@misc{oai:az.repo.nii.ac.jp:00003133, author = {和栗, 秀一 and Wakuri, Hidekazu}, month = {2013-06-17, 2014-08-06, 2013-06-17}, note = {緒言  衆知のように、食道は咽頭と胃の中間にあって両者を連絡する 筋膜性の管であるが、単胃動物と複胃(反芻)動物との間で構成上二、三の点で相違しており、それが機能的な違いを誘発している。食道の主なる機能は、単胃動物で口腔に摂取した食物を胃内に推送するための嚥下運動が主体であるが、一方、反芻動物においては前胃内の食塊を一旦口腔にもどして再咀嚼したのち、再嚥下を行なういわゆる反芻に関わる機能が重要な割合を占めている。従来、食道は形態学的立場より多くの研究者によって研究、報告されているが、主として筋層の構築構造の状態からその機能性を考察したものが多い。神経支配の立場からは脳神経の支配領域の器官としての立場で追究されたものが多く、単胃動物の食道が主に供試されている。近年、反芻動物を対象とした研究に関心が寄せられ、ことに前胃や食道溝の機構を扱った報告が目につくが、これらの器官はあくまでも食道に継続するものであるから、食道の機構を無視しては充分な解明はなされない。  反芻動物の食道の神経分布については、川田らによる牛の食道における知覚神経と運動神経の両終末の分布についての報告と木全らや山田らなどによる山羊の食道における自律神経の分布を組織化学的に研究した報告例に接するのみであって、食道の神経分布について綜合的に検討した報告は見当たらない。またとくに食道の機能発現と深い関係をもつと思われる筋肉(層)の特性についても充分検討されていない。反芻動物の食道筋は単胃動物と違い全長横紋筋からなっているが、神経支配の立場からみた場合、脳神経の支配下にあるので、一般の体肢(骨格)筋と違う耳小骨筋や眼筋、あるいは舌筋、咽頭筋、喉頭筋などの諸筋に相似たいわゆる内臓横紋筋(仮称)としての特性をもっていることが当然予測されるのであるが、従来、このような観点から食道横紋筋の形態学的特性を検討した研究は全く見られない。  なお、反芻動物の食道における形態学的特徴の一つとして、食道乳頭が咽頭端の粘膜面に形成されているが、かゝる形象の神経分布も亦先人によって明らかにされていない。  しかして、筆者は、上にのべた諸点を中心に、反芻動物の食道における神経支配の解剖学的ならびに組織学的特徴を解明する目的で、牛の食道を使用して表題の研究を実施した次第である。検索に当っては、まず全体として食道がいかなる神経支配下にあるかを追究したのち、とくに筋層について、いわゆる内臓横紋筋としての特徴を確認するべく細心の注意を払うと同時に、固有知覚の問題やいかなる運動を発現するかなどについて考察する基礎資料を得るため、以下所期の検索を実施した。 研究材料とその方法  1. 研究材料は食道の支配神経の分布の系統的観察のために4例、食道壁の神経分布の組織学的研究のために25例、合計29例が供試された。  2. 食道の支配神経の系統解剖学的考察においては、反芻動物ととくに関係のある上半部管に対する神経分布を追究した。まず、迷走神経の起始を確認し、ついで咽喉頭部における迷走神経の走行と分枝、ほかの神経との関係、さらに頸部と胸部の分布状態などについて観察した。  3. 神経分布の組織学的研究にはBODIAN氏鍍銀法、CAJAL氏第二型鍍銀法、FLETOHER氏髄鞘染色法を応用したが、必要に応じてH-E染色法および神経線維と結合繊線維との鑑別のため1%アニリン青液による対染法を利用した。  研究成績および考察  1. 解剖学的に、迷走神経は破裂孔から出ると直ちに大きな頸静脈神経節を形成するが、やゝ下ったところで上頸神経節と複雑に交通しており、咽喉頭背部以下では両神経が連合して迷走交感神経幹となっている。咽頭背部の迷走神経幹からは咽頭枝、外喉頭神経、上喉頭神経の各枝が分岐され、これらは相互に、あるいは交感神経との間で細枝をもって連絡しているが、食道上部を支配する枝は咽頭枝の食道細枝と上喉頭神経の後部細枝である。頸部食道の背外側縁にそって下った迷走交感神経幹は胸腔入口部で迷走、交感の両神経幹に分離するが、前者は胸腔に至って反回(下喉頭)神経を分岐したのち、さらに下部食道に多数の支配枝を与えている。