@misc{oai:az.repo.nii.ac.jp:00003284, author = {池田, 義則}, month = {2013-02-21, 2014-08-19}, note = {一酸化窒素(NO)は生体内でNO合成酵素(Nitric Oxide Synthase: NOS)によりL-アルギニンと酸素を基質として種々の細胞で産生されており、極めて多様な作用を有している。妊娠中にNO代謝産物の尿中への排泄が増加することから、妊娠中にNO産生が増加していると考えられる。  胎盤においてもNOSの存在は報告されており、血流量の維持や血栓形成の防止などとの関連が示唆されているが、NO産生量の解析が困難なこともあり、NO産生量やその調節機構は不明である。また、胎盤におけるNOの役割についても不明な点が多い  以上のことから、本研究では、妊娠ラットを用いて、胎盤におけるNO産生とその調節機構を明らかにするために、(1)ラット胎盤におけるNO産生とNOSアイソフォーム発現の解析、(2)NO産生に及ぼすステロイドホルモンの影響、(3)NO産生に及ぼす低酸素誘導因子(Hypoxia Inducible Factor-1α: HIF-1α)と腫瘍壊死因子-α(Tumor Necrosis Factor-α: TNF-α)の関与、(4)NOが血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor: VEGF)とグルコーストランスポーター1(Glucose Transpotor1: GLUT1)に及ぼす影響について、NO産生を直接測定できるスピントラップ・EPR法とNOS阻害剤L-NAMEを用いたNO産生抑制モデルラット用いることにより明らかにした。 (1)ラット胎盤におけるNO産生とNOSアイソフォーム発現の解析  ラット胎盤においてNOSの存在は報告されているが、NO産生の解析についての報告は少ない。そこで、スピントラップ剤であるジチオカルバメイト鉄錯体(Fe-N-(dithiocarboxy)sarcosine: Fe-DTCS)を用いてNOをスピントラップした後、電子常磁性共鳴吸収(Electron Paramagnetic Resonance: EPR)装置によりNO産生量を解析した。さらに、NO産生に寄与するNOSアイソフォームの発現をRT-PCRにより検討した。  妊娠13日から21日のラット背部にFe-DTCS(500mg/kg)を皮下投与し、30分後に胎盤を採取し、EPR解析を行うと、胎盤におけるNO産生は妊娠13日から21日まで認められた。次に、妊娠13日から21日の無処置ラットの胎盤を採取し、RT-PCRを用いてiNOSmRNAおよびeNOSmRNAの発現を解析すると、iNOSmRNAの発現は妊娠15日に高値を示し、NO産生パターンとよく一致していた。一方、eNOSmRNAの発現は妊娠期間を通じて認められたものの、その発現量はほぼ一定であった。  以上のことから、ラット胎盤におけるNO産生パターンとiNOSmRNAの発現パターンがよく一致していたことから、胎盤におけるNO産生は主にiNOSにより転写レベルで調節されているものと考えられた。また、NO産生に対するeNOSの寄与は少ないと考えられた。 (2)ラット胎盤におけるNO産生に及ぼすステロイドホルモンの影響  (1)においてラット胎盤におけるNO産生をスピントラップ・EPR法により解析すると、妊娠15日にNO産生量はピークを示し、この時期のNO産生は主にiNOSにより転写レベルで調節されているものと考えられた。子宮内膜においてはステロイドホルモンによりNOSの発現が影響されることから、胎盤におけるNO産生に及ぼすステロイドホルモンの影響を抗ステロイド剤を用いて検討した。  抗プロジェステロン剤(RU486)または抗エストロジェン剤(Raloxifene)を妊娠12日から14日まで、それぞれ3日間(1mg/kg/day)投与し、iNOSmRNAとeNOSmRNA発現量を検討したところ、対照群との間に有意差はなく、抗ステロイド剤の影響は認められなかった。  抗ステロイド剤投与によりiNOSmRNAおよびeNOSmRNAの発現が変化しなかったことから、胎盤におけるこの時期のNOSの発現はステロイドホルモンの影響を受けていない可能性が示唆された。 (3)ラット胎盤におけるNO産生に及ぼすHIF-1αおよびTNF-αの関与  (2)において妊娠15日にピークを示すNO産生がステロイドホルモンにより調節されていない可能性が示され、他の因子の関与が考えられた。そこでiNOS遺伝子の転写調節に関与することの知られているHIF-1と炎症性サイトカインの一つであるTNF-αの関与について検討した。