@misc{oai:az.repo.nii.ac.jp:00003345, author = {伊澤, 都}, month = {2013-06-29, 2014-08-19}, note = {わが国は、新しい教育理念に基づく教育制度を発足させるとともに、経済の成長を含め様々な分野においてめざましい進展を遂げつつある。しかし、この急速な変化・発展が地域社会の結びつきや連帯意識を弱めた結果、子どもたちの教育環境にも大きな影響を与えた。すなわち子どもたちの生活体験の減少や、他者との交流や社会性の低下、他人への思いやりや生命尊重の欠如が、いじめ・不登校・学級崩壊などの学校教育の問題、犯罪の低年齢化を引き起こしているとも考えられる。文部科学省は、1996年の中央教育審議会において、「21世紀を展望したわが国の教育の在り方について-第一次答申-」のなかで、「生きる力」を育むことを掲げて教育指導に取り組んできたが、以来10年余を経てもさらに様々な問題が浮上し、その解決には至っていない。  動物との関わりが人の健康に良い影響をもたらすことが1980年代から実証され、特に子どもにおいては非言語コミュニケーションや自尊心の発達、共感性の向上などが動物との関わりのなかで育まれている。なかでも共感(empathy)は現代の子どもたちに欠けている「思いやり」にもつとも近い概念であり、共感する力を身につけることは社会生活をするうえで最も重要な素養である。  本研究は、子どもたちの健やかな成長を促すために、わが国の子どもたちを取り巻く環境において、犬(動物)との積極的な関わりの重要性を明らかにし、そこから生まれる思いやりの心や学習しやすい環境づくりへの動物の効果から、独自のプログラムを考え、学校教育における動物に対する期待に応えることを目的とした。 第1章:犬の存在がもたらす子どもの学習態度の変化-行動面と精神面- 犬の存在がもたらす子どもの学習態度の変化を明らかにすることを目的として、犬の存在・非存在下での学習への取り組みについて行動観察と精神的な変化のパラメタとして唾液中クロモグラニンA(CgA)を調べた。実験1では個別の環境下で、実験2では小学校などを想定した集団での環境を設定した。実験1で実施したぬりえと100マス計算の課題において、学年と犬の存在・非存在下での足を振る行動時間の二要因について反復測定二元配置分散分析を行ったところ、ぬりえを行ったときには、犬の存在下での「足を振る行動時間」が顕著に少なかった(p<.05)。足を振るなどの行動は、意図的でない適応的動作で、退屈や倦怠感を示す行動であり、ぬりえの課題時において、犬の存在下ではこれらの行動が少ないことから、犬がいることが倦怠感の減少に影響していると考えられる。一方、集団での環境においては、犬がいるときの方がいないときよりも、学習への取り組み時間が長く、足振り時間などの退屈や倦怠感を示す行動の減少が見られ、さらに子ども同士の雑談時間は、犬が子どもの近くにいるときほど少ない結果になった。また、犬の存在・非存在下での唾液中CgAの増加率と学年の二要因について、反復測定二元分散分析を用いて比較した。犬の非存在下でのCgA増加率は4~6年生において1~3年生よりも高かった(p<.05)が、犬の存在下では増加率に変化はなく、減少傾向にあることから、集団環境において犬がいるときの方がCgAを指標にした交感神経活性が低く、子どもたちはリラックスした状態で課題に取り組んでいると考えられる。犬の存在は課題への取り組みとリラックスさせる効果があることから、学習しやすい環境が作られていると考えられる。 第2章:犬との関わりがもたらす子どもの共感への効果  犬との関わり合いによる他者に対する共感性の変化に焦点を当て、本章では、犬の飼育の有無による効果ではなく、犬との関わりがもたらす子どもの共感への効果の違いを検討し、共感を高める独自のプログラムを作成する基盤とすることを目的とした。犬とのコミュニケーションの頻度や実施期間による共感の変化を、児童用共感測定尺度を用いて調べた。犬のトレーニングから学ぶ「思いやりの心を育む」プログラム(思いやりプログラム)は、トレーニングを通して犬とのコミュニケーションの取り方を基礎としたものである。もう一つのプログラムは子どもが学習しやすい環境づくりを配慮したプログラム(「学習しやすい環境を作る」プログラム)であり、学習環境に自然な状態で犬が存在し、学習後には犬と子どもたちの交流をもつというプログラムで、個々の犬とのコミュニケーションは比較的少ない。