WEKO3
アイテム
ブドウ球菌毒素に関する研究 : 黄色ブドウ球菌α-毒素の結晶化とその生物学的ならびに物理化学的性状について
https://az.repo.nii.ac.jp/records/3169
https://az.repo.nii.ac.jp/records/3169fd5d9520-f021-4a47-9957-420cd397eac5
名前 / ファイル | ライセンス | アクション |
---|---|---|
![]() |
|
|
![]() |
|
|
![]() |
|
|
![]() |
|
Item type | 学位論文 / Thesis or Dissertation(1) | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
公開日 | 2013-01-22 | |||||||||
タイトル | ||||||||||
タイトル | ブドウ球菌毒素に関する研究 : 黄色ブドウ球菌α-毒素の結晶化とその生物学的ならびに物理化学的性状について | |||||||||
タイトル | ||||||||||
タイトル | Crystallization and some characteristics of α-Toxin of Staphylococcus aureus | |||||||||
言語 | en | |||||||||
言語 | ||||||||||
言語 | jpn | |||||||||
資源タイプ | ||||||||||
資源タイプ | thesis | |||||||||
著者 |
渡辺, 征
× 渡辺, 征
× Watanabe, Masashi
|
|||||||||
抄録 | ||||||||||
内容記述タイプ | Abstract | |||||||||
内容記述 | ブドウ球菌感染症における毒素の役割を明らかにするとともに,毒素の生物学的ならびに物理化学的性状を調べるためには,単離,精製した毒素を用いなければならない。結晶を形成し得るほどに高純度に精製した毒素を用いれば,さらに確実なものとなる。 細菌毒素はAbramsら(1946)およびLamannaら(1946)によりボツリヌスA型毒素が初めて結晶化されて以来,破傷風毒素(Pillemerら,1948),ジフテリア毒素(Katoら,1960)およびコレラ毒素(Finkelsteinら,1972)等の結晶形が報告され,それぞれ針状,平板状あるいは針状,針状あるいは平板状の長斜方(偏菱)形として得られている。すでにブドウ球菌毒素のうち結晶化されているものにYoshida(1963)による棒状あるいは菱形結晶を呈するδ-毒素がある。 ブドウ球菌によって産生される種々な毒素のうち,最も強毒で,人および家畜由来のコアグラーゼ陽性の病原性を有するブドウ球菌の多くが産生するα-毒素は,感染症に果たす役割が注目されている。同時にα-毒素の性状には,まだ十分に明らかにされていない点が少なくない。α-毒素はMadoffら(1962)により本格的な精製が始められて以来,現在まで多くの精製の報告がある。しかし,α-毒素の結晶化に成功したという報告はまだない。そこで本研究ではα-毒素の結晶化を試みるとともに,得られた結晶α-毒素を用いて,α-毒素の生物学的ならびに物理化学的性状を解明すること等を目的とした。細菌毒素に限らず,一般に活性物質を結晶化するには種々な生化学的な精製方法を用いて,活性を失活させないように注意しながら,高度に単離,精製しなければならない。そののち,少なくとも2種類以上の物理学的および免疫学的な純度検定法を用いて,均一であることを確めるとともに,条件を色々検討しなければ結晶化には成功しない。 α-毒素の精製には強力α-毒素産生菌株として国際的に知られているWood46を用い,肉水培地(馬肉水に対して2%毒素用ペプトン,0.2%KH_2 PO_4および0.03%MgSO_4・7H_2 Oを加え,PH7.0に修正したのち,500mlの振盪コルベンに150mlずつ分注)に接種し,37℃の空気中で27時間水平振盪培養(120回/分)後,冷却高速遠心機により遠心(10,000rpm,30分)して得た透明上清10lを出発材料とした。4℃において塩化亜鉛沈澱,Sephadex G-25ゲル沪過法,デンプンゾーン電気泳動法(2回),CM-Sephadex C-50イオン交換クロマトグラフィーおよびペビコンゾーン電気泳動法の併用によりα-毒素を高純度に単離,精製した。このようにして精製されたα-毒素の純度を検定したとこう,0.1%(W/V)ドデシル硫酸ナトリウウム(SDS)および0.5M尿素を含むSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(ゲル濃度10%)において1本のみバンドを形成し,また寒天ゲル内沈降反応においても,ウサギ抗精製α-毒素血清との間で1本のみの沈降線を形成し,物理学的および免疫学的に均一であることが確かめられた。 