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"薬物治療中は他の薬物や食物の相互作用について考慮する必要がある。ヒトでは、併用薬、食餌、病態、経口投与補助剤、サプリメントなど様々な因子により薬物の体内動態が変化することが報告され、これらの情報をもとに適正な薬物治療が行われている。しかし、獣医療では、薬物相互作用を引き起こす因子に関する知見が非常に少ない。薬物相互作用により血中濃度が予測より増加あるいは減少することで、薬物の効果を過小評価したり、副作用を過大評価したりしてしまうケースがある。例えば、ゾニサミドはイヌのてんかん発作に対し有効性が高いことが前臨床試験において判明していたが、実際の獣医療ではてんかん発作を抑制しないというのが獣医師の見解であった。この矛盾は、獣医療でのてんかん発作に対する第一選択薬であるフェノバルビタールが薬物代謝酵素を誘導し、ゾニサミドがその誘導した酵素で分解されるという薬物相互作用が原因であることを本論文の第1章で明らかにした。\n 薬物相互作用を引き起こす因子は獣医療特有のものも多く、ヒトの情報が転用できない場合が非常に多い。ヒトのてんかんに対し広く用いられているバルプロ酸やカルバマゼピンは、イヌでは代謝が著しく速いため、1日に4-5回投与しなければ有効血中濃度を維持できない。そのため、イヌのてんかんにはフェノバルビタールが第一選択として用いられている。このことが、前述のイヌ特有の薬物相互作用を引き起こした。また、イヌはヒトとは異なり、毎日同じドッグフードを摂取する。ドッグフードの成分が薬物と相互作用を引き起こす場合、その作用は継続するため、イヌ特有の薬物-食餌相互作用が惹起される可能性が非常に高い。\n 本論文では、獣医臨床上イヌで薬物相互作用を惹起する因子を薬物動態学的観点から明らかにすることで、獣医療における適正な薬物使用法確立の礎を構築した。\n\n第1章 薬物-薬物相互作用:フェノバルビタールが抗てんかん薬ゾニサミドの薬物動態におよぼす影響とその持続期間\n フェノバルビタールはイヌのてんかんに対し第一選択薬として用いられている。しかし、副作用などにより減量あるいは退薬すべき時には、ゾニサミドと併用あるいはゾニサミド単独投与に変更することが多い。本章では、これら2薬の相互作用の可能性について追究した。フェノバルビタール反復投与中にゾニサミドを経口投与すると、ゾニサミドの最高血中濃度および半減期はフェノバルビタール非投与に比べ減少した。この作用は、フェノバルビタール断薬後も10週間持続した。また、チトクロームP450(CYP)活性の指標となるアンチピリンの代謝は断薬後4週まで促進されていた。本結果より、フェノバルビタール反復投与時および断薬後10週間はゾニサミドの代謝が促進されることでその血中濃度が減少し、少なくとも断薬後4週間はCYP誘導が血中濃度減少のメカニズムとして関与していることが示唆された。\n\n第2章 薬物-食餌相互作用:尿pHコントロール食が抗てんかん薬フェノバルビタールの薬物動態におよぼす影響\n イヌでは、尿石症の治療・予防に尿を酸性化する食餌やアルカリ化する食餌を用いる。また、これらの尿石症は抗てんかん薬投与時により多く誘発される可能性が示唆されている。本章では、尿pHコントロール食と抗てんかん薬フェノバルビタールの相互作用の可能性について追究した。尿をアルカリ化または酸性化する食餌を与え、フェノバルビタールを単回経口投与すると、フェノバルビタールの血中半減期は、尿をアルカリ化する食餌で短くなり、酸性化する食餌で長くなった。また、フェノバルビタールの尿中排泄率は、尿のアルカリ化により上昇し、酸性化で低下した。本章では、尿pHコントロール食がフェノバルビタールの尿排泄率を変化させ、薬物動態に影響をおよぼすことが明らかとなった。\n\n第3章 薬物-病態相互作用:僧帽弁閉鎖不全(MR)が新規心不全薬ニコランジルの薬物動態におよぼす影響\n イヌの心不全治療(主にMR)にはACE阻害薬、ジゴキシン、ループ利尿薬、ピモベンダンが用いられているが、これらを併用しても十分な効果を得られない症例が少なくないため、新規心不全薬の開発が待たれている。MRは薬物の体内動態に影響を与えることが報告されているため、本章では、獣医領域で有用性が期待される冠血管拡張薬ニコランジルとMRとの相互作用の可能性について追究した。作出したMR犬にニコランジルを経口投与したところ、ニコランジルの血中濃度は投与量依存性に増加した。薬物動態学的解析の結果、ニコランジルの体内動態はMR犬とコントロール犬との間に差は認められなかった。MRがニコランジルの薬物動態には影響を与えないことが示唆された。\n\n第4章 薬物-経口投与補助剤相互作用:経口投与補助剤(ペースト、カプセルおよびオブラート)がゾニサミドの薬物動態におよぼす影響\n 獣医療では、ペースト状の食べ物、カプセルやオブラートなどの経口投与補助剤は、粉薬や苦い薬物、多数の薬物を投与するときに汎用されているが、これらが薬物動態におよぼす作用は不明であった。