@misc{oai:az.repo.nii.ac.jp:00003144, author = {押田, 敏雄}, month = {2013-06-20, 2014-08-08, 2013-02-05}, note = {1.緒言  家畜糞尿を資源として再利用(Recycling)しようといった動きは、肥料としてのみ利用されていた糞尿を飼料としても利用しようとする試みに他ならない。我が国よりも資源が豊富で国土の広大なアメリカで、糞尿の栄養価値が検討され、応用研究が始まり、すでに約10年を経過している。一方、我が国では食生活水準の向上により畜産物の利用が増え、農村の都市化が進むにつれて、家畜飼養に起因する公害、つまり畜産公害などといった問題が生じてから10年以上を過ぎている。この間、畜産公害に対処するために各種の処理方法が考案、実用化されているが、それらのほとんどは浄化を目的としたものであり、装置の負荷を軽減するため糞と尿とを各種の方法で分離し、それぞれを別々のシステムで処理するために、その費用、手間も相当なものとなってしまう。  著者は、これらの問題を一挙に解決する方法として、糞尿混合液を一元的に処理する方法に興味を持ち、液状の糞尿を高温で発熱発酵させる装置(家畜糞尿混合液液状発酵処理装置)を試作し、その技術を確立した。  さらに、この装置を用いて処理した豚糞尿による"糞尿"の飼料化および、牛糞尿による肥料化について検討を行ない、良好な成績を得たので、ここに報告する。 Ⅱ 家畜糞尿の発酵処理に関する農業工学的研究 Ⅱ-1 発酵処理装置に関する研究  家畜糞尿をオガ屑、モミ殻などの物性調整材を必要とせず、高水分(80~90%)でも発酵し得る装置・家畜糞尿混合液液状発酵処理装置(以下、装置と略記)を試作した。 1)装置の仕様  装置の内径300mm、高さ500mmの鋼板製で円筒型の発酵槽を主部とし、その周囲をglasswoolで断熱を施したものである。攪拌には三枚羽根のスクリュー型インベラーを用い、攪拌機による連続攪拌を行なった。曝気はガラスボールを用い、ポンプによる連続曝気操作を行なった。他に液温記録用の熱電対を発酵槽内の3ヶ所に設けた。 2)適正曝気量  昇温の要となる好気性高温菌の発育を良好なものとするために、曝気量の決定はきわめて重要な事である。三浦ら、Bellの実験結果を参考とし、実験を行ない適当な曝気量を求めた。その結果、豚糞尿混合液(糞:尿の混合比は1:1、以下PWLと略記)で、糞1Kg当り0.25l/min(この条件での最高液温は冬期で65℃、夏期で70℃前後)、牛糞尿混合液(糞:尿の混合比は2:1、以下CWLと略記)で、糞1Kg当り0.188l/min(この条件での最高液温は冬期で58℃、夏期65℃前後)であった。 3)適正混合比  豚の排糞尿比は1:1なので、特に考慮する必要はないが、牛の排糞尿比は4:1なので、適正な糞:尿の混合比について考慮しなければならない。適正曝気量下で混合比の検討をした結果、糞尿比"2:1"が他の比率1:1、3:1、4:1よりも2℃ほど液温が高く、牛の場合の適正混合比を"2:1"とした。 Ⅱ-2 発酵程度の指標  発酵程度あるいは熟度の表示方法について今日までに確立された完全なものはない。著者の実験(発酵処理物の理化学的性状の変化)から、きわだった変化のあった項目として液温、pH.COD.粘度などがあげられる。  液温は、低温菌、中温菌、高温菌の世代交代に伴なって、菌数と菌叢が代わり、昇温しつつ、糞尿混合液(以下、WLと略記)中の有機物を分解していく。現に、PWLもCWLも最高液温を示す処理後3~4日頃からの有機物の減少の程度は、ほぼ横ばいとなった事から、この事が理由づけられる。  pHについて、MartionはpHが8~9に安定した時期を、Willsonは一旦pHが上昇し、下降した時期をそれぞれ完熟としているが、著者の実験でも、このような事がいえる。  