@misc{oai:az.repo.nii.ac.jp:00003346, author = {荒井, さと}, month = {2013-02-28, 2014-08-19}, note = {1980年代以降、動物がもたらす子どもの社会的、情緒的発達や、より良い学習環境への効果が多く報告されている。動物の中でも、身近な存在である犬を子どもの情操教育のために飼育する家庭も少なくない。さらに、犬の新たな役割として、動物介在療法や動物介在活動とともに、動物介在教育(animal-assisted education: AAE)への介入も注目されはじめ、犬が小学校などを訪問する機会も増えている。AAEとは、学習環境に動物を導入し、子どもが動物との関わりの中で動物愛護や動物福祉の精神を学ぶと同時に、動物を動機付けとした非言語コミュニケーションの発達や学習意欲の向上などを目的とした教育である。IAHAIO(International Association of Human-Animal Interaction Organizations)のリオ宣言(2001年)でも掲げられているように、子どもと犬との関係構築には、相互の安全や健康が保障されるべきである。しかし、AAEに介入する動物の明確な基準や具体的な提言がないのが現状であり、適性のある介在犬を事前にスクリーニングする必要がある。そこで、本研究では早い段階でのAAEの介在犬のスクリーニング法や、適性が認められない犬の簡易的なスクリーニング法を、犬の行動学的および生理学的評価によって検討した。同時に、犬が子どもと接するトレーニングをすることの有用性も評価し、これらによってより多くの介在犬を見出すことを目的とした。そして、犬による子どもたちの発達や学習環境への支援を広め、犬と子どものより良い関係を構築することを最終目標とする。 第1章:犬の社会化期における、人、特に子どもとの関わりの重要性の検証  社会化期(生後3~12週齢)に犬が他の動物や人との接触をすることの重要性に関する研究は過去にいくつか行われているが、犬と子どもとの関わりに焦点をしぼった研究は行われていない。そこで第1章では、犬が子どもと接した経験が、成犬になった時の子どもに対する反応にどのような影響を与えるかを明らかにすることを第一の目的とした。また、AAEのより良い効果を得るために、本研究で得られた結果を適性ある介在犬のスクリーニングの一助とすることを第二の目的とした。  子どもに対する犬の反応の評価は、行動評価と同時に、心拍数の測定をおこなった。結果として、犬が社会化期から子どもと接する経験をすることで、子どもに対してより親和性の高い行動を示し(p<0.05)、攻撃性や興奮性行動などの不適切な行動を示さなかった。さらに、最も強い刺激と考えられる、犬の周りを子どもが走る状況においても心拍数が有意に減少していた(p<0.05)。一方、社会化期に子どもと接する経験をしていない犬は子どもに対して攻撃性や興奮性の行動を示すことがあり、実験中の心拍数は安静時よりも高いまま、ほぼ一定であった。これらの結果から、社会化期に子どもと接する経験をしていた犬は、AAEの介在犬の必要条件を満たしていることが示唆された。 第2章:介在犬の適性評価に関する研究  100名の一般の飼い主にアンケート調査を実施したところ、社会化期から子どもと接する経験をしている犬は37%であり、そのうち子どもがいない家庭の犬(n=69)で社会化期から子どもと接する経験をしているのはわずか10%であった。そこで、今後より多くの介在犬を効率よく見出すために、社会化期に子どもと接する経験をしていない犬や、特定の子どもとの関わりしか持たない犬を対象として、介在犬として適性がない犬の簡易的なスクリーニング法を検討した。子どもに対する犬の反応を、行動、心拍変動、尿中カテコールアミン濃度によって評価し、クラスター解析を行った結果、2つのグループ(グループ1およびグループ2)が抽出された。グループ1と比較してグループ2の犬は、子どもに対して有意に高い攻撃性/興奮性行動を示し(p<0.05)、逃避性行動も高い割合で示す傾向があった(p=0.05)。また、実験前から尿中カテコールアミン濃度が有意に高く(p<0.05)、日常的に交感神経活性が高いことが示唆された。これらの結果から、グループ2の犬を介在犬として適性がない犬とし、これらの犬の簡易的なスクリーニング法としてC-BARQと心拍数による評価を検討した。その結果、C-BARQでは「見知らぬ人に対する攻撃性」と「興奮性」について、グループ1に比べてグループ2が有意に高いスコアを示した(p<0.05)。さらに、グループ1の心拍数は、子どもの存在下でも心拍数がほぼ一定だったのに対して、グループ2は子どもの存在下で有意に心拍数の上昇がみられた(p<0.05)。これらのことから、C-BARQの「見知らぬ人に対する攻撃性」と「興奮性」のスコアに注目した行動の評価だけでなく、子どもの存在下での心拍数にも注目することで、介在犬として適性がない犬のより正確で簡易的なスクリーニング方法となることが示唆された。 第3章:介在犬のトレーニングの効果に関する研究  第二章で適性がないと評価された犬を除き、社会化期に子どもと接していない、もしくは限られた子どもとの接触しかなかった犬も、子どもと接する機会を持ち、トレーニングを重ねることで介在犬となり得るかを検証した。週に1回、全4回のプログラムで、陽性強化法を用いた子どもによる基本トレーニングなどを実施すると同時に、AAEを実施する際に予想されるフラフープや長い棒といった視覚刺激や、厚い本を落とした音といった聴覚刺激に対する反応、手や器からフードを与えた時の食べ方を評価した。対象犬が逃避性行動や興奮性行動を示した刺激に対する馴致やトレーニングを行った。そして、トレーニング中やトレーニング前後での犬の行動学的および生理学的評価をした。結果として子どもからのコマンドに従う割合は有意ではないが、わずかに増えると同時に、犬が子どもに対して注目する割合も、やや増加することが示された。さらに、逃避性行動や興奮性行動を示した刺激に対して反応する頻度も減少した。トレーニング前後の行動を比較すると、9頭中7頭が子どもに対して攻撃性/興奮性行動や逃避性行動を全く示さなかった。心拍変動解析の結果、統計的に有意ではないが、トレーニング前には子どもの存在で交感神経活性が安静時よりやや上昇していた。しかし、トレーニング後は子どもの存在下でも安静時より低い交感神経活性を示した。これらの結果から、社会化期以降であっても子どもと接する機会を与え、トレーニングを積むことは、有用であることが示唆された。  以上、これらの研究により、1)犬が社会化期から子どもと接する経験をすることで、子どもに対して興奮性や攻撃性の行動を全く示さず、子どもがいる環境で落ち着くことができるために、これらの犬がAAEの介在犬として適性を持つことが示された。2)社会化期に子どもと接していない犬のなかで介在犬として適性のない犬は、C-BARQによる「見知らぬ人への攻撃性」のスコアと「興奮性」のスコアや、子どもの存在下での心拍数の上昇に注目することで評価が可能であることが示唆された。3)2)で評価したような適性のない犬を除き、子どもと接する経験を重ねることで、多くの犬が子どものコマンドに従う回数が増え、子どもにより注目するようになることが示唆された。さらに、子どもに対して攻撃性、興奮性、逃避性などの行動を示さなくなり、子どもがいる状況でも落ち着いて行動できることが明らかとなった。これらの研究成果から子どもと良い関係を築くことのできる介在犬のスクリーニング方法を提起することができた。}, title = {子どもたちの発達と学習環境に求められる介在犬の適性に関する研究}, year = {} }