細菌毒素を結晶化するには色々な方法が報告されているが、著者はペビコンゾーン電気泳動を経て高純度に精製されたα-毒素をVisking社製のcellulose透析膜(size,8/32)に入れ,両端を閉じ,これを4℃において大量(毎回1l)の飽和硫安液(PH7.0)に対して透析し,徐々に結晶を形成させるという独創的な方法を用いたところ,初めて結晶化に成功することができた。すなわち,比較的うすい塩濃度の0.05Mリン酸緩衝液,(PH7.0)を溶媒とするペビコンゾーン電気泳動後の精製α-毒素の0.2%(2mg/ml)を4℃において飽和硫安液(PH7.0)に対して透析すると,2日後には透析膜内に肉眼で認めうる白色沈澱が形成された。これを4℃において温和に遠心(1.000rpm,5分)したのち,沈澱を冷却した微量の飽和硫安液(PH7.0)に浮遊させ,その一滴をミクロピパットで清浄なスライドグラス上に取り,カバーグラスをかぶせ400倍の倍率で顕微鏡により観察したところ,平板状の長斜方(偏菱)形を呈する単結晶が数多く認められた。残りの結晶は冷却した少量の0.05Mリン酸緩衝液(PH7.0)に溶解したのち,4℃で再び大量の飽和硫安液(pH7.0)に対して透析し,48時間後に形成された白色沈澱を鏡検すると,やはり同様な平板状の長斜方(偏菱)形の結晶を数多く観察することができた。このような再結晶操作を3回繰り返した結果,平板状の長斜方(偏菱)形の結晶が再現することを確認した。なお結晶は飽和硫安液(PH7.0)には不溶性であるが,0.05Mリン酸緩衝液(PH7.0)には容易に溶解した。 α-毒素の生物学的活性を測定するのに最も鋭敏で,また簡便な方法はウサギ赤血球の溶血活性を測定することである。溶血単位(HU)は安定剤として牛血清アルブミンを0.1%(W/V)の割合に加えた0.05Mリン酸緩衝食塩水(PH7.0)を毒素希釈液として用いてα-毒素を2倍階段希釈し,これに等量の2%(V/V)ウサギ赤血球浮遊液を加え,37℃1時間恒温槽で水平振盪(140回/分)後,遠心上清に等量の0.1%Na_2 CO_3液を加えて室温15分後,分光光度計でOD_541nmの吸収を測定し,50%溶血を起こすのに要するα-毒素の最大希釈度の逆数とした。 結晶α-毒素の比活性は100×10^3HU/mg蛋白量で,1HUは0.01μg蛋白量に相当し,溶血活性の収量は24%,精製率は435倍であった。1HUが0.01μgという値はBernheimerら(1963)およびArbuthnottら(1967)の0.05μgより5倍も純度が良いことを示している。次に結晶α-毒素を用いてα-毒素の生物学的ならびに物理化学的性状を検討した結果,次の結論を得た。 1.結晶α-毒素は溶血活性のほかにウサギ皮膚壊死作用およびマウス致死作用を有し,それぞれ0.03μg蛋白量(最小皮膚壊死量)およびLD_50として1.0μg蛋白量(DDD系,20g)で,同一の毒素蛋白質による多面的な毒作用が示された。なお最小皮膚壊死量が0.03μgという値はBernheimerら(1963)およびLominskiら(1963)の0.5-1.0μgよりも,約25倍活性が高いことを示している。 2.ウサギの網赤血球(Reticulocytes)に対する結晶α-毒素の溶血活性を検討した結果,網赤血球は正常ウサギ赤血球よりも溶血性が半分に低下し,やや毒作用に対する感受性の抵下が認められた。 3.SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により結晶α-毒素の分子量を測定したところ,36,000±2,000であった。この値は結晶α-毒素のアミノ酸組成より概算した分子量34,800とほぼ一致する値であった。 4.Electrofocusing法により結晶α-毒素の等電点(pI)を測定したところ,全溶血活性の95%から成る単一のピークの最高HUを持つ分画のpHとして,7.98±0.05という値が得られた。Sixら(1973)はpI7.2と8.4を報告し,Wadström(1968)はpI8.5を報告している。しかし,著者の結晶α-毒素のPH7.2,8.4,8.5等を示す分画には溶血活性が認められず,これらのpIは否定的であった。 5.結晶α-毒素はCM-Sephadex C-50カラムクロマトグラフイーおよびelectrofocusing分析において,いずれも溶血活性と一致する単一のピークのみから成り,Bernheimer(1968)が報告したpolymerの存在は否定的であった。 6.結晶α-毒素の354μg/mlを用い,pH7.0における紫外部吸収スペクトルを測定した結果,最大吸収は279.5nm,最小吸収は251nmで,典型的な単純蛋白質としてのスペクトルを示した。 7.結晶α-毒素のアミノ酸組成はトリプトフアンの4.2を含む合計267の残基数から成っていた。アミノ酸組成において注目すべき事はシスチンが欠如していることと,アスパラギン酸,リジンおよびスレオニンの含量が多いことであった。 8.アミノ酸分析の結果,α-毒素にはシスチンが欠如していることから,α-毒素はS-S結合を欠くペプチド鎖より成ることが推測される。