本章では、苦みが強いにもかかわらず長期間にわたり反復投与する必要のある抗てんかん薬ゾニサミドを経口投与した時に、これらの経口投与補助剤がゾニサミドの薬物動態に及ぼす影響について追究した。単回経口投与後のゾニサミドの吸収は、ペーストで包むともっとも速く、カプセル、オブラートの順に遅かった。ペースト、カプセルおよびオブラートで包むことはゾニサミドの吸収を遅らせることが明らかとなった。\n\n第5章 薬物-サプリメント相互作用:セントジョーンズワートが免疫抑制剤シクロスポリンの薬物動態におよぼす影響\n シクロスポリンは、イヌのアトピー性皮膚炎に対し有効性が高い薬物である。セントジョーンズワートは、無駄吠えや分離不安などのストレス要因に対し有用性が認められているサプリメントであり、アトピー性皮膚炎で痒みに苦しむイヌにシクロスポリンとともに併用する可能性がある。本章では、セントジョーンズワートとシクロスポリンの相互作用の可能性について追究した。セントジョーンズワート反復投与開始から少なくとも1週後にはシクロスポリンの血中濃度は減少し、その作用は4週間持続した。小腸および肝臓のCYP 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イヌの薬物治療において薬物動態学的相互作用をもたらす因子に関する研究
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名前 / ファイル | ライセンス | アクション |
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Item type | 学位論文 / Thesis or Dissertation(1) | |||||
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公開日 | 2013-11-26 | |||||
タイトル | ||||||
タイトル | イヌの薬物治療において薬物動態学的相互作用をもたらす因子に関する研究 | |||||
言語 | ||||||
言語 | jpn | |||||
資源タイプ | ||||||
資源タイプ | thesis | |||||
著者 |
福永, 航也
× 福永, 航也 |
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抄録 | ||||||
内容記述 | 薬物治療中は他の薬物や食物の相互作用について考慮する必要がある。ヒトでは、併用薬、食餌、病態、経口投与補助剤、サプリメントなど様々な因子により薬物の体内動態が変化することが報告され、これらの情報をもとに適正な薬物治療が行われている。しかし、獣医療では、薬物相互作用を引き起こす因子に関する知見が非常に少ない。薬物相互作用により血中濃度が予測より増加あるいは減少することで、薬物の効果を過小評価したり、副作用を過大評価したりしてしまうケースがある。例えば、ゾニサミドはイヌのてんかん発作に対し有効性が高いことが前臨床試験において判明していたが、実際の獣医療ではてんかん発作を抑制しないというのが獣医師の見解であった。この矛盾は、獣医療でのてんかん発作に対する第一選択薬であるフェノバルビタールが薬物代謝酵素を誘導し、ゾニサミドがその誘導した酵素で分解されるという薬物相互作用が原因であることを本論文の第1章で明らかにした。 薬物相互作用を引き起こす因子は獣医療特有のものも多く、ヒトの情報が転用できない場合が非常に多い。ヒトのてんかんに対し広く用いられているバルプロ酸やカルバマゼピンは、イヌでは代謝が著しく速いため、1日に4-5回投与しなければ有効血中濃度を維持できない。そのため、イヌのてんかんにはフェノバルビタールが第一選択として用いられている。このことが、前述のイヌ特有の薬物相互作用を引き起こした。また、イヌはヒトとは異なり、毎日同じドッグフードを摂取する。ドッグフードの成分が薬物と相互作用を引き起こす場合、その作用は継続するため、イヌ特有の薬物-食餌相互作用が惹起される可能性が非常に高い。 本論文では、獣医臨床上イヌで薬物相互作用を惹起する因子を薬物動態学的観点から明らかにすることで、獣医療における適正な薬物使用法確立の礎を構築した。 第1章 薬物-薬物相互作用:フェノバルビタールが抗てんかん薬ゾニサミドの薬物動態におよぼす影響とその持続期間 フェノバルビタールはイヌのてんかんに対し第一選択薬として用いられている。しかし、副作用などにより減量あるいは退薬すべき時には、ゾニサミドと併用あるいはゾニサミド単独投与に変更することが多い。本章では、これら2薬の相互作用の可能性について追究した。フェノバルビタール反復投与中にゾニサミドを経口投与すると、ゾニサミドの最高血中濃度および半減期はフェノバルビタール非投与に比べ減少した。この作用は、フェノバルビタール断薬後も10週間持続した。