イヌにおいても肝硬変および肝線維化の症例は増えつつあり、ABMi療法をイヌに適応することが可能と思われる。したがって、本研究ではイヌの肝疾患に対する自家骨髄細胞療法の実用化に向けた基礎研究を行った。 第Ⅰ章 障害肝へのイヌ骨髄細胞の集積性 実験1. 背景:自己の骨髄細胞(BMC)の静脈内投与による肝機能改善効果のメカニズムは不明な点が多い。メカニズムの一つに投与細胞のHoming作用が考えられるが、体内動態に関する情報は極めて少ない。また、イヌ骨髄細胞(cBMC)を利用した例はこれまでにない。そこで実験1では、重度免疫不全マウスであるNOD/SCID/γcnull(NOG)マウスを利用して、cBMCsの肝障害時の体内動態および肝組織への生着について検討した。方法:雌のNOGマウス(n=10)に対してCCl4 1ml/kgを単回腹腔内注射し、急性肝障害モデルを作製した。雄の健常犬1頭から採取した骨髄液20mlを比重遠心法により単核細胞を分離し、リンカー法(PKH26)にて蛍光標識し、cBMCsを作製した。cBMCs 1×106個を減菌生理食塩水(Saline)200μlに調製し、NOGマウスの尾静脈より投与した(n=5)。一方で、その他のCCl4処理を施したNOGマウスに対しては、Salineのみを投与した(n=5)。さらに正常対照群としてオリーブオイルのみを腹腔内注射したマウスにもcBMCs移植処置を行い比較した(n=5)。投与から1週間後に肝臓、脾臓、肺を採材し、cBMCsの各臓器への集積と生着について蛍光顕微鏡にて評価した。PKH陽性領域はImage-Jにより算出した。さらにマウスの肝臓よりPCR法により、イヌY染色体の検出を試みた。結果:肝臓ではCCl4処理群で有意にPKH陽性細胞の分布が認められた。肺ではCCl4処理および未処理群の双方で一定のcBMCsの分布が認められたが、有意差は認められなかった。脾臓にPKH陽性細胞の分布は認められなかった。また、PCR法では、cBMCs投与NOGマウスの肝臓においてイヌY染色体の検出が可能であった。考察:cBMCsは障害肝に対し特異的に集積することが明らかとなった。しかし、投与細胞は一部で肺に分布していたため、投与経路による有効性の違いが想定された。 実験2.  背景: 実験1では、cBMCsが障害肝に集積する性質を示したが、これらcBMCsの役割は不明である。そこで、NOGマウスを利用し肝障害と再生に対するcBMCs投与の影響について検討した。方法:NOGマウス(n=32)に実験1と同様にCCl4処理を施し、2つのグループに群分けした。一方は1×106個のcBMCsを、もう一方はSalineのみを尾静脈投与した。なお、cBMCsは実験1と同様の要領で作製しPKH標識を行った。投与から24、48時間後および1週間後に安楽殺し、肝臓および血清サンプルを採材した。血清生化学的および組織化学的手法により肝障害を評価し、Ki-67の免疫染色により肝再生を評価した。結果:肝臓では移植から24時間後からPKH陽性細胞が分布し、1週間後で最大値を示した。各肝酵素およびHE染色上の壊死領域はcBMCs群とSaline群の間に有意差はなく、cBMCs投与による肝障害軽減効果は認められなかった。Ki-67の免疫染色においても両群間に差はみられなかった。考察:cBMCsの肝臓への分布は肝障害や再生の期間とは一致せず、役割は不明だった。本研究では、cBMCs投与による明確な肝障害の治療効果と肝再生改善効果は認められなかった。実際の効果はより臨床例に近い慢性線維化モデルで検討すべきと考えられた。  第Ⅱ章. 肝線維化モデルへのイヌ骨髄細胞投与の影響 実験1. 背景:ABMiによる肝疾患の治療効果は、臨床例に近い慢性肝障害モデルで実施することが望ましい。肝臓の線維化進展過程では、免疫細胞が重要な役割を担っているが、リンパ球欠損マウスで肝線維化が誘発できるかは不明である。そこで実験1では、CCl4誘発性の肝線維化の程度をWild-type(WT)モデルと比較し免疫不全の影響を評価した。方法:NOGマウスとC57/BL(Wild type: WT)マウスに対して、CCl41ml/kgを週2回間隔で連続処理し、慢性肝障害を誘発させた。対照群としてoilのみの処理を行い比較した(各n=24)。それぞれ、CCl4連続処理から2週間目と4週間目に安楽殺し、血清生化学および病理組織学的手法により、肝臓の線維化を評価した。線維化を評価するにあたり、シリウスレッド染色を行い、線維化の原因細胞である活性化星細胞のマーカーとしてα-SMAの免疫染色を実施した。またWestern blot法によりTGF-β蛋白の発現を比較した。結果:NOGマウスの肝臓では対照群と比較して有意にシリウスレッド陽性領域が増加しており、線維化が誘発されたが、WTマウスと比較して、有意に軽度であった。また、NOGマウスではWTマウスと比較してα-SMAおよびTGF-βの発現低下が認められた。考察:NOGマウスでは、線維化は誘発されたもののWTと比較して軽度であり、リンパ球欠損の影響が示唆された。より強い線維化を誘発させるためには、さらに長期のCCl4処理が必要と考えられた。  