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バイオフィリア環境としての動物園の役割と人の心身への影響に関する研究
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Item type | 学位論文 / Thesis or Dissertation(1) | |||||
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公開日 | 2013-11-26 | |||||
タイトル | ||||||
タイトル | バイオフィリア環境としての動物園の役割と人の心身への影響に関する研究 | |||||
言語 | ||||||
言語 | jpn | |||||
資源タイプ | ||||||
資源タイプ | thesis | |||||
著者 |
阪上, 健人
× 阪上, 健人 |
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抄録 | ||||||
内容記述 | Wilsonは、人間には遺伝的に動植物を含む自然に対する強い関心・愛着が組み込まれているとして、その人間が持つ生得的なものを「バイオフィリア」と呼んだ。本研究では、この自然や他の生物に対する人の生得的な関心を引き出すことのできる環境を「バイオフィリア環境」とした。Hedigerは、都市部への人口の集中は人々を自然から隔絶し、結果的に精神的欠乏へとつながることを指摘し、動物園を訪れることにより、その精神的に満たされない部分を解消することができると論じている。また、Daveyは、動物園に訪れることと人の本能との関係に関して「バイオフィリア」を引用することにより、人間社会のなかでの自然と動物との関わりにおける動物園の価値をさまざまな観点から論及している。たとえば、動物園における動物との触れ合いの効果やランドスケープなどの自然に近い展示方法には、人の持つ自然や他の生物に対する生得的な関心・愛着が密接に関係するとしている。さらに、動物園を訪れることと人の健康の関係についても述べ、その重要性を示唆している。しかし、動物園における人の健康に関する科学的研究は、未だ評価検討されていない。 本研究では、バイオフィリア環境として位置づけた動物園が人の心身に及ぼす影響を検討することを目的とし、以下の課題に取り組んだ。 第1章では、動物園を訪問することが人の心身の健康に良い効果があるのか、そして動物園の違いによりその効果に違いはあるのかの2点について検討した。東京都多摩動物公園(実験1)では大学生、横浜市立よこはま動物園(実験2)では20代を中心とした幅広い年齢層を対象とした。さらに、歩行の効果あるいは動物に対する視覚的な効果を調べるため、実験1の対照群として、動物を観ずに回る群を設けた。 第2章では、大学生を対象とし、動物園の比較要素として公園および映像鑑賞による人の心身への影響を検討した。このとき、動物園は動物と自然の双方を持つ環境として捉え、一方、公園は自然のみ、映像鑑賞はバーチャルな自然と動物の提供と考えた。 第3章では、近年、わが国において早急な対応を必要としている高齢化に着目し、動物園を訪れることによる高齢者の心身への効果を検討した。展示場を生息地域に類似させ、園内全体を使うことにより自然を表現している動物園に対し、水族館は魚類を中心に人工的な空間を提供しており、動物園とは異なった要素がある。そこで、第3章では、第2章(公園、映像鑑賞)で用いた比較要素に、新たに水族館を加えた。さらに、本章では、1年後の対象者の精神的健康状態を追跡調査した。 第4章では、一般来園者の高齢者を対象とし、その効果を検討した。本章の対象者は、第1から3章の対象者と異なり自らの意思で訪れている。 本研究の精神的評価方法としては、第1章ではWHO/QOL-26(Quality of Life)、第2から4章ではPOMS短縮版(Profile of Mood States-Brief questionnaire)を用いた。これらは精神的な変化を評価する最も一般的な心理尺度の一つであり、本研究では現場の調査に合わせ、記入時間による対象者への影響が少ない短縮版を用いた。WHO/QOL-26は、簡易的にQOLを測定可能なことから、健康管理ツールとしてさまざまな場面で活用されており、医療機関の臨床場面のみにならず福祉、教育現場などで用いられている。また、POMS短縮版は、対象者の一時的な気分や感情を測定することが可能であり、ストレス反応を反映するとされる陰性感情と陽性感情を評価することができる。さらに、性別・年齢の違いに対してもその信頼性が高い。身体的評価としては、従来、Andersonらの研究をはじめ、さまざまな研究で一般的に用いられている血圧等の心臓血管系測定に加え、第1章では歩数の測定を行った。また、第2から4章では新たに唾液中コルチゾールの測定を行った。 第1章 動物園を訪れることによる人の健康と生活の質(Quality of Life)への効果 2つの動物園で動物園に訪れることによる人の心身への効果を検討するため、実験1では、神奈川県の大学生ら(n=35, mean age: 20.5歳, 男性n=4, 女性n=31)、実験2では、20代を中心とした一般来園者(n=163, mean age: 31.2歳, 男性n=69, 女性n=94)を対象とした。身体的評価の結果、いづれの実験においても、訪問後に顕著な血圧の低下が見られた。精神的評価の結果としても、訪問後でいくつかの気分尺度項目の値が上昇する傾向があり、QOLの改善を示す結果が得られた。