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炭酸脱水酵素アイソザイム-Ⅲ (CA-Ⅲ)のラット消化器系器官における組織局在と発現に関する研究
https://az.repo.nii.ac.jp/records/3239
https://az.repo.nii.ac.jp/records/3239c1e54b18-6ab8-42cb-8ea0-2fbbd03efb87
名前 / ファイル | ライセンス | アクション |
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Item type | 学位論文 / Thesis or Dissertation(1) | |||||||
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公開日 | 2013-02-13 | |||||||
タイトル | ||||||||
タイトル | 炭酸脱水酵素アイソザイム-Ⅲ (CA-Ⅲ)のラット消化器系器官における組織局在と発現に関する研究 | |||||||
言語 | ||||||||
言語 | jpn | |||||||
資源タイプ | ||||||||
資源タイプ | thesis | |||||||
著者 |
五十嵐, 真一
× 五十嵐, 真一
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抄録 | ||||||||
内容記述タイプ | Abstract | |||||||
内容記述 | 炭酸脱水酵素(Carbonic Anhydrase:以下CA)は1933年に発見され、現在では最もよく研究されている酵素の一つである。CAは亜鉛を含む金属酵素であり、CO_2とH_2CO_3との間の脱水または水和反応を触媒し、CAが生体内に欠損すればその反応速度は1/10^7まで減速するといわれている。CAは生物界では細菌から植物、そして哺乳類に至る広範囲の生物が所有していることから生命活動を維持するためには欠かせない酵素の一つと考えられる。 哺乳類のCAが赤血球中ではCA-IとCA-Ⅱのアイソザイムとして存在することが発見されたのは、1960年代の初めであったが、現在では9種類のアイソザイムが発見されている。当時からCAは赤血球以外の生体内に分布することが研究されていたが、筋肉だけには存在しないといわれていた。しかし、1970年代後半になると筋肉中にもCAアイソザイムが存在することが発見され、筋肉型炭酸脱水酵素(CA-Ⅲ)と命名された。CA-Ⅲの酵素活性はCA-Ⅰ、CA-Ⅱに比べて低いが、その反面CAの酵素阻害剤に対しては強い抵抗性があり、他のアイソザイムとの性状の違いが明らかとなった。しかし、CA-Ⅲの研究は筋肉中での働きに重きが置かれてきたが、筋肉以外での組織局在や、また筋肉中での生理学的意義は十分解明されていない。 本研究の前半はこの新たに発見された酵素であるCA-Ⅲの筋組織以外における発現を明らかにするために、ラットの消化器系器官に着目し、その組織局在について精査した。すなわち、CA-Ⅲの生体での局在を明らかにすることで、CA-Ⅲの存在意義を解明する一助になると考えたからである。ここでの実験手法としては主に免疫組織化学的方法を用いて検討した。特に今回の研究では、ラットのCA-ⅠおよびCA-Ⅱの本方法での検討が十分なされていないため、これらのアイソザイムとCA-Ⅲを比較しながら研究を行った。さらに同一の組織に3種類のアイソザイムが存在することが明らかになった組織では、これらのアイソザイムが同一場所に存在する意義を解明するため、発生、成長過程における発現時期についての解明を試みた。 ラット肝臓には免疫組織化学的分析では、この酵素が雌には存在しないことが明らかになった。そこで、本研究の後半は、酵素免疫測定法(EIA)を用いてCA-Ⅲの定量を行い、性差を明確にした。次に、CA-Ⅲが雄のラットの肝臓に特異的に存在することから、実験的に性差を逆転させる方法を行った。