反回神経は心臓底部で星状神経節から細枝を受けたのち、前走して胸腔を出て、頸部の食道と気管の間を若干の細枝を分与しつつ上走して咽頭端に達し、前述上喉頭神経の後部細枝と吻合したのち、そこに著明な神経網を形成している(後述)。以上の所見より、食道上半部は迷走神経から分枝した咽頭枝、上喉頭神経および反回神経によって支配されており、またこれらの枝には交感神経要素の随伴していることが知られる。なお、外喉頭神経は食道には分布していない。  2. 前述したように、頸部の迷走神経は交感神経と連合して共通幹を形成しているが、組織学的に両者は別々の被膜で被われ独立幹をなしている。迷走神経には種々の太さ(1~12ミクロン)の有髄および無髄両神経線維が含まれているほか、単極状、偽単極状あるいは多極状の神経細胞が多量に含まれる。神経細胞は大体球形あるいは楕円形で、58~161ミクロンの大きさを有し、一個、まれに二個の核小体を含む淡染性の円形核をもっている。これらの神経細胞は、所見より、自律(副交感)神経系にぞくするものである。  3. 反回神経は食道上半部の機能と密接な関連をもっているが、中頸部における線維構成(髄鞘径)をみると、2~5ミクロン(約47%)と6~8ミクロン(約27.5%)に峰が存在する。また筋層間に分布する終末神経における線維の髄鞘径の分布をみると、2~4ミクロン(約44.5%)と5~8ミクロン(約36.5%)に峰があり、また同じく筋層内の終末細神経線維束においては2~4ミクロン(約57%)と5~6ミクロン(約21%)に峰をもつ曲線を示している。文献では、2~4ミクロンの神経線維は運動終板に(BLEVINS)、6~8ミクロンあるいはそれ以上の神経線維は知覚終末装置に(BARKER, HAGBARTHら)それぞれ進入すると記載されている。これらの数値を一応の基準にすると、後述する食道壁における知覚終末と運動終末の分布のおよその割合は二つの峰の示す比率と大体一致している。なお、反回神経および食道壁内の終末神経には髄鞘染色で線維径の計測の対象にならなかった無髄神経線維が多量に含まれている。  4. 外膜における終末神経は、食道の上端部で頻繁に分岐且つ吻合を繰り返して粗大な神経網を形成しているが、中頸部および下頸部では神経網の形成は不明瞭である。終末神経は外筋層を進入して内外両筋層間と粘膜下織にそれぞれ神経叢を形成するが、とくに前庭部においては粘膜神経叢を形成している。筋層間(AUERBACH)神経層は食道の上端と輪状食道筋の移行部でとくに発達して三重に形成されている。かゝる構造は食道のこの部位の運動発現と密接に関係しているものと考えられる。また食道筋内に終末細神経線維束をもって、一般の体肢筋におけるような筋内神経叢の形成がみられる。壁内の神経節は外膜、筋層間および粘膜下織の各神経叢の神経線維束交叉部に認められ、一個の節内神経細胞の数は外膜で約20個、筋層間で5~25個、粘膜下織では10~20個が集団をなしている。神経細胞は大部分が多極性で、DOGIELのI型およびⅡ型が区別され、若い個体においては幼若型が多い。これらの神経細胞は自律神経系にぞくするものである。なお、壁内血管の周囲には微細な神経網の形成がみられる。  5. 食道における神経終末は自律神経、知覚神経および運動神経のおのおのが確認された。自律神経の終末装置は無髄神経線維の微細な網眼構造、すなわち、終末網(STOEHR)で表わされており、横紋筋線維および付近の毛細血管は終末網の接触によって主宰されている。自律神経性終末網は食道の上端部においてとくに発達しており、そこにはSOHWANN氏核よりやゝ大きい特殊細胞核の存在がみられる。なお、食道横紋筋には自律神経系から遊離したと思われる微細な単一神経線維が運動終末にときどき進入している(後述)。かゝる神経線維は人、ほかの動物の食道横紋筋で観察されており、交感神経の特徴をもつ副線維として扱われている。  6. 知覚神経終末は食道の上端部で普通に検出されたが、中頸部および下頸部における分布は少ない。筋層において検出した知覚終末は主として蛇行性の不分岐自由終末であるが、このほか頭巾状終末、マイスネル小体様装置および筋層間の神経節内分岐性自由終末である。文献では、頭巾状終末は哺乳動物や両棲類の眼筋で観察されており(GREVING, DOGIEL, SABUSSOWら)、またマイスネル小体様装置は人のアブミ骨筋(野尻)で検出されている。神経節内の知覚終末は犬、猿、人の食道で観察されている(定、大津、田中、菅又、山本)。