また、チトクロームP450(CYP)活性の指標となるアンチピリンの代謝は断薬後4週まで促進されていた。本結果より、フェノバルビタール反復投与時および断薬後10週間はゾニサミドの代謝が促進されることでその血中濃度が減少し、少なくとも断薬後4週間はCYP誘導が血中濃度減少のメカニズムとして関与していることが示唆された。 第2章 薬物-食餌相互作用:尿pHコントロール食が抗てんかん薬フェノバルビタールの薬物動態におよぼす影響 イヌでは、尿石症の治療・予防に尿を酸性化する食餌やアルカリ化する食餌を用いる。また、これらの尿石症は抗てんかん薬投与時により多く誘発される可能性が示唆されている。本章では、尿pHコントロール食と抗てんかん薬フェノバルビタールの相互作用の可能性について追究した。尿をアルカリ化または酸性化する食餌を与え、フェノバルビタールを単回経口投与すると、フェノバルビタールの血中半減期は、尿をアルカリ化する食餌で短くなり、酸性化する食餌で長くなった。また、フェノバルビタールの尿中排泄率は、尿のアルカリ化により上昇し、酸性化で低下した。本章では、尿pHコントロール食がフェノバルビタールの尿排泄率を変化させ、薬物動態に影響をおよぼすことが明らかとなった。 第3章 薬物-病態相互作用:僧帽弁閉鎖不全(MR)が新規心不全薬ニコランジルの薬物動態におよぼす影響 イヌの心不全治療(主にMR)にはACE阻害薬、ジゴキシン、ループ利尿薬、ピモベンダンが用いられているが、これらを併用しても十分な効果を得られない症例が少なくないため、新規心不全薬の開発が待たれている。MRは薬物の体内動態に影響を与えることが報告されているため、本章では、獣医領域で有用性が期待される冠血管拡張薬ニコランジルとMRとの相互作用の可能性について追究した。作出したMR犬にニコランジルを経口投与したところ、ニコランジルの血中濃度は投与量依存性に増加した。薬物動態学的解析の結果、ニコランジルの体内動態はMR犬とコントロール犬との間に差は認められなかった。MRがニコランジルの薬物動態には影響を与えないことが示唆された。 第4章 薬物-経口投与補助剤相互作用:経口投与補助剤(ペースト、カプセルおよびオブラート)がゾニサミドの薬物動態におよぼす影響 獣医療では、ペースト状の食べ物、カプセルやオブラートなどの経口投与補助剤は、粉薬や苦い薬物、多数の薬物を投与するときに汎用されているが、これらが薬物動態におよぼす作用は不明であった。本章では、苦みが強いにもかかわらず長期間にわたり反復投与する必要のある抗てんかん薬ゾニサミドを経口投与した時に、これらの経口投与補助剤がゾニサミドの薬物動態に及ぼす影響について追究した。単回経口投与後のゾニサミドの吸収は、ペーストで包むともっとも速く、カプセル、オブラートの順に遅かった。ペースト、カプセルおよびオブラートで包むことはゾニサミドの吸収を遅らせることが明らかとなった。 第5章 薬物-サプリメント相互作用:セントジョーンズワートが免疫抑制剤シクロスポリンの薬物動態におよぼす影響 シクロスポリンは、イヌのアトピー性皮膚炎に対し有効性が高い薬物である。セントジョーンズワートは、無駄吠えや分離不安などのストレス要因に対し有用性が認められているサプリメントであり、アトピー性皮膚炎で痒みに苦しむイヌにシクロスポリンとともに併用する可能性がある。本章では、セントジョーンズワートとシクロスポリンの相互作用の可能性について追究した。セントジョーンズワート反復投与開始から少なくとも1週後にはシクロスポリンの血中濃度は減少し、その作用は4週間持続した。小腸および肝臓のCYP mRNA量を測定すると、それぞれCYP2B11/3A12およびCYP2C21/3A12のmRNA量が増加していた。以上の結果より、セントジョーンズワートが小腸及び肝臓のCYP3A12量を増加することによってシクロスポリンの薬物動態に影響をおよぼすことが示唆された。 本論文では、イヌ特有に薬物相互作用を引き起こす因子について薬物動態学的手法を用いて追究した。その結果、併用薬、食餌、病態、経口投与補助剤、およびサプリメントがCYP量増加などを引き起こすことで薬物動態に影響を与える可能性があることが明らかになった。本論文ではイヌの薬物相互作用研究の重要性を示唆するとともに、獣医療における適正な薬物使用法確立の礎を構築した。 |
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学位名 | ||||||
学位名 | 博士(獣医学) | |||||
学位授与機関 | ||||||
学位授与機関名 | 麻布大学 | |||||
学位授与年月日 | ||||||
学位授与年月日 | 2011-03-15 | |||||
学位授与番号 | ||||||
学位授与番号 | 甲第126号 | |||||
著者版フラグ | ||||||
出版タイプ | AM | |||||
出版タイプResource | http://purl.org/coar/version/c_ab4af688f83e57aa |