すなわち、インスリン分泌を抑制すると、二次的に成長ホルモンの分泌タイプが雄型から雌型に変化させることができるため、STZを投与して実験的に糖尿病を発症させた。ここではこの糖尿病のラットを用いて病態進行による本酵素の組織局在、酵素含有量、遺伝子発現の変化について免疫組織化学的、免疫細胞化学的、生化学的および分子生物学的手法により総合的に分析を行った。 1. 消化器系器官におけるCA-Ⅲの組織局在について―CA-Ⅰ、CA-Ⅱとの比較 Slc:SDおよびJla:Wistar系ラットの舌、食道、胃、十二指腸、空腸、回腸、結腸、直腸、下顎腺、舌下腺、耳下腺、肝臓、膵臓におけるCA-Ⅲならびに比較対照として残る二つのCA-Ⅰ、CA-Ⅱの組織局在も同時に調べた。摘出した各臓器はBouin液で固定後、常法に従いパラフィン包埋した。作製した切片(4μm)はCA-Ⅰ、CA-ⅡおよびCA-Ⅲに対する抗血清を用いてABC-POD法により免疫組織化学的染色を施し、光学顕微鏡で観察した。 さらに、CA-Ⅲの細胞内における局在を調べるために、Slc:SD系ラットの耳下腺にCA-Ⅲ抗体によるプレエンベディング法を用いたABC-POD法により免疫染色を施し、電子顕微鏡を用いて観察した。 これらの実験から次のことが明らかになった。 (1)Slc:SDとJla:Wistarの系統による差は認められなかった。雌雄差は後述する肝臓を除いて認められなかった。 (2)ラットの舌および食道では筋組織内でCA-Ⅲの免疫反応は認めたものの粘膜上皮はいずれのアイソザイムも存在しなかった。胃粘膜では腺胃部の壁細胞および被蓋上皮細胞ではCA-Ⅱのみが認められたが、CA-ⅢおよびCA-Ⅰは認められなかった。十二指腸、空腸および回腸の粘膜上皮全域で全てのアイソザイムは陰性であった。盲腸および結腸では粘膜上皮細胞にCA-Ⅲ並びにCA-Ⅰ、CA-Ⅱが認められ、それらは盲腸および結腸の内腔側表面および腸腺上部の吸収円柱細胞に見られ、下部の未分化細胞および杯細胞にはいずれのアイソザイムも存在しなかった。腸管の上皮細胞は腸腺底部付近で分裂増殖し、順次、管腔に向かって押し出されるように整然と移動することが分かっていることから、CAアイソザイムの発現は細胞が一定の成熟度に達した時点で細胞内において急激に蛋白合成が亢進することによると考えられた。免疫反応は各アイソザイムとも盲腸および結腸近位部が最も強く、結腸遠位部では弱くなり、直腸ではさらに弱くなっていた。以上のことから、大腸では3つのCAアイソザイムが協調して水分の吸収や酸塩基の交換に関与しているとともに、水分の吸収と酸塩基の交換能力には部位により差があることを示唆しているものと考えられた。 (3)唾液腺については耳下腺、下顎腺、舌下腺とも介在導管、線条導管および小葉間導管の導管系上皮細胞にCA-ⅢならびにCA-Ⅰ、CA-Ⅱが存在していた。一方、腺房細胞にはいずれのアイソザイムも存在しなかった。また、耳下腺の免疫電子顕微鏡法により観察した結果、CA-Ⅲは導管系上皮細胞の細胞質内に広く存在していることが確認された。以上より、ラットの唾液腺におけるCA-Ⅰ、CA-Ⅱ、CA-Ⅲの役割は唾液の分泌に直接関与するのではなく、導管におけるイオン交換のためにH^+とHCO_3^-を供給する役割を担っていることが示唆された。 (4)肝臓はCA-Ⅰ、CA-Ⅱ、CA-Ⅲ抗体により肝細胞が染色され、特に中心静脈周辺の肝細胞が強く染色された。このCA-Ⅲの反応では明らかな性差が認められ、雌の肝細胞内にはCA-Ⅲは存在していなかった。このことから、肝臓におけるCA-Ⅲの発現には性ホルモンとの関係が示唆された。 (5)膵臓においては導管上皮細胞がCA-Ⅰ、CA-Ⅱ、CA-Ⅲ抗体により染色された。 以上のことから従来、筋肉型アイソザイムとして知られているCA-Ⅲはラット消化器系器官の特定な上皮にも局在することが明らかになり、特に肝臓ではその発現に性差があることが明らかになった。 2. 消化管粘膜の発育過程におけるCA-Ⅲの発現と変化について―CA-Ⅰ、CA-Ⅱとの比較 Slc:SD系ラットの消化管粘膜におけるCA-Ⅲの発現開始時期とその後の変化を胎齢21日の胎仔、並びに生後0日から70日齢までの成長過程のラット消化管を用いて免疫組織化学的手法により、CA-Ⅰ、CA-Ⅱとの比較検討を行った。