これらの2つのプログラムを3ヶ月間実施グループと6ヶ月間実施グループに分け、開始前後の共感得点増加率の比較を行った結果、思いやりプログラムの方が学習環境プログラムよりも共感得点増加率が有意に高く、期間による差は見られなかった。 第3章:小学校に対する学校飼育動物の現状と教育への活用に関する意識調査と提言  日本では、学校での動物飼育の歴史は長く、9割の小学校が何らかの動物を飼育しており、子どもの教育において動物は欠かせない存在である。第3章では、教育の現場である小学校における飼育動物の現状を調べ、教育現場における動物の活用や教師の動物飼育への期待や不安・困難について明らかにした。対象とした学校は10校で、学校長・教頭12名と教員136名から回答が得られた(回収率88.9%)。回答のあった学校すべてがウサギかニワトリ、あるいはその両方を飼育しており、動物を取り入れた授業を行ったことがある教員の割合は20.6%で、最も多い教科が「生活科」であった。校長や教頭の学校組織としての意見として、動物飼育に期待することとして、思いやりの気持ち(83.3%)、および生命尊重(75.0%)であり、教員が動物に期待することは生命尊重(83.6%)や思いやりの気持ち(77.4%)が多く、動物を教材として取り入れる授業を行ってみたいと思っている教師は全体の8割であった。また、不安に思っている項目としてはアレルギーに関する問題(73.1%)、ならびに動物の扱いに関すること(68.2%)であった。これらの結果をふまえて、教員のほとんどが思いやりの気持ちを持つことや生命尊重を期待しているにもかかわらず、授業への取り入れば非常に少なく、「不安」が一つの壁となっていると思われた。動物との関わりが子どもたちに良い影響をもたらすということは理解しつつも、現状の学校飼育動物あるいはその活用には限界があると思われた。 第4章:子どもの心の発達を促進する犬を活用したプログラムの開発  第1~3章で得られた犬がもたらす効果と教育現場での教師の期待と不安に基づいて、第4章では、「思いやりの心を育む」「学習しやすい環境づくり」に焦点を当て、独自のプログラムを考え、それらの有用性を検討した。  犬のトレーニングから学ぶ「思いやりの心を育む」プログラムは、ドッグダンスの発表をゴールとする小学校で行う総合学習クラスと、学校以外で行う子どもの犬のしつけ方教室としてのキッズクラスを行った。総合学習クラスでは、小学校の教師の指導のもと、5年生の総合的な学習の時間に、ペットを調査するグループ4名を対象に実施した。犬は麻布大学介在動物学研究室で飼育管理しており、専門的な訓練を受け、子どもに慣れている犬を用いた。参加した子どもたちは、犬との信頼関係のみならず、人との信頼関係が重要であるということを学ぶことができたが、一方で実施人数、実施時間枠などを学校の授業や担任教師と調整する必要があるなど、現実的な問題もある。そこで、学外での取り組みとして立案したのが、集団で行う犬のしつけ方教室であるキッズクラスである。これは、犬とのコミュニケーションを図り、犬の知識を学び、相手の気持ちを読みとろうとする力をつける内容で、十数人での実施が可能であることから、各自のレベルに応じて取り組むことができ、子どもの豊かな心の育成の一助となり得ると考えられる。  次に、学習しやすい環境づくりに配慮したプログラムでは、30名の子どもを対象に、犬とともに学習に取り組み、学習終了後にその犬と子どもたちとが交流を持つプログラムを実施した。犬がいるときは、いないときに比べ学習中の雑談が減り、課題に集中しやすくなり、課題終了後に集団で交流を持つことで犬だけでなく他者との関わりをもつことができ、学習に対する態度の改善とともに、他者との関わりも深まり、犬を取り入れることの有用性が高い。  以上、本研究により、犬の存在や関わり方が子どもたちの退屈や倦怠感の減少をもたらし、リラックスできる学習環境づくりに有益であり、また共感の向上など思いやりの心を育むのに最適であることが分かった。さらに、学校教育への応用には、克服すべき多くの困難があるものの、子どもたちの健やかな成長のために、「思いやりの心」の育成と「より良き学習環境」の構築に必要な犬を介在したプログラムを考察し、その有用性を証明した。}, title = {子どもの心の発達に及ぼすコンパニオンアニマルの有用性に関する研究 : 「思いやりの心を育む」ため等の教育プログラムの開発}, year = {} }