@misc{oai:az.repo.nii.ac.jp:00003285, author = {檜山, 源}, month = {2013-02-21, 2014-08-19}, note = {目的  プロラクチン(PRL)は、脊椎動物の下垂体前葉において合成、分泌されるペプチドホルモンであり、多彩な生理作用を示すことが知られている。鳥類においては、生体内PRL濃度の上昇が抱卵及び育雛行動からなる就巣行動発現と密接な関係があることが明らかとされている。さらに、他の脊椎動物と同様に、糖鎖修飾による糖鎖付加型PRL(G-PRL)が存在し、繁殖周期等の生理的状態の変化に伴いG-PRL存在比率は変動することが明らかとされている。また、鳥類PRLは哺乳類等とは異なり、主として血管作動性腸ポリペプチド(VIP)により促進的に制御されていることが知られている。しかしながら、VIPによるPRL遺伝子発現制御機構の詳細及び繁殖周期におけるG-PRLの機能及び比率変動の制御機構は解明されておらず、PRLによる就巣行動制御機構の詳細は未だ不明な点が多く残されている。様々な鳥種においてPRL遺伝子構造及び糖鎖付加型アイソフォームを同定することは、詳細なPRL遺伝子発現機構及びPRLの組織への作用機序解明を可能とし、鳥類共通の就巣行動発現機構の解明に繋がると考えられる。さらにこれは将来的な人為的鳥類繁殖制御法の確立を可能とすると考えられ、産業的にも動物応用科学的にも大きな意味を持つと言える。従って、本研究では、就巣行動発現機構解明の一助とするため、様々な鳥種におけるPRL構造を明らかにすることにより、PRLの合成及び分泌、そして機能における鳥類共通性を分子遺伝学的な面から解析を行うことを目的とした。 実験1 ニワトリ胚発生期及び繁殖周期におけるPRLアイソフォーム解析  現在までに、ニワトリ、シチメンチョウ及びアヒルにおいて、翻訳後修飾である糖鎖修飾による糖鎖付加型PRL(G-PRL)の存在が明らかとされており、成熟PRLアミノ酸配列における糖鎖コンセンサス配列は、3種に共通して56番目に認められるAsn-Gly-Cys(N-G-C)、シチメンチョウにおいて197番目に認められるAsn-Asn-Cys(N-N-C)、アヒルにおいて6番目に認められるAsn-Gly-Ser(N-G-S)が考えられるが、それらの機能は未だ明らかとされていない。また、シチメンチョウにおけるG-PRLは、分子量がほぼ等しい2種が存在し、生理的状態の変化によりG-PRLの存在比率が変動を示すことが明らかとされている。シチメンチョウとは異なり、糖鎖コンセンサス配列が1箇所のみであるニワトリにおけるG-PRLが、生理的状態によりシチメンチョウと同様の変化を示すか否かは不明である。従って、本実験では、糖鎖コンセンサス配列の機能解明のため、ニワトリにおける異なる繁殖期及び胚発生期におけるG-PRL存在比率の変動を明らかにすることを目的とし、ウエスタンプロット解析を行った。その結果、ニワトリ各繁殖期及び胚発生期においては、シチメンチョウにおける報告とは異なり、時期特異的アイソフォームを含め最大6種の分子量の異なるG-PRLが検出された。さらにそれらG-PRLアイソフォームは、結合糖鎖に対するシアル酸の結合数及び糖鎖分岐構造が異なることが明らかとなった。これらのことから、少なくとも56番目に認められるN-G-Cに対し糖鎖が結合し、さらに各アイソフォームにおけるレセプターに対する親和性等の機能が異なる可能性が示唆された。シチメンチョウにおける報告及び本実験結果との相違において、197番目における糖鎖コンセンサス配列の有無によるG-PRLアイソフォームの立体構造変化、又は種特異的糖鎖構造の存在、あるいは実験条件の違いが起因している可能性が考えられた。 実験2 キジ目鳥類における成熟PRL cDNA及びウエスタンプロット解析  実験1において推測された、ニワトリ及びシチメンチョウにおけるG-PRL比率変動に関する差異の原因を明らかとするためには、他のキジ目鳥類におけるG-PRL及び糖鎖コンセンサス配列に関する共通性あるいは特異性を解明する必要がある。従って、本実験では、キジ目鳥類であるキジ、クジャク及びホロホロチョウにおけるcDNA構造を明らかとし、既に報告されているキジ目鳥種cDNAとの相同性解析、さらにキジ目各鳥種におけるウエスタンプロット解析を行った。その結果、キジ目鳥種cDNA塩基配列及びアミノ酸配列における相同性は何れにおいても90%以上であり、非常に強く保存されていることが明らかとなった。また、Cys残基の配置は共通であることから、ジスルフィド結合によるループ形成は保存されていると考えられた。さらに、用いた全ての鳥種において共通して、成熟PRL領域56番目においてN-G-Cが認められ、ウエスタンプロットにより複数の分子量の異なるG-PRLが検出された。また、キジにおいては、系統解析によりシチメンチョウと非常に近縁であることが明らかとされ、シチメンチョウと同様、56番目に加え、197番目においてN-N-Cが認められたが、他の鳥種と同様に複数のG-PRLが検出されたことから、シチメンチョウにおいても複数のG-PRLの存在が推測された。さらに、197番目に認められるN-N-Cに対し糖鎖が結合する場合、ジスルフィド結合によるループ形成に影響を及ぼし、検出されるバンドパターンが変化する可能性が考えられたが、ジスルフィド結合還元及び非還元状態におけるバンドパターンの比較の結果、各種とも大きな違いは認められなかった。