粘膜固有層および上皮においては、蛇行性の不分岐自由終末が主体で、また食道腺の終末部および導管の周囲においても知覚神経線維の分布が確認された。これら知覚神経終末の検出により、食道壁における固有知覚の存在が証明されたものと信ずる。  筋紡錘は検出できなかったが、これは食道が脳神経の支配下にあることを示す一つの証拠である。  7. 運動神経支配については、神経一筋単位と運動性終末の所見から考察される。食道筋における終末微細神経線維束の最終的な分岐は7~10数本で、おのおのの神経線維は個々の筋線維に達するまでに、普通途中でさらに二分岐することが多い。したがって、一本の終末微細神経線維束はおよそ10~30本の筋線維を支配していることになり、この数値を神経一筋(運動)単位の大きさと見積ることができる。この単位は、文献ではアブミ骨筋や鼓室張筋(兎、BERLENDISら)、闊頸筋(人、FEINSTEINら)、横隔膜(兎、KULKIN)などの運動単位とほゞ等しい。一方、輪状食道筋の単位は終末装置(後述)の所見より、4本前後と見積ることができるが、これは咽頭筋(兎、DUTTAら)や喉頭筋(人、RUEDI)、眼筋(人、BORSおよび両棲類、BURNASCHOWA)などの運動単位の大きさに似ている。神経一筋単位は筋肉の運動性鋭鈍度を表わす一つの目やすで、単位が小さい程線細な運動を為し得るとされている。食道筋は輪状食道筋には及ばないが、体肢筋、たとえば反腱様筋(約50本、BORS)、腓腹筋(100~125本、Van HARREVELD)、虫様筋(108本、FEINSTEINら)などに比較すれば遥かに鋭敏な運動能をもっていることが明らかである。  8. 運動性終末は第I型(通常型)と第Ⅱ型(銃砲状終末)の二つが区別された。第I型終末は食道全長の筋層に検出され、その形態は骨格筋における運動終板にほゞ類似している。終板にはいわゆる付帯構成分をもつものがあるが、これをもたない基本的な終板は全運動終板の約60%あるいはそれ以上占めると推測される。これら終板は平均30×50ミクロンを計測し、終末軸索は髄鞘消失後3~4本に分岐し、近くに6~9個(平均8個)の卵円形あるいは楕円形の核が集団をなしていわゆるDOYERE隆起を僅かに形成している。運動終板における終末周囲網(BOEKE)は認められない。一般に、第I型終板は一本の筋線維上に一個形成されており、単純支配の特徴を示しているが、このほか、一本の筋線維上に通常の終板の他に付帯構成分の単純な副終板を同時に形成する重複支配が少数認められる。後者は単一神経元の支配下にあるが、文献では、人のアブミ骨筋(野尻)や猫の鼓室張筋(BLEVINS)で少数ずつ観察されている。また第I型終板には、ときどき微細な無髄神経線維が進入しているが、これは前述自律神経系から単離した副神経線維(BOEKE)に一致するものと思われる。なお、まれに、ブドウ状終末と超終末神経線維の存在が確認されたが、前者は人の食道筋(定)や猫の眼筋(BOEKE)、蛙の舌筋(LAWRENTJEW)で観察されている。超終末神経線維は運動終板の一構成分で、文献では、人の眼筋(岩永ら)で少数観察されているが、一般の体肢筋には存在しないと言われている(福島)。第Ⅱ型終末は輪状食道筋において検出された。文献上、兎の咽頭筋(DUTTA)や両棲類の眼筋(BURNASCHOWA)で観察されており、これは通常の運動神経終末の系統発生から逸脱した特殊な終末装置であるとみられている(MAWRINSKAJA)。なお、この終末には副神経線維が随伴している。  9. 食道乳頭の神経分布は量的には貧弱であるが、固有層において少数の蛇行性神経線維がみられ、二次乳頭にも適度に進入し、自由に終末している。また主として血管の周囲には特殊神経細胞の分布がみられる。上皮内神経線維は検出されなかった。 結論  以上の解剖学的、組織学的検索成績より、牛の食道は主に次のような特性をもっていると結論することができる。  1. 牛の食道は自律、知覚および運動各神経により三重の神経支配を受けている。  2. 牛の食道筋は、筋内神経叢の形成されている点では一般の体肢筋に似ているが、神経各終末の所見では、むしろ内臓横紋筋としての特性を強くもっており、またその運動は相当鋭敏である。  3. 筋紡錘は検出されなかったが、明瞭なほかの知覚神経終末が検出されたので、固有知覚の存在は肯定される。  4. 食道乳頭の神経分布を明らかにした。}, title = {牛の食道の神経分布に関する解剖学的、組織学的研究}, year = {} }