胃では腺胃部の壁細胞および被蓋上皮細胞が生後7日からCA-Ⅱの存在が確認されたのみであった。小腸各部ではどの時期においても陰性であった。大腸では盲腸および結腸近位部ではCA-Ⅱの生後4日、CA-Ⅰの生後12日にその発現が認められたのに比べ、CA-Ⅲは最も遅れて、生後21日からそれぞれの存在が確認された。各抗体による染色性は日齢の経過とともに増強した。また、哺乳期の腸上皮細胞に見られる特有の空胞細胞ではいずれのCAアイソザイムも染色されず、この時期に残る胎仔性の絨毛基底部および絨毛間の円柱上皮細胞のみが染色された。生後21日以降では胃腸粘膜は成獣とほぼ同様の組織形態を示し、いずれのCAアイソザイムも成体で見られたように、大腸の粘膜側表面および腸腺上部の吸収円柱細胞に存在しており、腸腺下部の未分化な上皮細胞および杯細胞には存在しなかった。染色の状態は盲腸および結腸近位部が最も強く染まり、結腸遠位部では弱かった。 以上、ラット消化管においてはCAの各アイソザイムのうちCA-Ⅱ、続いてCA-Ⅰ、続いてCA-Ⅲの順に発現することが明らかとなった。また、その発現は成長に伴う消化管内環境の変化と深く関わっていることが示唆された。 3. 実験的糖尿病ラットの消化器系器官におけるCA-Ⅲの変化について 前述までの研究により、CA-Ⅲは特に、肝臓において雄のみに発現するという性差が明らかとなり、CA-Ⅲの発現は、その程度は不明ながらも、性ホルモンの存在との間に強い関係が示唆された。近年、糖尿病下でインスリン分泌が抑制されると、脳下垂体からの成長ホルモンの分泌様式が雄型から雌型に変化するという報告がなされた。そこで本実験は、糖尿病及び、その病態下における雄性ホルモン(Testosterone)の量的変化に着目して、ラットにStreptozotocin(以下、STZ)を投与し、実験的に糖尿病を惹起させ、糖尿病におけるCA-Ⅲの変化について、初めに、糖尿病病態下で、今までの研究で免疫反応が認められた消化器系器官全般について免疫組織化学的方法により本酵素の組織局在の変化を調べた。続いて肝臓、骨格筋または唾液腺に焦点を絞り、それらに含まれる本酵素の酵素免疫学的分析を行い、並びに分子生物学的手法による組織上におけるCA-Ⅲ蛋白をコードするmRNAの局在とmRNA量の変化を検討した。 1)免疫組織化学的方法による組織局在について STZ投与により、ラットに実験的糖尿病を惹起させ、糖尿病の持続に伴う唾液腺、大腸、肝臓および膵臓の経時的な組織変化とCA-Ⅲの組織局在の変化について検討した。 唾液腺のCA-Ⅲ陽性反応は無処置のラットの耳下腺、下顎腺および舌下腺では導管系の上皮細胞内に認められた。一方、STZ投与群においては投与後6週では耳下腺および下顎腺の腺房細胞の空胞化が散見され、その程度は耳下腺の方が強かった。舌下腺には顕著な組織変化は認められなかった。CA-Ⅲは耳下腺および下顎腺の導管系の上皮細胞で陽性反応が減弱していた。投与後10週では耳下腺および下顎腺の腺房細胞の空胞化はさらに顕著になるとともに、個々の細胞の萎縮像が見られた。この時期、CA-Ⅲ陽性反応は耳下腺の導管系の上皮細胞ではほとんど認められなくなり、舌下腺および下顎腺では減少していた。さらに投与後12週ではCA-Ⅲ陽性細胞は舌下腺および下顎腺においてもほとんど認められなくなった。 大腸粘膜上皮および膵臓導管上皮ではCA-Ⅲ陽性反応はSTZ投与群と無処置群との間に差はなかった。 雄の肝臓ではCA-Ⅲ陽性反応はSTZ投与群では投与6週で減弱が認められ、投与10週および12週では著しく減弱していた。 以上のことから、唾液腺および肝臓のCA-Ⅲは実験的糖尿病において減少することが明らかとなった。しかも、組織学的には組織変化の少ないと思われる導管系の上皮細胞のCA-Ⅲが減少したことは糖尿病が唾液腺導管系に対しても生理機能的な障害を惹起させることを示唆するものと考えられる。 