これらのことから、197番目のN-N-Cは糖鎖結合部位としての機能を持たず、56番目において認められたN-G-Cがキジ目共通の糖鎖結合部位である可能性が考えられ、ニワトリ及びシチメンチョウにおけるG-PRL比率変動の差異は、種特異的糖鎖構造が存在する可能性は否定できないが、系統遺伝学的に非常に近いキジにおける結果より、実験条件による違いが起因している可能性が強く示唆された。 実験3 キジ目鳥類におけるPRLプロモーター構造解析  鳥類PRL遺伝子発現制御機構においては、VIPが大きく関与することが明らかとされているが、その詳細な経路やPRLプロモーターにおける作用部位に関する共通性は未だ不明である。プロモーターにおける構造共通性を明らかにすることは、キジ目鳥類PRL共通制御機構解明のみならず、実験2において推測された56番目に認められるN-X-Cの機能及びG-PRLの存在に関する共通性を裏付けることが可能であると考えられ、キジ目鳥類におけるPRL機能類似性を示すことが可能であると考えられる。従って、本実験においては、様々なキジ目鳥類PRLにおける転写開始点より約3kb上流までのPRLプロモーターにおける塩基配列決定及び相同性解析を行い、構造的共通性及び特異性を明らかとすると共に、相同性による遺伝的類縁関係の検討を行った。その結果、キジ及びシチメンチョウは、cDNA解析と同様、他の良種とは独立したクラスターを形成し、非常に近縁であることが明らかとなった。また、ウズラ及びホロホロチョウにおいては、大きな挿入配列が認められるが、転写開始点より上流約3kbまでのその他の領域における相同性は81%以上と比較的高い値が示され、キジ目鳥類におけるPRLプロモーターにおける基本構造は強く保存されていることが明らかとなった。また、特に近位プロモーターにおける相同性は、93.5%以上と非常に高く、これまでの研究によりVIP刺激によるPRL転写制御の機能部位とされている領域(VIPレスポンスエレメント:VRE)は、用いた全てのキジ目鳥類において完全に保存されていた。以上のことから、キジ目鳥類におけるPRL遺伝子発現調節機構は共通性が非常に高く、基本的な発現調節はVIPにより支配されており、その経路にはPRL近位プロモーターのVREを中心とした高保存領域が大きく関与していると考えられた。また、キジ目鳥類において、PRLはcDNAのみならず、プロモーターにおいても構造が強く保存されていることから、PRLが有する機能は非常に類似性が高いことが強く示唆された。 実験4 晩成性鳥類におけるPRL cDNA及びプロモーター構造解析  キジ目を始めとする早成性鳥類における血漿PRL濃度は、産卵後期において急激に上昇し、抱卵期においてピークに達し、孵化と共に急激に減少することから、早成性鳥類におけるPRLは、主に抱卵行動の誘起及び維持に作用すると考えられている。一方、ハトやインコ等の晩成性鳥類においては、産卵期及び抱卵初期における血漿PRL濃度の急激な上昇は認められず、抱卵後期において急激な上昇を示し、育雛初期においても高濃度が維持されることから、主として育雛行動の誘起に関与している可能性が示されている。繁殖期におけるPRL作用が異なると考えられる晩成性鳥類においてPRL遺伝子発現制御機構及び構造を明らかとすることは、鳥類共通あるいは種特異的なアッセイ系の確立を可能とし、より詳細なPRL作用機序の解明へ繋がると考えられる。従って、本章においては、晩成性鳥類であるセキセイインコ及びブンチョウにおけるPRL cDNA及び近位プロモーターにおける塩基配列決定による構造解析及び早成性鳥類と比較することにより、鳥類PRL共通性解明を目的とした。その結果、セキセイインコ及びブンチョウ共に、アヒルやシチメンチョウ等と同様、成熟PRL領域において複数の糖鎖コンセンサス配列が認められた。しかしながら、早成性及び晩成性を問わず全ての鳥種において共通して認められる糖鎖コンセンサス配列は56番目に認められるN-X-Cのみであることから、少なくともこの配列が鳥類共通の糖鎖結合部位である可能性が示され、晩成性鳥類においてもG-PRLが存在する可能性が考えられた。また、セキセイインコ及びブンチョウ成熟PRL領域におけるcDNA及びプロモーターにおける早成性鳥類との相同性を解析した結果、何れにおいても約85%以上と比較的高い値が示され、さらにプロモーターにおいてVREは完全に保存されていたことから、鳥類における基本的なPRL遺伝子構造及び転写制御機構は共通である可能性が強く示された。 結論  本研究により、鳥類における基本的なPRL遺伝子構造、転写制御機構及びG-PRLの存在は早成性、晩成性を問わず共通性が非常に高く、PRLの機能に関しても鳥類共通性が存在する可能性が示された。また、鳥類において初めて時期特異的なアイソフォームを含めた複数の分子量が異なるG-PRLの存在を明らかとし、さらに鳥類における基本的なPRL遺伝子発現は、VIP刺激がVREに作用することにより促進される共通機構により制御されている可能性を示した。これらのことから、今後各アイソフォームのレセプターに対する親和性等の機能特異性及びVIP-VRE経路の詳細を明らかにすることにより、人為的なPRL遺伝子転写制御あるいはレセプターへの結合制御による就巣行動発現制御が可能となると考えられる。以上の様に、複数の異なるアプローチによる人為的就巣行動制御の可能性を示し、さらに晩成性鳥類を含む様々な鳥種におけるPRL転写制御領域及びcDNA構造を明らかとした本研究結果は、家禽においては卵産生、稀少鳥類においては種の保存に関連する研究分野に大きく貢献すると言える。}, title = {鳥類プロラクチンに関する分子遺伝学的研究}, year = {} }