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緑膿菌の病原性に関する実験的研究 : 感染に澄けるプロテアーゼ,エラスターゼの役割について
https://az.repo.nii.ac.jp/records/3174
https://az.repo.nii.ac.jp/records/31749ef2849b-4bc0-4a31-85bd-873c412204a4
名前 / ファイル | ライセンス | アクション |
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Item type | 学位論文 / Thesis or Dissertation(1) | |||||||
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公開日 | 2013-01-22 | |||||||
タイトル | ||||||||
タイトル | 緑膿菌の病原性に関する実験的研究 : 感染に澄けるプロテアーゼ,エラスターゼの役割について | |||||||
言語 | ||||||||
言語 | jpn | |||||||
資源タイプ | ||||||||
資源タイプ | thesis | |||||||
著者 |
河原條, 勝己
× 河原條, 勝己
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抄録 | ||||||||
内容記述タイプ | Abstract | |||||||
内容記述 | 緑膿菌が分離された当初は,一般に本菌の病原性は弱いものと考えられていたが,化学療法剤,なかでも抗生物質の進歩普及に伴ない,臨床各科において,緑膿菌感染症は増加の傾向にある。家畜では牛,豚,犬,ニワトリ,マウス等の感染症の報告があり,最近は牛の乳房炎,ミンクの出血性肺炎がかなり問題となっている。 本菌は自然界に広く分布し,正常人や実験動物の皮膚,腸管から見出され,常在細菌として宿主に定着していると考えられている。この宿主と緑膿菌のバランスは寄生体側あるいは宿主側の種々の要因によって破られるのであって,ここにConditioned Pathogenとしての本菌の病原性が発現する。宿主側の要因としては感染防御機構の未熟ないし低下が考えられる。寄生体側の要因としては,本菌の菌体外産生物質,または菌体構成成分,またはその両方がその病原性の一部を荷なっていることは明らかであるが,感染局所の臓器組織により,または,個体差,週令,動物種によりその現わす症状も異なってくる。菌体外産生物質としてはアルカリ性プロテアーゼ,エラスターゼをはじめ各種物質が知られており,それぞれ病原性の因子となりうるものである。つぎに,菌体構成成分であるが,一般にグラム陰性桿菌に共通のものとして,内毒素があることはよく知られている。本菌感染症の病因はそれらの多様な物質の組合わせの上に,環境因子が加わり,さらに,宿主側の条件が重なって発現するのであるが,緑膿菌の病原性の発現は多様であり,本菌感染症の病像は多彩である。 今回は緑膿菌の病原性について,寄生体,つまり細菌学的立場から本問題についての検討を行った。本菌の産生するプロテアーゼ,およびエラスターゼが強い生体作用をもつということは二,三の実験から推定されていた。しかし,菌体外産生物質は種々様々なものが含まれているので,その個々の活性を明らかにするためには高度に精製された標品を必要とする。この点で森原の結晶化された両酵素は極めて適当な標品といえる。 この結晶のプロテアーゼ,およびエラスターゼの生体作用を調べた。その実験方法および結果は次の様である。 (I) 角膜に対する作用 プロテアーゼはPH7.4の0.1M燐酸緩衝液(以下PBと略す)に溶解し,同液で20.4,および0.8μg/0.01mlの濃度に調製した。エラスターゼは10mM Na-acetateおよび5mM CaCl_2を添加した生理食塩水(以下PSと略す)で50,10,および2μg/0.01mlの濃度に調製した。麻酔を施したマウスの角膜中央部に3ケ所の傷を作り,次に,この傷をつけた角膜上に,上記のプロテアーゼ,およびエラスターゼ溶液の0.01mlを1回点眼した。角膜障害は24時間後と72時間後に観察した。両酵素の0.8~2μgは角膜の創傷部附近に白濁を起こし,4~50μgでは角膜に明らかな白濁と潰瘍が起こった。