2)CA-ⅢのEIA法による定量について 前述した形態学的な変化(特に肝組織)を裏付けるために糖尿病ラットの病状の持続に伴う肝臓、血清および骨格筋におけるCA-Ⅲの経時的変化とInsulinおよびMethyltestosterone(以下、MTS)の投与による。CA-Ⅲへの影響について検討した。糖尿病群のCA-Ⅲ濃度は肝臓ではSTZ投与6週から、血清では5週から対照群に比べ有意に低下した。一方、骨格筋につていは対照群と差はなかった。Insulin投与群のCA-Ⅲ濃度は血清ではSTZ投与後8週および12週で低下したが、肝臓では対照群と差はなかった。Insulin中止群ではSTZ投与後12週で肝臓および血清のCA-Ⅲの低下が認められ、MTS投与群ではSTZ投与後8および12週で低下が認められた。また、糖尿病群の血清中Testosterone濃度はSTZ投与後5週から有意に低下した。このように生化学的検討の結果と免疫組織化学的検討の結果は一致した。 以上の定量的な検索の結果からも、実験的糖尿病ラットにおいては、肝臓中のCA-Ⅲが減少することが明らかとなった。また、ラットにおいてCA-Ⅲの合成に関与していると考えられているTestosteroneは糖尿病によって低下した。 3)CA-ⅢmRNAの組織上での検出と発現量について 分子生物学的手法により組織におけるCA-Ⅲの遺伝子発現を明らかにし、アイソザイム発現と遺伝子発現との関係を検討した。 生後10週の雄ラットにSTZを投与し、投与56日後に剖検し、肝臓、耳下腺、および対照として下垂体を4%PRA/PBSで6時間浸漬固定した。各臓器はパラフィン切片を作製し、5'-末端にジゴキシゲニンを標識した合成オリゴヌクレオチドプローブを用いて、In situ hybridization法により、ラットでのCA-ⅢのmRNA発現時期について検討した。また、RT-PCR法により、肝臓におけるmRNA量の変化について検討した。 肝臓における対照群では免疫組織化学的な染色結果と同様に、肝細胞の細胞質にmRNAの発現が認められた。mRNAはSTZ投与群では中心静脈周囲にあるわずかな細胞にのみ発現したが、他の肝細胞には発現しなかった。耳下腺においては対照群で導管系上皮細胞の細胞質内に一様にmRNAの発現を確認したが、STZ投与群では反応が認められなかった。また、RT-PCR法によっても肝臓のCA-ⅢmRNA量は明らかに減少していることが確認された。 以上、本研究により従来から筋肉型炭酸脱水酵素と言われていたCA-Ⅲのラット消化器系器官における組織局在、細胞局在および発現時期の様相を明らかにした。すなわち、ラットの本酵素は消化器系器官の特定の上皮細胞にも存在し、CA-ⅠやCA-Ⅱの機能と協同しながら、さらにそれらの代償性酵素としこれらの部分に共存していると考えられた。また、糖尿病下では雄ラットの肝臓中のCA-Ⅲが減少することが明らかになり、これは内分泌的に雌雄の転換(雄型から雌型へ)が行われたことが背景になったと考えられる。このことはラットのCA-Ⅲが性ホルモンの影響を受けて変動することを示しているため、本酵素が近年問題になっている性ホルモン分泌の撹乱物質などの高等動物への影響を調査研究するマーカーの一つになる可能性を示唆している。すなわち、魚類において血清中のビテロジェニンを測定することで雄から雌化への変化を判定できるように、本酵素を用いることによりラットでもこの判定が可能であることが示唆された。 |
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学位名 | ||||||||
学位名 | 博士(獣医学) | |||||||
学位授与機関 | ||||||||
学位授与機関名 | 麻布大学 | |||||||
学位授与年月日 | ||||||||
学位授与年月日 | 2001-05-28 | |||||||
学位授与番号 | ||||||||
学位授与番号 | 乙第387号 | |||||||
著者版フラグ | ||||||||
出版タイプ | AM | |||||||
出版タイプResource | http://purl.org/coar/version/c_ab4af688f83e57aa |