@misc{oai:az.repo.nii.ac.jp:00003213, author = {新妻, 勲夫}, month = {2013-02-19, 2014-08-18, 2013-06-22}, note = {イヌの可移植性性器腫瘍(Canine Transmissible Venereal Tomour,以下CTVTと省略する)は雌雄の外部性殖器に発生する腫瘍で,感受性のあるイヌが交尾することによって,伝染する腫瘍である。また,実験的に移植が成功した最初の腫瘍といわれ,多数の業績が報告されている。しかし,詳細については不明の点の多いのが現状である。例えば,由来細胞についてもリンパ球,組織球,細網細胞等と諸説があり,伝染様式についても,細胞移植説やウイルス説等があり一定していない。これまでの報告は単純な移植実験や光学顕微鏡,電子顕微鏡的観察によるものであった。近年,移植技術の向上,ヌードマウス・ラットの使用,細胞培養技術の進展および細胞工学的な研究手段も普及してきている。そこで,著者はこうした最新の研究手段を用い,不明の点の多いCTVTについて改めて総合的に検索することにした。研究の主体は,(1)移植実験により研究材料の確保と移植成績を明らかにし,(2)CTVT細胞の組織培養を試み,(3)移植CTVTの染色体,核型(Karyotypes)の同一性を確認し,(4)CTVT細胞のモノクローナル抗体を作成,(5)CTVTの血管の特徴を明かにし,(6)CTVTを鶏胚の漿尿膜に移植,移植成績と抗癌剤投与による影響について観察し,(7)CTVT細胞の起源を明かにするために免疫組織化学的および超徴形態学的に検索し,由来細胞について検討することである。  (材料と方法)  1.CTVTの移植:膣に発生したCTVT(野外例),北海道大学獣医学部,家畜外科学教室から分与されたCTVT(北大株)を摘出,Single cell suspensionとし,生細面数3x10^6~5x10^6/匹に調整,イヌ9匹,3ケ月齢。ヌードラットは無胸腺のもの96匹,生後5~6週齢の皮下または腹腔内に接種した。約3~4ケ月後,イヌおよびヌードラットに継代移植した。さらにヌードラット移植CTVTを1mm^3角に細切後,11日鶏胚の漿尿膜に移植した。  2.CTVT細胞の培養:腫瘍の一部を無菌的に摘出,カナマイシン加PBSで3回洗浄後,腫瘍細胞をGrowth mediumに再浮遊させ,生細胞数1×10^6/mlに調整し37℃,5%CO_2下にて静置培養を行った。  3.CTVT細胞の核型(Karyotypes):摘出した腫瘍をSingle cell suspensionとしコルセミドの最終濃度が0.2μg/mlとなるようにGrowth medium内に添加し,常法によりGiemsa染色を施し光顕観察した。  4・モノクローナル抗体の作製:腫瘍の一部を無菌的に摘出,細胞を1.5x10^7/匹に調整,生後8週齢のBALB/cマウスの腹腔内に接種した。免疫は5回行い,最終免疫終了後,常法に従って処理し,HAT選択法,ELISA法,酵素抗体法(間接法)を施した。  5.CTVTの光顕的観察:摘出した腫瘍は常法に従い処理し,切片の染色にはH・E染色,ライト・ギムザ染色,ペルオキシダーゼ染色,アルカリホスファターゼ染色,酸性ホスファターゼ染色,ズダン黒B染色,PAS染色等を行い光顕観察した。  6.CTVTの電顕的観察:摘出した腫瘍を常法に従い処理し,通常観察には2.5%グルタールアルデヒドを,細胞骨格の観察には細胞骨格を見よくするために4%タンニン酸加2.5%グルタールアルデヒドを用いて固定し,超薄切片を作製して電顕観察した。  7.CTVTの血管系:ヌードラットに移植して,移植後4~5ケ月で腫瘍が鶏卵大のものを使用した。右心室より放血し左心室よりヘパリン加リンゲル液で全身を潅流後,メルコックス樹脂を注入した。ヌードラットを20%苛性ソーダで溶解し標本を実体顕微鏡および走査型電子顕微鏡で観察した。  8.鶏胚移植CTVTおよび対照腫瘍の抗癌剤投与による観察:腫瘍移植後3日目,鶏胚の漿尿膜に腫瘍が生着したものの卵黄嚢に抗癌剤(注射用ピンクリスチンおよび注射用アスパラギナーゼ)を注入し,4日後に剖検して腫瘍の変性および血管の変化を肉眼的および光顕的に観察した。  9.移植CTVT細胞の免疫組織化学的観察:摘出した腫瘍を常法に従い処理し,細胞骨格の細胞内分布の検索にパラフィン切片ではケラチン,デズミン,ビメンチン,ミオシン,凍結切片ではアクチン,チュブリンを用い,メチルグリーン核染色を行い光顕観察した。  (結果)  1.CTVTの移植成績:イヌ継代移植においては実験材料としてのイヌの確保が難しく,充分な例数の実験が行えず継代3代目,無胸腺ヌードラット皮下移植では移植率約100%で継代12代目で実験を打ち切った。