病理組織学的に,両酵素共ほぼ同様に角膜支質の膨化,スポンジ様変化,そして嚢胞化が認められた。 (II) 皮膚に対する作用 プロテアーゼはPBで1000,500,250,50,10,2および0.4μg/0.1mlの濃度に調製した。エラスターゼはPSに懸濁させ,0.1N NaOHを徐々に加えて溶解し,PSで1000,500,250,50,10,2および0.4μg/0.01mlの濃度に調製した。これら溶液を前もって剪毛しておいたウサギの背部皮内に接種した。皮膚障害は2時間後と20時間後に観察した。両酵素の50μgは接種局所とその皮下に出血を起こし,250μgでは潰瘍と皮下に広範囲な出血が起こった。また,500~1000μgでは皮膚の広範囲な潰瘍と壊死,そして皮下に激励な出血が起こり,腹部に多量の血液が認められた。病理組織学的に,両酵素の2~10μgは皮下と筋肉層に細胞浸潤と出血を起こした。 (III) 内臓々器に対する作用 プロテアーゼはPBで0.2mlまたは0.1mlあたり400,300,200,100,50,25,および12.5μgの濃度に調製した。エラスターゼは500,375,250,187.5,125,93.8,62.5,46.9,31.3,および15.7μgの濃度に調製した。これら溶液の適当の濃度を選び,マウスの静脈内(0.2ml),腹腔内(0.2ml),胸腔内(0.1ml),および鼻腔内(0.1ml)に接種し,24時間後のそれぞれの死亡率を観察し,剖検した。50%致死量は静脈内接種の場合,プロテアーゼが250μg,エラスターゼが265μg,腹腔内接種の場合,プロテアーゼが141μg,エラスターゼが101μg,胸腔内接種の場合,プロテアーゼが35μg,エラスターゼが38μgであった。鼻腔内接種の揚合,一定量を肺胞内に吸入させることが困難のため,50%致死量は不明であった。剖検ではプロテアーゼの静脈内接種の場合,肺,頭頂間骨部の皮下,腎臓髄質に,腹腔内接種の場合,肺,横隔膜,腹膜,胃腸管の漿膜に,胸腔内および鼻腔内接種の場合,肺に出血が認められた。また,エラスターゼの静脈内接種の場合,肺,腎臓髄質,脳質,胃壁に,腹腔内接種の場合,肺,横隔膜,腹膜,胃腸管の漿膜に,胸腔内接種の場合,肺,横隔膜,肋膜に,鼻腔内接種の場合,肺に出血が認められた。 (IV) さらに,これら両酵素の病原性における役割を明らかにするために,プロテアーゼ,エラスターゼ産生株と非産生株をエラスチン,またはカゼインを含む普通寒天平板法によって選択し,この両菌株の角膜に対する菌力を比較検討した。 プロテアーゼ,エラスターゼ産生株として,Pseudomonas aeruginosa IID 1210株とNO-5株の2菌株,および両酵素非産生株としてP. aeruginosa NC-5株,N-10株およびPA-103株の3菌株の合計5菌株を普通寒天斜面培地で37℃,20時間培養した後,燐酸緩衝生理食塩水(以下PBSと略す)に浮遊させ,同液で10^7,10^5,10^3および10^1個/0.01mlに調製した。麻酔を施したマウス角膜の中央部に3ヶ所の傷を作製し,上記の各細菌浮遊液の0.01mlをこの傷をつけた角膜の上に1回点眼した。角膜障害は7日間観察した。プロテアーゼ,エラスターゼ産生株のP.aeruginosa IID 1210株およびNO-5株は10^5~10^7個で激烈な潰瘍と膿瘍を起こし,病理組織学的に,角膜は崩壊して肥厚し,多数の細胞浸潤が認められた。一方,両酵素非産生株のP.aeruginosa NC-5株およびN-10株は10^7個の点眼でも白濁程度の障害に止まった。しかし,NC-5株はプロテアーゼの一定量(単独では病変を起こさない)と一緒に点眼すると,一時的に化膿を起こした。酵素非産生株と考えられているP.aeruginosa PA-103株は角膜潰瘍は起こさなかったが,ブドウ膜炎を起こした。 (V) 森原によればプロテアーゼのin vitroでの産生は培養条件によって培養液1lあたり1gにも達すると言う。この事実から考えても,これら両酵素の病原的意義は大きいと言わねばならない。 本間の緑膿菌のOriginal Endotoxin Protein(以下OEPと略す)は本菌の局所での増殖とそれに伴う菌血症,または敗血症の予防,防御に役立つ。また,最近緑膿菌に対して強い抗菌力を持った抗生物質が発見されている。一般に,抗生物質は宿主側のさまざまな防御反応,ことに免疫との協力作用により細菌に対して著しい作用が発揮できるが,免疫不全時の患者には無効である。