実験2 背景:実験1の結果からNOGマウスでもCCl4連続処理により、肝線維化が誘発できることが示された。そこで、NOGマウスに対して8週間CCl4連続処理を行い、肝線維化モデルとしてcBMCs投与の線維化への影響を評価した。方法: NOGマウスに対して実験1の要領で8週間のCCl4連続処理を施した。CCl4連続処理から8週間目に1×106個のcBMCsを尾静脈から投与した(CCl4/cBMC群)。一方では、Salineのみの尾静脈投与を行った(Saline/cBMC群)。また、対照群としてoilを連続処理したNOGマウスに対してcBMCsの投与を行った(oil/cBMC群)(各群n=5)。投与から2週間後、マウスを安楽殺し、肝臓の線維化への影響を比較した。線維化を評価のためシリウスレッド染色およびα-SMA、Collagen-Iの免疫染色を実施した。NOGマウス組織内でイヌ由来細胞を検出するためにCD3、CD20の免疫染色およびイヌ遺伝子特異的probeを用いたFluorescein in situ hybridization (FISH)を実施した。結果:CCl4/cBMC群では肝門脈周囲への炎症細胞の浸潤とともに重度の線維化が認められ、Collagen Iの過剰蓄積とα-SMA陽性細胞の出現が認められた。浸潤細胞はCD3、CD20陽性細胞が混在し、FISHに陽性を示した。CCl4/cBMC群とoil/cBMC群の脾臓は腫大し、組織学的に単核細胞の浸潤像が認められ、これらはCD3およびCD20陽性、かつFISHに陽性を示した。考察:肝線維化NOGマウスの体内に生着したcBMCsは、肝臓に浸潤し炎症を惹起させ線維化を促進させたと考えられる。浸潤細胞はイヌ由来リンパ球主体であることからGraft versus host disease(GVHD)の病態と一致する。cBMCs中には線維化を促進させる免疫細胞集団が含まれ、これらを排除する処理や肝再生に有効な細胞集団を特定・単離することが治療成功率向上の手段の一つになる可能性が示唆された。  第Ⅲ章 イヌに対する自家骨髄細胞移植の検討 背景:これまで、7つのヒト肝硬変症例におけるABMiの報告がなされ、その臨床治験では68%で血中アルブミン濃度は増加し、83%の症例で腹水の消失が認められている。人では、重篤な副作用は示されていないが、犬での実施例はこれまで報告されていない。そこで第Ⅲ章では、健常犬に対するABMiの短期的な副作用の有無を調査するとともに、2例の臨床症例におけるABMi療法の影響を調査した。方法:健常ビーグル犬(n=4)から、骨髄液6mL/kgを麻酔下で採取した。100μmセルストレイナーで細胞浮遊液を作製し、細胞洗浄を行った。得た単核細胞(Mononuclear cell: MNC)は生細胞比率を算出後30mLに調製し、末梢静脈から投与した。その後、身体検査および血液検査を定期的に実施した。また、臨床的に肝硬変と診断された症例に対するABMiを実施し、安全性と治療効果を評価した。ABMiの適応項目として、①組織学的に慢性肝炎/肝硬変/肝線維症と診断される。②内科治療が無効。③血清T-Bil値が7mg/dL以下。④血小板数が50,000/μl以上。⑤重篤な併発疾患が存在しない。⑥腫瘍性病変が存在しないことを設定し実施した。採取した骨髄液の一部は、細胞表面抗原解析(CD45, CD34, CD133)に利用した。ABMi前後2ヶ月間の血液検査の推移を評価した。結果:健常犬4頭から平均8.9±1.2×108のMNCsが採取され、それぞれ細胞生存率は80%以上を示した。ABMi後の身体検査および血液検査に顕著な異常は示されなかった。臨床症例では2頭が臨床的に肝硬変および慢性肝炎と診断され、ABMiの適応条件に該当した。症例はアメリカンコッカースパニエルとミニチュアシュナウザーで、それぞれMNCsの総量は9.2×108個および6.8×108個であった。CD45陽性かつCD34陽性細胞は約1.45%を占めていた。ABMi後、2症例ともに身体検査上の異常は認められなかったが、治療実施から45日後、症例2は斃死した。2症例ともに、ABMi後の血清Albumin濃度は低下し肝機能改善効果は示されなかった。考察:健常イヌではABMiの短期的な安全性の可能性が示唆された。また、臨床症例でも十分量の骨髄液が採取された実行性が示されたが、肝硬変症例におけるABMiの安全性は不明確であった。 結論  NOGマウスを利用した異種移植実験では、cBMCsが障害肝へ特異的に集積することが明らかとなり標的臓器への分布が適切に行われることが示唆された。一方、cBMCs中には線維化進展に重要な細胞集団が含まれることが示唆され、レシピエントの状態によっては肝線維化が促進させることも懸念された。イヌに対する自家移植では、一定の安全性が確認されたが明確な治療効果は得られず、長期の安全性や肝機能改善効果などは、症例を蓄積しさらなる評価が必要である。ABMiの安全かつ有効な臨床応用には、BMCs中の有効な細胞分画を特定し、これら細胞の培養技術を確立させることが、今後の最重要課題であると思われた。}, school = {麻布大学}, title = {イヌの慢性肝疾患に対する自家骨髄細胞投与療法に関する基礎的研究}, year = {} }