@misc{oai:az.repo.nii.ac.jp:00003157, author = {杉浦, 陽介}, month = {2013-02-05, 2014-08-19, 2013-02-05}, note = {炭酸脱水酵素(carbonic anhydrase[E.C.4.2.1.1]以下CA)は、亜鉛を含む金属結合酵素で、CO_2+H_2O⇔H^++HCO_3^-の両方向の反応を触媒する。現在までに哺乳類では12種類のアイソザイムと、3種類のCA関連蛋白が報告されている。一般的な細胞質型アイソザイムとしてはCA-I, -II, -IIIなどがあり、唯一の分泌型アイソザイムとしてはCA-VIが知られている。CAの主な機能はpH調節に不可欠なHCO_3^-を供給し体内の酸塩基平衡を維持することである。近年CA-VIは鼻腔における嗅物質やCO_2の感知、細気管支分泌細胞における成長因子としての機能が示唆されるなど、多機能蛋白としての役割も注目されている。体内におけるCA局在は、赤血球、腎臓、骨、消化器系などにおいて多数報告されており、体組織全般においてその局在が明らかにされてきている。一方、このような蓄積されたデータの中で、生命活動に必要な呼吸ガスの交換器官である呼吸器系器官、および鼻涙管を通して気道と機能的な関連を持つことが推察される涙器付属腺におけるCAの局在に関する報告は非常に少ない。そこで本研究ではこれらの器官におけるCAアイソザイムの局在と遺伝子発現を明らかにし、それらの機能的意義を推論することを目的に、イヌの呼吸器系器官として鼻腔領域、喉頭・気管・気管支・肺の領域、涙器付属腺について3章に分けて検討した。検索対象としたアイソザイムは、これまでに呼吸器系に存在しているという報告のあるCA-I, -II、CA阻害剤であるアセタゾラミド抵抗性という特徴を持つCA-III、及び唯一の分泌型であるCA-VIとした。  全てのCAアイソザイムの検索は免疫組織化学染色法を用い、さらに分泌型のCA-VI蛋白の検索ではウェスタンブロット法を併用した。CA遺伝子発現の確認は、CA-IIとCA-VIでは定性的PCRを行い、さらにCA-VIについては定量的PCRと in situ hybridization による検索も行なった。また、涙器付属腺においては、免疫組織化学染色法によるCAの組織局在の観察の他、CAアイソザイム抗血清に反応が見られた第三眼瞼腺および瞼板腺の脂腺細胞の微細構造について透過型電子顕微鏡を用いて観察した。 【鼻腔におけるCA-I, -II, -III, -VIの組織局在と遺伝子発現の検索】  免疫組織化学染色法による観察では、粘膜上皮と導管上皮では検索を行った全てのCAアイソザイム抗血清(以下CA抗血清)に対する反応が見られた。鼻前庭腺、嗅腺、鼻腺の各漿液腺房では一部の細胞においてCA抗血清に対する反応が見られたが、外側鼻腺の漿液腺房では全てのCA抗血清に対する反応は見られなかった。粘液腺房や杯細胞では全てのCA抗血清に対して反応は見られなかった。鼻粘膜嗅部では一部の嗅細胞でCA-II, -III, -VI抗血清に対して特に強い反応があった。CA-VI蛋白はウェスタンブロット法によりイヌの鼻腔領域に少量ながら存在することが確認された。定性的PCRでは、CA-II, -VI双方の遺伝子発現が、検索を行った全ての部位で確認された。定量的PCRの結果、外側鼻腺でのCA-VI遺伝子の発現量と比較して、鼻前庭部での発現量は100倍以上、鼻粘膜嗅部や鼻粘膜呼吸部での発現量は約10倍だった。In situ hybridization では、CA-VIの遺伝子発現は確認されず、この結果は下部気道や涙器付属腺においても同様であった。これは、定量的PCRよりCA-VIの遺伝子発現量が低いことが明らかとなっており、検出感度以下であったためと考えられた。  イヌの鼻腔内におけるCAアイソザイムの機能は、その緩衝能によって上部気道粘膜において産生される外因性の酸を中和し粘膜を保護し、鼻前庭部粘膜や鼻粘膜呼吸部では、このようなCAの機能によって上部気道での呼気や吸気に接する粘膜上の酸塩基平衡を維持し、微小環境が保たれていると考えられた。鼻腔粘膜の各漿液腺房や導管上皮では、細胞質型CAは細胞内の酸塩基平衡の維持やイオンの輸送を、また分泌型CAは導管内の分泌物中の酸塩基平衡を維持していると考えられた。鼻粘膜嗅部では既に報告されているモルモット、マウスと同様、イヌにおいても一部の嗅細胞がCA抗血清に対して特に強く反応していた。鼻粘膜嗅部でのCAの存在意義は、粘液層の酸塩基平衡の維持やイオンの輸送による電解質濃度の調節を通して、CO_2や嗅物質の感知という機能に関わることと考えられた。 【喉頭及び下部気道におけるCA-I, -II, -III, -VIの組織局在と遺伝子発現の検索】  免疫組織化学染色法による観察では検索を行った全てのCA抗血清に対する反応が、喉頭をはじめとする気道粘膜上皮、漿液腺房とその導管上皮に見られた。