なお、HIF-1についてはHIF-1を構成する2量体のうちHIF-1αについて検討した。  妊娠13日から21日のHIF-1αmRNA発現量、HIF-1αタンパク量およびTNF-αmRNAをRT-PCRとウエスタンプロットにより解析した。次に、NO産生のピークを示す妊娠15日とNO産生が最も低値を示す妊娠21日のラットにNOS阻害剤L-NAMEを持続注入するNO産生抑制モデルを作製し、その後、胎盤中のNO産生量、HIF-1αタンパク量、HIF-1αmRNA、iNOSmRNAおよびTNF-αmRNAの発現量を解析した。  HIF-1αmRNA発現、HIF-1αタンパク量、TNF-αmRNA発現は妊娠13日から21日まで認められたものの、妊娠時期による有意な変化は認められなかった。  次に、NO産生がピークにあたる妊娠15日のラットにNOS阻害剤L-NAMEを持続注入することにより、NO産生量を減少させるとNO産生量の減少する時期と一致してHIF-1αタンパクは減少し、その後、L-NAMEの注入を停止した24時間後には完全に回復した。また、HIF-1αmRNAおよびiNOSmRNAの発現量はL-NAME注入後から持続的に増加した。しかし、TNF-αmRNA発現量に変化は認められなかった。  一方、NO産生が最も低値を示す妊娠21日では、NO産生を減少させてもHIF-1αタンパク量およびHIF-1αmRNAの発現に変化は認められなかった。しかし、TNF-mRNAの発現は対照群に比べて約5倍に増加し、iNOSmRNAの発現も増加していた。  以上のことからHIF-1αmRNAとHIF-1αタンパクおよびTNF-αmRNAはラットの胎盤において恒常的に発現している。また、NO産生がピークを示す妊娠15日の胎盤ではNO産生を抑制すると、HIF-1αタンパクが減少し、NO産生の抑制を解除するとHIF-1αタンパクは回復すること、さらに、NO産生が抑制されている時期にHIF-1αmRNAおよびiNOSmRNAの発現量が持続的に増加していることから、HIF-1がiNOSを介してNo産生を制御している可能性が示唆された。一方、NO産生が最も低値を示す妊娠21日においては、L-NAME注入後NO産生が減少してもHIF-1αタンパク量およびHIF-1αmRNAの発現に変化は認められなかったが、TNF-αmRNA発現量が急増し、また、iNOSmRNAも増加したことから、妊娠21日の胎盤においては、HIF-1αを介したiNOSの誘導機構はほぼ消失し、iNOSはTNF-αを介して誘導されている可能性が示唆された。 (4)VEGFおよびGLUT1に及ぼすNOの影響  胎盤においては主にGLUT1を介して細胞内へのグルコースの取込みが行われている。胎盤においてはNOとVEGFが相互に作用している可能性がある。さらに、VEGFとGLUT1はともにHIF-1の標的遺伝子でもある。そこで、胎盤で産生されるNOがVEGFおよびGLUT1に及ぼす影響を検討した。  NO産生がピークを示す妊娠15日と低値を示す妊娠21日のラットにおいてL-NAMEによるNO産生を抑制し、その後、経時的にNO産生量、VEGFmRNAおよびGLUT1mRNAの発現量を解析した  L-NAME注入により妊娠15日のNO産生を抑制させると、VEGFmRNAの発現量は一時的に減少し、その後、徐々に回復した。また、GLUT1mRNAの発現量はNO産生量の減少に伴って徐々に増加した。一方、妊娠21日においてはNO産生を抑制しても、VEGFmRNAとGLUT1mRNAの発現量に変化は見られなかった。  以上のことから、NO産生がピークを示す妊娠15日においては、NO産生を抑制するとVEGFの発現が減少することから、NOがこの時期の胎盤におけるVEGF発現を促進していること、GLUT1の発現にはNO産生抑制時の代償機構が存在していることが示唆された。  以上の結果からラット胎盤におけるNOの産生は妊娠15日にピークを示し、このNO産生は主にiNOSにより調節されているものと考えられた。そして、胎盤におけるこの時期のNOSの発現はステロイドホルモンの影響を受けていない可能性が示された。さらに、NO産生がピークを示す妊娠15日ではHIF-1がiNOSを介してNO産生量を制御していると考えられた。また、NO産生が低値を示す妊娠21日では、TNF-αを介して誘導されていることが示唆された。また、NO産生量の多い妊娠15日においては、NOがVEGFの発現を促進していること、および、GLUT1の発現にはNO産生抑制時の代償機構が存在していることが示された。}, title = {ラット胎盤における一酸化窒素(NO)産生とその調節機構}, year = {} }