したがって,そのような患者には血清療法,すなわち,抗血清の投与が必要となる。実験的マウス感染に対して,抗生物質と微量の抗血清を併用すれば著しく抗生物質の効果が増強されることはすでに知られている。しかしながらもし,病巣局所での本菌の増殖可能の場合にはプロテアーゼなり,エラスターゼなりの代謝産物が産生され宿主生体に吸収され障害作用を及ぼすことが考えられる。これに対して,OEPワクチン,または抗血清はまったく無効であるが,これら代謝産物による障害作用はそれぞれの抗体によって中和されることから,上述の血清療法に,それぞれの代謝産物に対する抗血清を追加併用すれば局所感染症の予防治療に有効であることが考えられる。この併用効果を実験的に確かめるために,乳房炎の牛から採取した抗血清より抗OEP,プロテアーゼ,エラスターゼ抗体価を高単位に示す2つのガンマグロブリン分画(Fr.Ⅱ-1,Fr.Ⅱ-2)を採取し,これを用いて,プロテアーゼ,エラスターゼが緑膿菌の病原性に重要な役割を果していることが明らかとなった角膜潰瘍に対する治療効果について検討した。以下実験方法および結果について項を追って概要を述べる。 角膜感染の方法はP.aeruginosa IID 1210株を普通寒天培地に37℃,20時間培養後,PBSで10^5個/0.01mlに調製した。つぎに,傷をつけたマウス角膜に上記菌液の0.01mlを1回点眼した。 V-1) 抗生物質単独の感染防御試験 3',4'-Dideoxykanamycin B(以下DKBと略す)は生理食塩水で1000,750,500,250,および100μg/0.2mlの濃度に調製した。感染の直前に,その各抗生物質溶液の0.2mlをマウス筋肉内に注射したところ,50%有効量(以下ED_50と略す)は620μgであった。 V-2) 免疫ガンマグロブリン単独の感染防御試験 感染の18時間前にFr.Ⅱ-1およびFr.Ⅱ-2をそれぞれマウスの皮下に注射したところ,重篤な膿瘍や潰瘍は阻止され,角膜の白濁程度に留まらせる防御効果が認められた。このFr.Ⅱ-1およびFr.Ⅱ-2の防御効果は対照の抗OEP,プロテアーゼ,エラスターゼ抗体を含まない仔ウシ血清と比較して有意に優れていることが明らかとなった。 V-3) 抗生物質と免疫ガンマグロブリンとの併用による感染防御試験 さらに,実験的角膜潰瘍に対する完全な防御効果を得るために,Fr.Ⅱ-1およびFr.Ⅱ-2とDKBとの併用効果を検討した。 DKBは生理食塩水で800,400,200,100,50,25,および12.5μg/0.2mlの濃度に調製した。感染の18時間前にFr.Ⅱ-1またはFr.Ⅱ-2をマウスの皮下に注射しておき,さらに,感染の直前に前記の各抗生物質溶液を同マウスの筋肉内に注射した。感染による角膜障害は6日間観察した。Fr.Ⅱ-1を併用したDKBのED_50は34μgであり,Fr.Ⅱ-2と併用したDKBのED_50は73μgであった。また,対照とした抗OEP,プロテアーゼ,エラスターゼ抗体を含まない仔ウシ血清と併用したDKBのED_50は480μgであった。実験的角膜潰瘍に対して,免疫ガンマグロプリンを併用したDKBは対照のDKB単独,あるいは抗体を含まない血清と併用したDKBより有意に優れた感染防御効果を示した。 このように,角膜潰瘍に対して,免疫ガンマグロブリンと抗生物質との併用は感染の予防治療に著しい効果を示したが,このような方法を用いるに当たっては,まず対象となる個々の難治感染症の本質を知ることが必要であり,その上で明らかとなった病因物質に対して,積極的な対策を確立することが重要である。 |
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学位名 | ||||||||
学位名 | 獣医学博士 | |||||||
学位授与機関 | ||||||||
学位授与機関名 | 麻布大学 | |||||||
学位授与年月日 | ||||||||
学位授与年月日 | 1976-11-29 | |||||||
学位授与番号 | ||||||||
学位授与番号 | 乙第 94号 | |||||||
著者版フラグ | ||||||||
出版タイプ | AM | |||||||
出版タイプResource | http://purl.org/coar/version/c_ab4af688f83e57aa |