一方で、粘液腺房や杯細胞では全てのCA抗血清に対する反応は見られなかった。細気管支分泌細胞では、全てのCA抗血清に対して反応が見られた。肺では、呼吸上皮細胞と大肺胞上皮細胞は、CA-I, -III抗血清に対して反応は見られなかったが、高活性型であるCA-IIと分泌型であるCA-VIに対しては両細胞とも一部の細胞で反応が見られた。CA-VI蛋白はウェスタンブロット法によりイヌの喉頭及び下部気道領域に少量ながら存在することが確認された。定性的PCRでは、検索を行った全ての部位でCA-II, -VI双方の遺伝子発現が見られた。定量的PCRの結果、肺でのCA-VI遺伝子の発現量と比較して、喉頭から気管支での発現量は約10倍、主気管支での発現量はほぼ同量だった。  ヒトにおいて、気道上皮の粘液中の酸が増加することによって細菌の感染性が高くなることが報告されていることから、本研究のイヌにおいて気道上皮のCAアイソザイムの機能は、鼻腔と同様にその緩衝能によって、粘膜上の酸を中和し気道粘膜を保護している可能性が考えられた。気道粘膜上皮のCA局在は、モルモットなどの報告では一部の上皮でのみ見られたとされているが、イヌでは一様に見られた。イヌは体温調節の際に panting を行い、大量の気体が気道を通過する際の気化熱で体温を下げる。そのためイヌの気道上皮は、大気との接触が多く、CAは気道粘膜に広く存在する可能性が考えられた。また本研究ではラットと同様、イヌにおいても細気管支分泌細胞にCAアイソザイムの局在が確認された。この局在の意義についてラットではCAの成長因子としての機能が示唆されていることから、イヌにおいても同様に成長因子としての可能性が考えられたが、本研究では成犬のみ対象としていることから、その意義については今後の検討が必要である。肺胞上皮におけるCAアイソザイムの局在は、一部の細胞でCA-IIとCA-VIが見られたのみであった。肺では、ガス交換においては赤血球に存在するCA-IIが主に働き、血漿中のH^+とHCO_3^-からCO_2を産生する。また肺胞上皮のCA-IIやCA-IV、CA-VIは、肺胞上皮細胞内のH^+とHCO_3^-をCO_2に変換すると考えられた。 【涙器付属腺におけるCA-I, -II, -III, -VIの組織局在と遺伝子発現の検索】  免疫組織化学染色法による観察では全てのCAアイソザイム抗血清に対する反応が、涙腺と第三眼瞼腺の一部の漿液腺房と導管上皮、また第三眼瞼腺と瞼板腺、睫毛腺の脂腺細胞に見られた。瞼板腺や睫毛腺の脂腺の腺房では、腺房辺縁の未分化な細胞でより強い反応がみられた。CA-VI蛋白はウェスタンブロット法によりイヌの涙器付属腺に少量ながら存在することが確認された。遺伝子発現の検討結果は、呼吸器系と同様にCA-II, -VIの定性的PCRの結果、両アイソザイムの遺伝子発現が確認された。定量的PCRの結果、上眼瞼(瞼板腺と睫毛腺を含む)でのCA-VI遺伝子の発現量と比較して、涙腺や第三眼瞼腺での発現量は10倍以上だった。  涙腺、第三眼瞼腺などの涙器付属腺によって産生された涙液は、眼球表面を覆うことで、その部位の微小環境の維持にとって重要な役割を果たしている。イヌにおいて涙液全体の30%を産生すると言われる第三眼瞼腺は、涙腺と同様にその存在意義は大きく、外科的に切除した場合には乾燥性角結膜炎の増加や、涙液産生量の減少及び涙液のpHの若干の上昇が報告されている。このことから涙腺や第三眼瞼腺で産生され涙液中に分泌されたCA-VIは、涙液中でHCO_3^-を産生することで、大気中のCO_2の拡散によって生じるH^+を中和し角膜上皮の保護を行っていると考えられ、角膜上皮における細胞質型CAアイソザイムと相補的にその緩衝能によって角膜上皮を保護していると考えられる。さらに鼻涙管を経て鼻腔内へと注ぎこむことで、鼻腔内の微小環境の維持に関与している可能性が考えられた。また、涙器付属腺の腺房や導管上皮にみられた細胞質型アイソザイムであるCA-1, -II, -IIIは、他の組織と同様に微小環境の酸塩基平衡の維持やイオンの輸送に関わっていると考えられる。また、第三眼瞼腺でCAアイソザイム抗血清に反応を示した脂腺細胞は、ブタなどに見られる深第三眼瞼腺(ハーダー腺)にある細胞と類似し、涙液の最外層の脂質層を形成する脂質を供給する細胞のひとつと思われた。この脂腺細胞を透過型電子顕微鏡により観察すると、その微細構造が同じ涙器付属腺である瞼板腺の脂腺細胞とは異なることが明らかとなった。脂腺細胞中にCAがあるとの報告は未だなく、その存在意義は不明である。しかし脂質代謝がより盛んな脂腺の腺房辺縁にある未分化な細胞が、脂質を豊富に含み全分泌される直前の分化した細胞と比べて強く反応したことから、この酵素が細胞内の脂質代謝に何らかの役割を果たしている可能性が考えられ、CAの新たな機能を示唆していると思われた。}, title = {イヌの呼吸器と涙器における炭酸脱水酵素の局在と遺伝子発現の検討}, year = {} }