CODについては、岡らは豚糞を堆肥化した場合、CODの値が安定した時を完熟の目安としているが、著者の実験でも、PWLのCODは最高液温を示したあたりで安定してきた。  C/N比については、宮尾は腐熟化の指標となりうるといっているが、著者の実験でもPWLで処理後4日目、CWLで処理後3日目にそれぞれ最低を示したが、CWLは総窒素の減少が更に大きくなるため、C/N比は再び大きく増大してしまった。  粘度については、PWLで処理後3日目頃に、CWLで処理後4日目頃にそれぞれ安定した。これは有機物の減少が横ばいになった時期と一致している。  以上の事から、不完全ではあるが液温、pH、COD、粘度は発酵の程度、あるいは完熟の指標となりうると考えられた。 Ⅱ-3 発酵過程での微生物(特に細菌)の動態 発酵の経過に伴ない、それぞれの温度に適合した細菌が世代交代して増殖するため、液温が上昇するに従い、高温菌が増加し、中温菌は減少する。また、菌叢は次第に単純となりBacillusが主となる事が知られている。著者はPWL、CWLともに55℃におけるサンプルを普通寒天培地で24時間培養し、培養所見でcolonyが形態的に同一と思われる優勢なものについて、菌の同定を行なった結果、好気性高温菌であるBacills stearothermophilusを確認した。  また、病原微生物は汚染指標菌として意義があり、検索が極めて容易な大腸菌群、およびに家畜に疾病を引き起こす機会が多く、高温に対する抵抗性が比較的強いサルモネラ菌群について注目した。大腸菌群はDesoxycholate agarを用い検索したが、PWLで55℃を経過したサンプル、CWLで55℃のサンプルでは検出されなかった。また、サルモネラ菌群は術式に従い、クリグラー寒天培地、SIM培地、ブドウ糖リン酸塩ペプトン培地のそれぞれの培地を用い、定性試験を行なった結果、PWL、CWLともに開始時に陽性だったものも終了時には全て陰性となった。次に大腸菌群を指標として、熱死滅時間を求めた。PWLの冬期の最高液温55℃、夏期の最高液温60℃と想定し、サンプルを感作させた。その結果55℃、60℃ともに3時間経過したものには大腸菌群は検出されなかった。また、CWLついては冬期の最高液温45℃、夏期の最高液温50℃と想定し、サンプルを感作させた。その結果45℃、50℃ともに感作時間が長くなるに従い、colonyは減少し、45℃で48時間、50℃で12時間経過したものについては大腸菌群は検出されなかった。発熱発酵の経過で高温菌が死滅せずに選択的に病原性中温菌が死滅する理由として、高温、pHの影響、Bacitracinのような抗生物質様物質を産生するBacillusの存在などが考えられる。いずれにしても糞尿を液状発酵する場合かなりの発熱があるので炭疽の芽胞などの病原性芽胞を含まないものは殺滅される。 Ⅲ 発酵処理物の豚への飼養試験  豚液状発酵飼料(以下、P-LFFと略記)を肥育豚に与えた場合の影響を把握し、飼料として利用できる可能性について、飼養試験を行ない検討した。  実験にはLHの同腹仔豚10頭を用いた(試験区5頭、対照区5頭)。試験は嗜好試験、消化試験、肥育試験、枝肉成績、肉質成績、栄養状態の推移について行なった。実験に用いた飼料は嗜好試験を除き、試験区にはP-LFF30%含有配合飼料、対照区には100%配合飼料を与えた。その結果次のような事が判明した。1)P-LFFに対する嗜好性は極めて高かった。2)体重は試験区、対照区ともに同傾向に増加したが、90Kg到達日令は試験区184日令(試験開始後70日)、対照区163日令(試験開始後49日)であった。3)飼料の利用性は試験区はP-LFFを除けば飼料要求率3.36、飼料効率0.30と対照区よりも良好であった。