WEKO3
アイテム
チワワにおける粘液腫様変性性僧帽弁疾患に関する研究
https://doi.org/10.14944/0002000121
https://doi.org/10.14944/0002000121a555bdc4-90fb-44c5-8fd0-7e135dc4d81f
名前 / ファイル | ライセンス | アクション |
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Item type | 学位論文 / Thesis or Dissertation(1) | |||||||
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公開日 | 2024-07-21 | |||||||
タイトル | ||||||||
タイトル | チワワにおける粘液腫様変性性僧帽弁疾患に関する研究 | |||||||
言語 | ja | |||||||
言語 | ||||||||
言語 | jpn | |||||||
資源タイプ | ||||||||
資源タイプ | doctoral thesis | |||||||
ID登録 | ||||||||
ID登録 | 10.14944/0002000121 | |||||||
ID登録タイプ | JaLC | |||||||
アクセス権 | ||||||||
アクセス権 | open access | |||||||
アクセス権URI | http://purl.org/coar/access_right/c_abf2 | |||||||
著者 |
新実, 誠矢
× 新実, 誠矢
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抄録 | ||||||||
内容記述タイプ | Abstract | |||||||
内容記述 | 粘液腫様僧帽弁疾患(MMVD)は犬で高率に発生する疾患であり、犬の心疾患の70%以上を占める。罹患率が加齢と共に上昇することや小型犬に好発するといった疾患の特徴から、病理学的な探索を含めたものでは8才以上の小型犬の90%がMMVDに罹患しているという報告まで存在する。 本疾患の病因は、弁尖や腱索における線維層の破壊、および海綿層における酸性ムコ多糖類の過剰な蓄積(粘液腫様変性)であり、その結果として弁尖同士の接合不良や腱索の伸長が起こり、僧帽弁逆流(MR)を生じる。病態はこのMRの量によって変化し、逆流量が少ない、つまりMMVDの初期であれば、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系、交感神経系、神経体液性因子の亢進により、MRによって減少した心拍出量を適度に代償することが可能である。しかし、逆流量が増加したMMVDでは、心拍出量を維持するために、前述の機序が生体にとって過度な代償機転として働き、左房、左室への容量負荷となる。最終的には左房圧、肺静脈圧が上昇することで、うっ血性心不全、すなわち肺水腫へと進行する。 MMVDの罹患率には、犬種差や動物種差が存在することから遺伝性因子の関与が考えられるものの、正確な発生機序は未だ不明である。したがって、罹患犬の交配を避ける繁殖プログラムを除けば、粘液腫様変性の発生を未然に防ぐ方法や粘液腫様変性そのものを治療する方法はない。実際にうっ血性心不全を発症した犬の予後は不良であり、内科治療のみでの生存期間中央値は9ヶ月程度とされている。 すべての犬種がMMVDに罹患する可能性はあるものの、本疾患は小型犬、特にチワワに好発する。欧米を中心とした多施設で行われた疫学調査(LOOK-Mitral registry)によれば、6,016頭のMMVDのうち、チワワは雑種犬、キャバリア・キングチャールズ・スパニエル(CKCS)に次いで3番目に多く、483例が罹患犬として組み入れられている。欧州と異なり本邦では、チワワはトイプードルに次いで2番目に多く、5万頭以上が飼育されているといった背景から、国内ではMMVDに罹患したチワワに遭遇する頻度はさらに高いと考えられる。 罹患率だけではなく、チワワではMMVDが重症化する。僧帽弁形成術は病態が進行したMMVDに適応となる治療法であるが、手術を受けた犬種の内訳に注目すると常にチワワが上位を占めている。犬種ごとに死因を調べた疫学研究においても、チワワの死因は循環器疾患が最も多いことが明らかとなっており、チワワではMMVDは生存に関わる疾患となっている。 このように、本邦の小動物獣医臨床ではチワワのMMVDは極めて重要な疾患である。しかしながら、チワワのみならず本疾患が発症する根本的な機序についてはこれまでに解明されていない。そこでMMVDがチワワで好発する要因を解明するには早期段階における病態について詳細に観察する必要があると考えた。本研究の目的は、チワワのMMVDの早期病態の把握と臨床的検査法の確立である。 研究1 健常なチワワの心形態の測定と基準値の確立 犬の心エコーの基準値は犬種ごとに異なる。ところが、過去に報告されている心エコーの基準値は、多犬種、主に大型犬を中心に集められたデータから構成されており、チワワの心エコーの参考値はこれまでに明らかとなっていない。したがって、研究1では健常なチワワの心エコー指標(心臓内腔径)の基準値の確立を目的とし、47例の臨床的に健康なチワワを用いて、体重に対して指数関数的に変化する心エコー値のアロメトリー式を求めた。 結果1 健常なチワワの心エコー値は過去に報告された基準値に準ずる チワワにおける心臓内腔径は、一般臨床で汎用されている、大型犬を中心とした集団から求められた体重で補正する基準値から大きく逸脱するものはなく、チワワであっても過去に報告されている基準値に準ずることが明らかとなった。