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アイテム
加齢がイヌCD8⁺ T細胞の細胞増殖抑制に及ぼす影響および培養条件による抗腫瘍免疫改善効果の検討
https://az.repo.nii.ac.jp/records/2000124
https://az.repo.nii.ac.jp/records/2000124b9169211-a18e-4573-950f-fdee3c5a02c0
名前 / ファイル | ライセンス | アクション |
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Item type | 学位論文 / Thesis or Dissertation(1) | |||||||
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公開日 | 2024-07-21 | |||||||
タイトル | ||||||||
タイトル | 加齢がイヌCD8⁺ T細胞の細胞増殖抑制に及ぼす影響および培養条件による抗腫瘍免疫改善効果の検討 | |||||||
言語 | ja | |||||||
言語 | ||||||||
言語 | jpn | |||||||
資源タイプ | ||||||||
資源タイプ | doctoral thesis | |||||||
アクセス権 | ||||||||
アクセス権 | open access | |||||||
アクセス権URI | http://purl.org/coar/access_right/c_abf2 | |||||||
著者 |
山内, 章寛
× 山内, 章寛
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抄録 | ||||||||
内容記述タイプ | Abstract | |||||||
内容記述 | 近年の獣医療の進歩によりイヌの寿命が大幅に延長した結果、イヌにおける加齢性疾患の増加が問題視されている。特に腫瘍はイヌにおける死因の第一位であり、10歳以上のイヌでは約50%が罹患することが報告されている。その治療法は外科療法、放射線療法、化学療法が一般的とされているが、遠隔転移や多発性病変、浸潤性が高い腫瘍に対して延命効果を示す治療は未だ無く、腫瘍特異的かつ微小病変にも効果が期待される新規治療法の開発が急務となっている。 腫瘍の発生と病態進行の制御には、主にCD8⁺ T細胞による免疫監視メカニズムが重要とされており、体内に発生した腫瘍細胞の除去には3つの主要なプロセスが関与している。第一段階として腫瘍細胞を樹状細胞やマクロファージなどの自然免疫細胞が貪食し、腫瘍抗原を捕捉する。第二段階ではこれらの細胞が近傍のリンパ組織に移動し、獲得免疫を担うT細胞に腫瘍抗原を提示する。この腫瘍抗原提示により、CD8⁺ T細胞はナイーブT細胞からエフェクターT細胞に分化し、腫瘍細胞に対する直接的かつ強力な細胞傷害能を獲得する。第三段階として一部のCD8⁺ T細胞がメモリーT細胞へと分化し、高い自己増殖能と腫瘍抗原の再暴露に対する活性能を獲得することで、長期にわたる免疫活性の維持に寄与している。 上記のような免疫監視メカニズムを腫瘍の治療に応用したものが腫瘍免疫療法である。そのうちの一つであるT細胞輸注療法は、腫瘍患者自身から分離したT細胞を体外で活性化・増殖させた後、そのT細胞を再び患者に還元することで抗腫瘍効果を期待するものである。中でも、キメラ抗原受容体T(CAR-T; chimeric antigen receptor-T)細胞療法は、増殖させたT細胞に遺伝子改変技術を用いて腫瘍特異的な細胞傷害活性を付与するものであり、ヒトでは化学療法抵抗性のリンパ芽球性白血病に対して約80%もの劇的な完全奏効率が示されている。しかしながら近年、高齢者からCAR-T細胞を作製した場合、高い抗腫瘍活性と自己複製能力を有するはずのメモリーT細胞集団が形成されにくく、拡大培養が困難であることが示唆されており、高齢の腫瘍患者を治療対象とした際に、その治療効果が低下する可能性が示されている。 本原因の一つとして考えられているのが免疫老化である。免疫老化とは、加齢に伴う免疫系の変化を指し、その特徴としてヒトでは高齢になるほど末梢血中ナイーブCD8⁺ T細胞が減少することや、T細胞のアポトーシスが亢進することなどが明らかとなっている。更に、加齢に伴いCD8⁺ T細胞の細胞増殖能が減弱することが知られており、こうした迅速かつ強力なクローン性増殖の喪失が腫瘍の発生および病態の進行に関連するとされている。 イヌの腫瘍はヒトの腫瘍と臨床兆候、組織学的特徴、発生メカニズムにおいて多くの類似点を有することから、ヒトで報告される上記の免疫老化の特徴がイヌにおいても模倣される可能性が高い。近年では、高齢犬において末梢血由来単核球の細胞増殖が低下していることやナイーブT細胞が減少していることなどイヌの免疫老化の存在を示唆する報告がある。しかしながらこれらの報告では、T細胞輸注療法で用いられるT細胞の刺激条件下で検証されていないことや、細胞増殖の低下と分化状態の関連性について言及していないことから、イヌのT細胞輸注療法の開発における免疫老化の影響は明らかとなっていない。 