4)歩留りは、試験区は対照区より1.7%ほど劣ったにすぎず、組織分割比率では試験区は対照区に比べ脂肪が5%多く赤肉は5%少なかった。5)肉質には大差はなかったが、肉色は試験区の方が良く、体脂肪の融点も試験区の方が若干高かった。6)栄養状態を知る手掛りとして血液検査(赤血球数、Ht、Hb、MCHC、TP、A/G比、血清蛋白分画)を毎週一回行なったが、豚の成長に伴なうそれぞれの数値は、試験区については特に貧血傾向を認めず、蛋白成分、剖検所見などにも、異常は認められなかった。  飼養試験の結果を総括すると、肥育の速度は試験区は対照区に比べ遅延した。この理由として、体重あたりの給飼量は試験区、対照区とも重量では同じだが、乾物量としては試験区の方が少なかった事が考えられる。肥育期間は90Kgを目標とした場合、対照区は試験区に比べ約20間遅れたが、その後の20日間の飼料代を試算すると試験区の方が若干安価であった。また、仕上げ飼い、あるいは飼い直しをすれば、かなりの増体重も見込まれるものと考えられる。なお、このように糞尿由来の飼料を与えて肥育された食肉の嗜好性に関する報告は見あたらないが、著者が行なった官能検査では不完全ながらも、対照区の食肉との「味の差」を見い出せなかった事から、味については差はないものと思われる。 Ⅳ 発酵処理物の肥効試験  牛液状発酵肥料(以下、C-LFMと略記)の肥効性を確認し、施肥量の限界を知るために、硝酸態窒素が最も蓄積しやすく、多収量で各地で栽培されている牧草Itarian ryegrassを用いて肥効試験を行なった。  実験は圃場試験のコンパクト版であるワク試験によって行なった。C-LFMの肥効を他のものと比べるため、スラリー、化成肥料LFM併用の3つの試験区を設け、それぞれの区で大量施肥区(10a当り40ton)、中量施肥区(10a当り10ton)、小量施肥区(10a当り3ton)を設けた。また化成肥料LFM併用区は1/2はLFMで1/2は化成肥料で、窒素量としてLFM単独区と同一にした。そして次のような結果を得た。1)肥効:LFMはスラリーと比べ大差はなく、施肥量に応じて生育状況は良好で、生産量も施肥量に比例した。また、飼料成分はスラリー施用の場合とほぼ同様であった。2)含有窒素量:LFMもスラリーも大量施肥区でさえ、牧草中の硝酸態窒素はAdamsの報告している中毒に陥いる危険性の0.1%(D.M)よりも少ない事から10aあたり40tonの施肥量では硝酸塩中毒に陥いる危険性は極めて低かった。  また、LFMもスラリーも同一の糞尿を用いて作成したものを、LFM、スラリーをそれぞれ40^ton/10a、10^ton/10a、3^ton/10a、を施肥した場合、同一施肥量、同一収穫時の牧草中に回収される硝酸態窒素は9例中1例を除いてスラリーを施肥した区の方が多かった。この事はLFMならびにスラリー中、および士壌の硝酸態窒素は定量しなかったものの、家畜糞尿を液状発酵処理する場合のメリットの一つとしてあげられ、作物に回収される硝酸態窒素の含有量はスラリーを施用した場合よりも少なくなる事が解った。 Ⅴ 結論  以上、家畜糞尿を有効利用Recyclingさせるための一手段として、高水分状態でも発酵が可能であるという画期的な結果を得た。著者の方法により、家畜糞尿を飼料として利用するには幾多の問題を残すものの、その可能性を示唆する結果を得た。また、肥料としては嫌気性発酵のスラリーに比べ、極めて有利な有機質肥料として利用に値するものと思われる。これら著者の一連の研究は、今後の家畜糞尿の有効利用Recyclingを考える上で何んらかの手掛りを与えるものと確信する。 (以下図表)}, title = {発酵処理による家畜糞尿のRecyclingに関する実験的研究}, year = {} }