そこでα-毒素にトリプシンを30:1(W/W)の割合に加え,25℃において温和に消化を行ない,活性を持ったフラグメントを取り出すための予備的実験を行なった。その結果,α-毒素の溶血,皮膚壊死および致死の3活性のうち,トリプシン消化3時間後ではマウスに対する致死活性以外の溶血活性およびウサギ皮膚壊死活性が顕著に低下した。トリプシン消化24時間後にはSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動において消化前のα-毒素のバンドよりも易動度の早い,すなわち、低分子の互いに接近した2本のバンド(フラグメントAおよびB)に解離した。しかし,これら2つのフラグメントを含む消化毒素は溶血活性のほとんどすべてを失った。トリプシン消化48時間後には,さらにポリペプチド鎖は細かく切られ,SDS-ポリアクリルアミドゲル上にはバンドとして検出されなかった。 9.結晶α-毒素はcarboxypeptidase Bの処理によりなんらの影響も受けず,C-末端アミノ酸の遊離は認められなかった。 10.結晶α-毒素の糖含量をフェノール・硫酸法およびアンスロン反応により測定した結果,ブドウ糖として1%以下であった。 11.結晶α-毒素の熱に対する安定性を60℃加熱して調べたところ,3分後には溶血活性の大部分が失活した。このことからα-毒素が易熱性蛋白質であることが確められた。 12.結晶α-毒素はゼラチン水解法により蛋白質溶解活性を持たないことが認められた。 一般に細菌が培地中へ放出する外毒素の量は微量であることが知られている。ブドウ球菌Wood46株は本実験から,培地1l中へ46mgのα-毒素を放出することが分かった。これをBernheimerら(1963),Lominskiら(1963),Coulter(1966)およびSixら(1973)の報告と比較してみると,それぞれ84mg,80mg,12mgおよび100mgであった。 α-毒素は溶血,致死および皮膚壊死のほかに筋肉,特に平滑筋の収縮とその後の麻痺,各種組織培養細胞に対する傷害作用,ウサギの血小板溶解作用およびウサギ白血球由来のリソゾーム溶解作用等を持っていることが知られている。α-毒素は抗原性を持ち,抗毒素はα-毒素の溶血,致死および壊死の3活性を中和する。 α-毒素のブドウ球菌感染症に果たす役割については,α-毒素が感染局所においても,invitroと同様に産生されていることは明らかなので,局所の病巣の増悪および組織壊死の原因となることは考えられる。また,マウス,ウサギ等の実験動物のレベルでは感染後期において産生されたα-毒素が致死の原因となることが考えられる。このことはα-毒素をマウス,ウサギ等の静脈内に注射すると,動物は1,2日以内に死亡することからもうなづける。 ブドウ球菌はα-毒素のほかにβ-毒素,δ-毒素,γ-毒素,エンテロトキシン(腸管毒),exfoliative toxin(皮膚剝脱毒素)およびロイコシジン(白血球殺滅毒素)等の外毒素を産生することが知られている。β-毒素は牛由来の菌株が多く産生し,羊,人の赤血球を溶血するが,ウサギの赤血球には作用しない。δ-毒素およびγ-毒素は多種類の動物の赤血球を溶血する。δ-毒素は人の赤血球,白血球に毒性を示すために病原性への関与が注目されたが,人およびウサギの正常血清および血漿成分によりその溶血活性が強く阻止されることから,あまり重視されていない。γ-毒素はα-毒素の中和関係の一部異ったものにすぎないという見解から,γ-毒素という名称は使用されないことがある。エンテロトキシンは主にファージ3群に属するブドウ球菌が種々の食品中で増殖し,菌体外に産生する蛋白質である。この毒素は食中毒の原因となるが,主な症状は嘔吐と下痢で,赤毛ザルに投与すると定型的な反応を起こす。皮膚剝脱毒素はファージ2群に属するブドウ球菌が産生し,新生幼若マウスの全身性皮膚剝脱を起こすとともに人におけるRitter氏病のようなtoxic epidermal necrolysis(TEN)の原因と考えられている。ロイコシジンは人とウサギの白血球を殺滅するが,赤血球にはほとんど毒性がないことが知られている。 今後著者は結晶α-毒素をトリプシンで消化することにより解離したフラグメントAおよびBを別々に単離,精製し,α-毒素の溶血,致死および壊死等の活性が別個に分けられることができるかどうか,検討してゆきたいと考えている。 |
|||||||||
学位名 | ||||||||||
学位名 | 獣医学博士 | |||||||||
学位授与機関 | ||||||||||
学位授与機関名 | 麻布大学 | |||||||||
学位授与年月日 | ||||||||||
学位授与年月日 | 1975-12-15 | |||||||||
学位授与番号 | ||||||||||
学位授与番号 | 乙第 79号 | |||||||||
著者版フラグ | ||||||||||
出版タイプ | AM | |||||||||
出版タイプResource | http://purl.org/coar/version/c_ab4af688f83e57aa |