MMVDの病態評価に重要となる左心房と左心室の内腔径は、チワワにおいても体重に従い指数関数的に変化した。 さらに、偶発的な所見として、若齢の心雑音が聴取されない個体(一般的には健常と認識される)においても、非常に軽微なMRを有していることを高頻度に確認した(47例中38例)。本来MMVDは高齢期に発症する疾患であることから、この現象はチワワにおけるMMVDの特徴を示唆している可能性が考えられた。 なお、研究1はThe Journal of Veterinary Medical Science 2022 10;84(6):754-759に公表済みである。 研究2 心雑音が聴取されない若齢のチワワにおける僧帽弁逆流の特徴と保有率 研究1で心雑音が聴取されない若齢のチワワの多くにMRが認められたことから、MRの保有率と僧帽弁の形態およびMRの特徴について調べた。6歳以下の心雑音のない臨床的に健康なチワワ30例に対して心エコーを行い、僧帽弁逆流の有無および僧帽弁の形態(肥厚、逸脱)を評価した。 結果2 若齢時のチワワでは高い割合で僧帽弁逆流を有する MRは30例中26例(86.7%)と極めて高い割合で認められた。MMVDを示唆する所見である僧帽弁の肥厚、左心房側への逸脱は、それぞれ17例(56.7%)、14例(46.7%)で認められた。これらの結果から、チワワでは若齢期からMRを有しており、若い個体であってもMMVD を発症している可能性が示唆された。 また、一般的なMRは収縮期のすべての時相(全収縮期)で逆流を生じるが、この本来のMRの時相とは異なり収縮期の後半部分のみに限定して生じるMR(収縮後期MR)が6例で確認された(MRを呈する26例中6例[23.1%])。収縮後期MRは、これまでに獣医療では報告されていない現象であり、本犬種における高いMMVD発症率の一つの因子になりうると予想された。 研究2は2022年度のアメリカ獣医内科学会年次大会で発表済みであり、投稿準備中である。 研究3 心雑音が聴取されない若齢のチワワにおけるバイオマーカーと僧帽弁逆流との関連性 研究2の結果から、チワワではMRが若齢期から生じていることが明らかとなった。この極めて早期の変化がANPとNT-proBNPの値に及ぼす影響を検討した。ANP、NT-proBNPなどのバイオマーカーは近年、獣医療で心疾患の病態を評価するために用いられており、心房、心室への伸展刺激によって血中濃度が上昇する。心雑音の聴取されない28例の健常なチワワから採取した56検体のANPとNT-proBNPを前方視的に測定し、その結果とMRの程度を比較した。MRの程度は心エコー検査におけるMR面積をもとに、MR 20%以上群と20%未満群、さらに10%以上群と10%未満群に分類した。 結果3 早期MRをANPやNT-proBNPから推定することはできない ANP、NT-proBNPのいずれの値もMR面積の違いにおける有意な差なく、すべての群で既報の基準値と同程度であった。以上のことから、チワワで認められる軽微なMRは、心臓バイオマーカーの異常値として検出されないことが明らかとなった。ただし、このMRは臨床的に治療の対象とならないものでもあるため、チワワにおいても他犬種と同様に、治療介入を決定するためのスクリーニング検査としてバイオマーカーを用いることが可能と解釈できる結果であった。 研究3は第10回神奈川県獣医師会学術大会(2023年3月)で発表済みであり、投稿準備中である。 本研究によりチワワは若齢期より軽微なMRを有していることが明らかとなり、この犬種がMMVDを好発する要因のひとつである可能性を示した。我々は、チワワが若齢時からMRを保有している原因は、犬種特異的な僧帽弁装置の形態によるものであると仮説を立てている。人医では、研究2で確認された収縮後期MR は、僧帽弁装置の時相変化(運動性)によって起こっていることが報告されているため、チワワにおいても同様の現象である可能性は高いと考えている。追加研究として僧帽弁を多面的に評価し、僧帽弁の形態、僧帽弁輪径、腱索長、さらにこれらの項目について時相による位置変化を観察することを予定している。 本研究は、本犬種のMMVD進行に伴う臨床的評価法として重要な心エコー検査指標と心臓バイオマーカーについて基準となる情報を提供した。 |
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学位名 | ||||||||
学位名 | 博士(獣医学) | |||||||
学位授与機関 | ||||||||
学位授与機関識別子Scheme | kakenhi | |||||||
学位授与機関識別子 | 32701 | |||||||
学位授与機関名 | 麻布大学 | |||||||
学位授与年月日 | ||||||||
学位授与年月日 | 2024-03-15 | |||||||
学位授与番号 | ||||||||
学位授与番号 | 甲第184号 | |||||||
Rights | ||||||||
値 | 本論文の一部は以下に公表した。 Niimi S, Kobayashi H, Take Y, Ikoma S, Namikawa S, Fujii Y. Reference intervals for echocardiographic measurements in healthy Chihuahua dogs. The Journal of Veterinary Medical Science. 2022 Jun 10;84(6):754-759. |
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著者版フラグ | ||||||||
出版タイプ | VoR | |||||||
出版タイプResource | http://purl.org/coar/version/c_970fb48d4fbd8a85 |