鶏胚の漿尿膜への移植はCTVTおよび対照の腫瘍を含めて約85%の移植率であったが,腫瘍が継代に適する大きさに増殖しなかった。  2.CTVT細胞の培養所見:培養を継続すると,浮遊細胞は集塊を形成し線維芽細胞様の細胞の上に,類円形細胞が付着状態で維持,類円形細胞は減少し,培養開始約30日頃には死滅したが,浮遊細胞の継代培養はほぼ8代目まで可能であった。  3.CTVT細胞の核型(Karyotypes):イヌおよびヌードラット移植CTVT細胞の染色体について分析した結果,17本のBiarm chromosomesと,42本のAcrosentric chromosomesが観察された。また,染色体数の検索では双方とも59本であった。  4.モノクローナル抗体の作製:常法により培養上清のチェックを行い,抗体産生の確認がされ,作製したモノクローナル抗体の培養上清を一次抗体として,イヌのリンパ球,ヌードラット移植CTVT細胞,北大株CTVT細胞を染色したところ,イヌのリンパ球は陰性,ヌードラット移植CTVT細胞および北大株CTVT細胞は陽性であった。また,免疫電顕で,抗CTVTモノクローナル抗体で認識される部位が細胞膜および粗面小胞体であることが確認出来た。  5.CTVTの光顕的所見:野外例CTVT,イヌ移植CTVT,ヌードラット移植CTVTおよび鶏胚移植CTVT共に,ほぼ同様な形態を示し,腫瘍細胞は10μ内外,核は6~8μで多角形または楕円型で密集していた。  6.CTVTの電顕的所見:野外例,移植例共に,核の中央部に明瞭な核小体が1個存在し,細胞内小器官の発達は中等度で,ミトコンドリア,リボゾーム,粗面小胞体などが胞体内全体に均一に認められた。また,細胞質内には束状の中間系フィラメントが,細胞小器官の間に多数錯走して認められ,それらの間に徴小管が認められた。  7.CTVTの血管系:正常の動脈では血流調節機能である(intra-arterial cushion)が分岐部に認められた。腫瘍に近くなるとともにintra-arterial cushionの輪郭は不明瞭になり,腫瘍内部の動脈では存在しなかった。さらに,組織学的には腫瘍の動脈壁に変性や線維が認められた。  8.鶏胚移植CTVTおよび対照腫瘍の抗癌剤投与による所見:腫瘍は褐色あるいは黄色に変化し,形状は縮小し,漿尿膜は不透明となり,呼び込んだ毛細血管も縮小し,投与前に比較して毛細血管の数も減少した。  9.移植CTVT細胞の免疫組織化学的所見:細胞骨格成分の中間系フィラメントの検索では,上皮細胞および中皮細胞とその腫瘍等にあるケラチンは陰性の所見で,間葉系細胞とその腫瘍等にあるビメンチンがCTVT細胞の核周囲に,筋肉細胞とその腫瘍等にあるデズミンが細胞質内全体に見いだされ,陽性所見であった。また,微小管のチュブリンは細胞質全体に,アクチンフィラメントのアクチンは腫瘍細胞の境界部に,ミオシンは細胞質全体に陽性像が認められた。  (結論)  1.CTVTは無胸腺ヌードラットで約100%の移植率であり,これを継代することで実験材料としてのCTVTの効果的な保存方法を確立出来た。  2.CTVT細胞の培養は,浮遊細胞による継代が可能で,実験材料としてのCTVT細胞の保存が出来た。  3.CTVTの染色体は,イヌおよびヌードラットに移植されても染色体数は59本で,同じKaryotypesであることが確認出来た。  4.作製したCTVTのモノクローナル抗体を用いて,ヌードラットCTVTおよび北大株の染色では陽性像であったことから,本モノクローナル抗体はCTVT細胞に有効なマーカーと成り得た。  5.CTVT内部の動脈の血管分岐部には,intra-arterial cushionが存在せず,正常血管に比較して血流調節に欠陥のあることを確認した。  6.鶏胚の漿尿膜にはCTVT他,対照とした腫瘍の移植が可能であることが確認出来たことと,抗癌剤投与によって新生毛細血管の縮小,消失が腫瘍の種類,抗癌剤の種類によって異なることが判明した。  7.CTVT細胞の起源の追求では,光顕的には細胞質の変形しているものが多く,組織球様の腫瘍細胞として観察されたが,細胞の食作用は見られなかった。電顕的には組織球様または未分化な細網細胞様の形態として観察された。また,ウイルス粒子は認められなかった。CTVTの細胞骨格蛋白成分の中間系フィラメントのケラチンは染色されず,ビメンチンおよびデズミンが染色されることが確認出来た。今回の検索データのみではCTVTの起源について証明するまでには至らなかった。}, title = {イヌの可移植性性器腫瘍の生物学的研究}, year = {} }