また、実験条件を合わせるため、同程度の歩行数が得られるようにした対照群(n=35, mean age: 20.3歳, 男性n=12, 女性n=23)では、精神的評価において身体的領域を表わす気分尺度とMean QOL(すべての気分尺度を平均した値)の値が明らかに低下した。 わが国の動物園は、全国に90園(日本動物園水族館協会加盟園)あり、その半数以上(59園; 65.6%)が都市部に存在しており、各園がそれぞれ展示方法や園内規模などの異なった特徴を持っている。同様な結果が得られた2つの動物園には、その展示方法や園内規模などの異なった特徴があるが、自然と動物を有するという点では基本的な違いはない。このことから、2つの動物園の異なった部分の影響は少ないものと考えた。以上より、動物園に訪問することは人の心身の健康へ良い効果があることが示唆された。 第2章 動物園と他施設の比較による人の心身の健康への影響 神奈川県の大学生ら(n=114, mean age: 21.5歳, 男性n=36, 女性n=78)を対象とし、動物園(よこはま動物園)、公園訪問および映像鑑賞による精神的身体的効果を検討した。その結果、精神的評価では、いづれの実験において気分尺度の値に改善が見られた。また、身体的評価においても、すべての実験後に血圧、唾液中コルチゾール値の明らかな低下が見られた。 以上より、動物園や公園への訪問、さらには動物の映像を鑑賞することは若い人々の心身の健康へ良い効果があることが示唆された。 第3章 動物園を訪れることによる高齢者の心身の健康への影響 ~他施設との比較による検証~ 近年、わが国では急激な高齢化の進行、さらには都市部における高齢化が懸念されており、高齢者の健康維持や疾病予防への対策が不可欠となっている。また、内閣府が行った年齢・加齢に対する考え方に関する意識調査では、「公平で安定的な公的年金制度の確立」や「高齢者の働く機会の確保」等に続いて、「健康づくりへの支援」があげられている。 本章では、高齢者(n=30, mean age: 68.0歳, 男性n=11, 女性n=19)が動物園(よこはま動物園)、水族館および公園訪問ならびに映像鑑賞による心身への効果を検討した。その結果、精神的評価では動物園でのみ明らかに良い変化が示された。身体的評価では、動物園と公園で訪問後に血圧が有意に低下した。また、唾液中コルチゾール値においても、動物園と公園で、訪問後に唾液中コルチゾール値が著しく減少した。一方、若い人々で同程度の効果のあった映像鑑賞は、高齢者においては明らかな変化を示さなかった。本章における追跡調査(n=28, mean age: 68.7歳, 男性n=10, 女性n=18, 回収率93%)の結果、1年間で動物園に1回以上訪問した人の活気の気分尺度において有意に高い値を示し、混乱の気分尺度では明らかに低い値が得られた。 以上より、本章の対象者である高齢者では、動物園が最も心身の健康へ効果があることが示唆された。 第4章 動物園を訪れることによる高齢者の心身の健康への影響 ~一般来園者による検証~ よこはま動物園の一般来園者の高齢者(n=37, mean age: 65.0歳, 男性n=15, 女性n=22)を対象とした結果、精神的評価では、陰性感情・陽性感情の気分尺度ともに改善が見られ、身体的評価においても、これまでの研究結果と同様に血圧の訪問後で明らかな低下が示された。また、コルチゾール値では、訪問中の値が明らかに減少した。以上より、動物園に訪れることは、高齢者の心身に好ましい影響があることが確認された。本章で対象とした高齢者には、家族、夫婦あるいは孫のいづれかの同行者と複数で訪問していた。同行者の影響について、解析を試みた結果、夫婦で訪れた人よりも、家族や孫と訪れた人の方が、血圧の明らかな低下が見られた。このことから、動物園を訪れることによる高齢者への効果には、同行者の要因も少なからず影響していることが考えられた。 動物園の持つさまざまな要因のうち、自然と動物の効果が主体になることが確認された(第1章)が、対象者によっては公園やバーチャルな様式(映像鑑賞)でも動物園と同様の効果があることがわかった(第2章)。これに対して、今日的あるいは近未来の大きな課題とも言うべき高齢者の心身の健康に関して、公園と水族館を含めた3者のうち動物園が最も有効であった(第3章)。このことは、実際に動物園を訪れた高齢者によっても証明された(第4章)が、高齢者の心身には、同行者(家族や孫)の要因も影響することが示唆された。 本研究の結果からバイオフィリア環境としての動物園は、人の心身へ良い効果があることが示唆され、とくに高齢者においては、有用な施設の一つであることが考えられた。わが国に現存する動物園のうち、その半数以上が都市部に存在していることや都市部の高齢化が進行していること等を考えると、動物園に訪れることは、高齢者に対する「健康づくりへの支援」の一つになり得る。 |
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学位名 | ||||||
学位名 | 博士(学術) | |||||
学位授与機関 | ||||||
学位授与機関名 | 麻布大学 | |||||
学位授与年月日 | ||||||
学位授与年月日 | 2009-03-15 | |||||
学位授与番号 | ||||||
学位授与番号 | 甲第44号 | |||||
著者版フラグ | ||||||
出版タイプ | AM | |||||
出版タイプResource | http://purl.org/coar/version/c_ab4af688f83e57aa |