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アイテム
ブタおよびイノシシからの哺乳類オルソレオウイルスの浸潤状況および遺伝子多様性に関する研究
https://doi.org/10.14944/0002000120
https://doi.org/10.14944/000200012090eb5eb2-327e-4f40-8668-9ff813561643
名前 / ファイル | ライセンス | アクション |
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Item type | 学位論文 / Thesis or Dissertation(1) | |||||||
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公開日 | 2024-07-21 | |||||||
タイトル | ||||||||
タイトル | ブタおよびイノシシからの哺乳類オルソレオウイルスの浸潤状況および遺伝子多様性に関する研究 | |||||||
言語 | ja | |||||||
言語 | ||||||||
言語 | jpn | |||||||
資源タイプ | ||||||||
資源タイプ | doctoral thesis | |||||||
ID登録 | ||||||||
ID登録 | 10.14944/0002000120 | |||||||
ID登録タイプ | JaLC | |||||||
アクセス権 | ||||||||
アクセス権 | open access | |||||||
アクセス権URI | http://purl.org/coar/access_right/c_abf2 | |||||||
著者 |
深瀬, 優香
× 深瀬, 優香
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抄録 | ||||||||
内容記述タイプ | Abstract | |||||||
内容記述 | 哺乳類オルソレオウイルス(Mammalian orthoreoviruses: MRVs)は世界中に分布し、ヒトやブタおよびイノシシを含め、コウモリ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコといったあらゆる種類の哺乳類に感染することが知られている。ヒトにおいてはMRVに感染しても一般的に症状は認められないと考えられていたが、呼吸器疾患や消化器疾患を伴う症例が散発的に報告され、さらに神経疾患や急性呼吸器疾患など、より重篤な症状にMRVが関与することが報告されるようになった。ブタにおいてもMRV感染はほとんどの場合、症状を示さないと考えられていたが、中国、韓国、米国およびイタリアにおいて、MRVの単独感染または他の病原体との同時感染による重篤な下痢症例が報告されている。 MRVはレオウイルス目スピナレオウイルス科オルソレオウイルス属の中の種として分類され、エンベロープを有さない2層構造を持つカプシドから構成される正20面体の構造を示し、10本の分節型2本鎖RNAをゲノムとして保有する。10本の遺伝子分節は、8つの構造タンパク質であるλ1(L3遺伝子)、λ2(L2遺伝子)、λ3(L1遺伝子)、μ1(M2遺伝子)、μ2(M1遺伝子)、σ1(S1遺伝子)、σ2(S2遺伝子)およびσ3(S4遺伝子)、および4つの非構造タンパク質であるμNS(M3遺伝子)、μNSC(M3遺伝子)、σNS(S3遺伝子)およびσ1s(S1遺伝子)をコードしている。μ1、σ3およびσ1は外殻カプシドタンパク質を構成し、このうちσ1は中和抗体によって認識されるオルソレオウイルスの血清型特異的抗原である。σ1タンパク質の抗原性状とS1遺伝子の遺伝的近縁性に基づいて、MRVはLang(T1L)、Jones(T2J)、Dearing(T3D)、Abney(T3A)およびNdelle(T4N)をプロトタイプウイルス株とするMRV-1(T1)、MRV-2(T2)、MRV-3(T3)およびMRV-4(T4)の血清型に分類されている。MRVは分節型の遺伝子を保有しているため、異なる血清型間であっても1個体の宿主に2株以上のMRVが同時に感染する、重複感染を起こしたに容易に遺伝子再集合が発生し、遺伝子再集合体が生成される。配列の多様性と有利な遺伝的進化を得た遺伝子再集合体は、病原性を増大し、宿主域を拡大すると考えられている。 MRVは多くの宿主に感染して人獣共通感染症を引き起こし、我が国においてもヒトにおける症例が報告されているものの、我が国のブタにおけるMRV感染は呼吸器疾患のある個体の呼吸器からMRV-1が、下痢症状のある個体とない個体の糞便からMRV-2が分離された報告がそれぞれ2件あるのみで、我が国のブタやイノシシにおけるMRVの分布状況は不明である。また、上記の報告にはMRV遺伝子の情報はなく、我が国のブタおよびイノシシにおけるMRVの分布実態およびMRVの遺伝子情報の収集は急務であった。そこで本研究では我が国に飼養されているブタおよび分布しているイノシシの糞便からMRVを検出し、詳細な遺伝子解析を実施した。 【第1章】ブタおよびイノシシの糞便からの哺乳類オルソレオウイルスの検出 腸管系ウイルス調査のため2020~2022年に採取された、北海道、本州および九州で飼養されているブタ349頭および北陸地方に生息するイノシシ126頭の糞便乳剤の遠心上清から株化細胞であるMA104細胞を用いてウイルス分離を行ったところ、ブタの糞便材料を接種したMA104細胞の349検体中47検体に細胞変性効果(CPE)が観察された。この47検体の培養上清からRNAを抽出し、ライブラリーを作製して次世代シークエンス(NGS)を実施したところ、20検体からA群ロタウイルス、13検体からエンテロウイルスGおよび10検体からサペロウイルスの遺伝子が検出され、残りの4検体からはMRVのほぼ完全長の配列が得られた。