またIL-7およびIL-15はIL-2と同様にγ鎖サイトカインファミリーの一種であり、マウスやヒトにおいてCD8⁺ T細胞におけるメモリーT細胞集団を拡大させ、アポトーシスを抑制することが知られている。近年ではCAR-T細胞をIL-2ではなくIL-7およびIL-15を用いて刺激することでマウスにおける抗腫瘍効果が持続したとの報告がされている。しかしながらこれまでイヌにおいてIL-7およびIL-15が免疫老化の特徴を示すCD8⁺ T細胞集団の培養に有用であるかは明らかとなっていなかった。 そこで本研究では、まずイヌCD8⁺ T細胞における加齢性の細胞増殖障害に関する特徴とそのメカニズムを明らかにするために、CAR-T細胞の刺激方法として一般的である抗CD3/CD28抗体結合ビーズ(刺激ビーズ)とIL-2を用いて、高齢犬CD8⁺ T細胞を刺激した後の細胞増殖、分化状態、アポトーシスを解析した。更に、高齢犬CD8⁺ T細胞における細胞増殖の低下を改善することを目的として、IL-7とIL-15を用いた高齢犬CD8⁺ T細胞の刺激培養の検討を行った。 第1章では刺激ビーズとIL-2を用いて若齢犬および高齢犬のCD8⁺ T細胞を培養した結果、高齢犬において細胞増殖が減弱していることが明らかとなった。また若齢犬と高齢犬の末梢血中CD8⁺ T細胞における分化状態を解析した結果、高齢犬ではナイーブCD8⁺ T細胞が減少していることが明らかとなった。さらに刺激培養後のCD8⁺ T細胞の分化状態を解析した結果、高齢犬ではエフェクターおよびセントラルメモリーCD8⁺ T細胞への分化および増殖が低下していることが明らかとなった。このことから、高齢犬CD8⁺ T細胞で見られた体外培養時の細胞増殖の低下は、分離時の分化状態の亢進によるものであることが示唆された。また本章では、高齢犬におけるCD8⁺ T細胞の細胞増殖障害が、IL-2を添加した際に顕在化していたことから、IL-2/IL-2Rシグナルの活性状態が細胞増殖の低下に関与する可能性も示唆された。 第2章では、高齢犬CD8⁺ T細胞において細胞増殖が低下するメカニズムとして考えられるアポトーシスおよび細胞死について解析した。その結果、高齢犬由来のCD8⁺ T細胞では、細胞増殖の低下が顕在化した培養後8日目においてアポトーシスが亢進していることが明らかとなった。さらにIL-2による再刺激は、高齢犬CD8⁺ T細胞におけるERKの活性化を亢進させることが明らかとなった。IL-2はTCRシグナルの活性化を介してCD8⁺ T細胞の細胞増殖を誘導する一方で、同シグナル経路の活性化によりアポトーシスを誘導するという二面的な作用を持つことが報告されている。またT細胞において加齢に伴って蓄積されたDNAダメージがERKの活性化を誘導するという報告もあることから、今回IL-2の再添加時に認めた高齢犬CD8⁺ T細胞におけるERK活性の亢進がアポトーシスの亢進とどのような関連を持つかについては更なる検証が必要と考えられる。 次いで第3章では、高齢犬CD8⁺ T細胞における細胞増殖の改善を目的として、IL-2に加えてIL-7とIL-15を用いた培養を検討した。その結果、刺激ビーズに加えてIL-2、IL-7、IL-15の全てを加えた群では、セントラルメモリーT細胞集団からエフェクターT細胞集団への分化が制御され、高齢犬CD8⁺ T細胞の細胞増殖が改善されることが明らかとなった。また低濃度のIL-2添加条件下では、IL-7およびIL-15の添加が高齢犬CD8⁺ T細胞のアポトーシスを抑制することが明らかとなった。本結果は末梢血由来のCD8⁺ T細胞を用いた基礎的な検討にとどまった。今後は本結果を高齢犬由来T細胞に対しCAR遺伝子を導入した条件で検証することで、IL-7およびIL-15の臨床的有用性が明らかとなることが期待される。 以上の結果から、高齢犬ではナイーブCD8⁺ T細胞の減少とアポトーシスの亢進という2つのメカニズムでCD8⁺ T細胞の細胞増殖が低下していることが明らかとなり、これらを標的とした培養条件を検討することで高齢犬CD8⁺ T細胞における拡大培養が可能となることが示唆された。また刺激ビーズとIL-2を用いた従来のT細胞輸注療法で用いられていたT細胞培養プロトコールに、IL-7およびIL-15を加えることで、高齢犬で認められたCD8⁺ T細胞の細胞増殖障害が改善される可能性が示唆された。以上より、高齢の腫瘍罹患犬を対象としたT細胞輸注療法の開発において、本研究で得られた知見が効率的なT細胞培養プロトコールを構築するための一助となることが期待される。 |
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学位名 | ||||||||
学位名 | 博士(獣医学) | |||||||
学位授与機関 | ||||||||
学位授与機関識別子Scheme | kakenhi | |||||||
学位授与機関識別子 | 32701 | |||||||
学位授与機関名 | 麻布大学 | |||||||
学位授与年月日 | ||||||||
学位授与年月日 | 2024-03-15 | |||||||
学位授与番号 | ||||||||
学位授与番号 | 甲第180号 |