同じ糞便遠心上清から直接RNAを抽出し、同様な方法でライブラリーを作製してNGSを実施したところ、MRVが分離された4検体を含めていずれの検体からもMRVが検出されなかった。MRVが検出された4検体については、サペロウイルスの全遺伝子配列およびC群ロタウイルス、アストロウイルス、エンテロウイルスG、テシオウイルスの部分配列が確認されたが、MRV遺伝子は見つからなかった。 腸管系ウイルスの場合、糞便材料から直接RNAを抽出したメタゲノムアプローチによるNGSが行われるが、腸内に存在する細菌のリボゾーマルRNAが障害となりウイルス遺伝子が検出されにくいことがある。今回、糞便から直接抽出したRNAからのNGSではMRVは検出されなかったことから、MRVの検査においてはMA104細胞を用いたウイルス分離の方がNGSよりも感度が高いことが示された。今回のMRV検出率はブタが1.1% (4頭/349頭)であり、イノシシの126検体からは検出されなかった。MRVが検出されたブタはすべて健康個体であったが、下痢症状を呈する検体は15検体と少なかったことから、下痢症との関連を調べるためには下痢検体をさらに増やして検討する必要があると思われた。 【第2章】分子系統樹解析および遺伝子相同性解析による哺乳類オルソレオウイルスの疫学的分析 第1章で得られた4株に、2017年から2019年にブタおよびイノシシの糞便についてNGSを実施し、MRVが陽性となったブタおよびイノシシそれぞれ1検体から分離した2株のMRVを加え、DDBJ/EMBL/GenBankデータベースに登録されている各種動物由来MRVとともに全遺伝子分節の系統樹解析および塩基配列の相同性解析を実施した。その結果、S1遺伝子塩基配列を用いた系統解析で我が国のブタおよびイノシシ由来MRVはMRV-2(豚由来2株)およびMRV-3(豚由来2株およびイノシシ由来1株)に分類された。MRV-1およびMRV-2は我が国のブタからの分離がすでに報告されているが、MRV-3は我が国では犬から報告があるのみで、我が国のブタおよびイノシシにMRV-3が感染していることは本研究で初めて明らかになった。その他の分節の系統樹解析から、我が国のブタおよびイノシシ由来のMRVは国外のブタ由来MRVおよびヒト由来のMRVプロトタイプ株と相同性の高い分節を共有していることが明らかとなった。配列の比較からも、我が国のブタおよびイノシシ由来MRVは世界的に分布しているブタ由来MRVの遺伝子分節をバックボーンに持つことが明らかとなり、これを基本にヒト由来のプロトタイプMRVから同義置換により派生した可能性が考えられた。さらに我が国のブタおよびイノシシ由来MRVのいくつかの遺伝子分節は、我が国のヒトあるいは下水由来MRV遺伝子分節と相同性が確認されたことから、ヒト由来MRVとの遺伝子再集合の結果作出された可能性が示唆された。 【第3章】遺伝子再集合、遺伝子相同組換えおよびS1蛋白の構造予測による哺乳類オルソレオウイルス遺伝子の進化の分析 RNAウイルスは遺伝子再集合および遺伝子相同組換えにより変異するため、我が国のブタおよびイノシシ由来のMRVの起源や進化を考察する上で、これらを解析することは重要と考えられる。我が国のイノシシ由来MRV株WB/To14株は、L2、L3およびM3遺伝子は我が国の動物園で飼育されていたライオン由来のMRVと高い相同性を示した。動物園のライオンとイノシシの直接の接点がないことから、ライオンは餌を介してイノシシ由来MRVと類似性を有するMRVに感染した可能性が考えられる。S2遺伝子に関しては大阪で2014年にヒトから分離されたMRV株との相関性が高く、S1遺伝子は免疫誘導を起こすことから変異の激しい遺伝子分節であるが、WB/To14株は2021年に関東地方でブタから分離されたMRVに高い相同性を保有していた。これらのことはブタとイノシシ間にMRVのやり取りがあることを示しており、イノシシはヒトやブタのMRV感染の感染源になる可能性があることが示された。また、遺伝子相同組換え解析において、DDBJ/EMBL/GenBankデータベースから得た配列データを用いた組換え解析では、ブタ由来のMRVを含むL3遺伝子およびM2遺伝子に確からしさが強く支持される遺伝子組換えが存在することが示された。以上のことから我が国のブタおよびイノシシ由来MRVは、我が国に分布する他の宿主由来のMRVと遺伝子再集合および遺伝子相同組換えを起こし、進化を続けていることが示された。 またAlphaFold2を利用したMRVのS1蛋白質の立体構造予測の結果から、遺伝子型間にアミノ酸配列の相同性は50%未満と低く、C端側においては構造の相違が認められたが、N端側の棒状の構造は遺伝子型に関わらず共通して確認されたことから、MRVは抗原性状に関わると考えられるC端側は変異するがC端側の構造を保ちつつ進化しているものと推察された。 【総括】 MRVは我が国のブタおよびイノシシに感染しており、国内の他の宿主由来のMRVと遺伝子分節をやり取りし、さらには遺伝子組換えを起こしてブタおよびイノシシ群中で進化を続けていることが明らかとなった。イノシシにおいては、上記のメカニズムにより進化したMRVをヒトおよびブタをはじめとした家畜に伝播する感染源になりうることが示唆された。本研究で得られた知見がMRVの疫学解明の一助となり、MRV感染症の診断や予防の一助となることを期待したい。 |
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Abstract | ||||||||
内容記述タイプ | Abstract | |||||||
内容記述 | Mammalian orthoreoviruses (MRVs) are non-enveloped double-stranded RNA viruses with a broad host range. MRVs are prevalent worldwide, and in Japan, they have been isolated from various hosts, including humans, dogs, cats, wild boars, and pigs, and they have also been found in sewage. However, information on the status of MRV prevalence and genomic characterization in pigs and wild boars in Japan is lacking. Therefore, in this study, prevalence and genetic characterization of MRVs were investigated using fecal samples of porcine and wild boar collected for a surveillance of enteric viruses in Japan. Virus isolation and next generation sequencing were carried out on 421 fecal samples from pigs and 216 rectal contents from wild boars collected in 2017-2022 in Japan. MRVs were isolated from five (1.2%) of the samples from pigs and one wild boar sample found to be positive for MRV. Genetic analysis of the S1 gene of these strains revealed that the Japanese porcine MRV isolates could be classified as MRV-2 and MRV-3. Whole genome analysis showed that Japanese porcine MRVs exhibited genetic diversity, although they shared sequence similarity with porcine MRV and MRV prototype human strains isolated in the 1950s sequences in the DDBJ/EMBL/GenBank database. Several potential intragenetic reassortment events were detected among MRV strains from pigs, sewage, and humans in Japan, suggesting zoonotic transmission. Furthermore, homologous recombination events were identified in the M1 and S1 genes of Japanese porcine MRV. Structural modeling of the S1 protein showed structural differences of S1 between the strains, suggesting diversity in antigenic properties of MRVs. These findings imply that different strains of Japanese porcine MRV share a porcine MRV genomic backbone and have evolved through intragenetic reassortment and homologous recombination events. The results of this study shed light on the genetic diversity, plasticity and evolution of porcine MRV and prevention of MRV infection not only in porcine but also in human. | |||||||
学位名 | ||||||||
学位名 | 博士(獣医学) | |||||||
学位授与機関 | ||||||||
学位授与機関識別子Scheme | kakenhi | |||||||
学位授与機関識別子 | 32701 | |||||||
学位授与機関名 | 麻布大学 | |||||||
学位授与年月日 | ||||||||
学位授与年月日 | 2024-03-15 | |||||||
学位授与番号 | ||||||||
学位授与番号 | 甲第182号 | |||||||
Rights | ||||||||
値 | 本論文の一部は以下に公表した。 Fukase Y, Minami F, Masuda T, Oi T, Takemae H, Ishida H, Murakami H, Aihara N, Shiga T, Kamiie J, Furuya T, Mizutani T, Oba M, Nagai, M (2022) Genetic diversity, reassortment, and recombination of mammalian orthoreoviruses from Japanese porcine fecal samples. Archives of Virology. 167: 2643–2652. https://doi.org/10.1007/s00705-022-05602-8 Reproduced with permission from Springer Nature. |
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著者版フラグ | ||||||||
出版タイプ | VoR | |||||||
出版タイプResource | http://purl.org/coar/version/c_970fb48d4fbd8a85 |