WEKO3
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近年、わが国ではイノシシ肉の需要が増加してきており、また、地域活性化のための特産品の目玉としてもイノシシは各地で注目されている。イノシシを飼育するためのマニュアルも作られるようになってきたが、まだ飼育経験が浅く、科学的なデータもほとんど盛り込まれていないのが現状である。実際にイノシシを飼育している現場においてもイノシシ飼育のための研究を求める声は多い。そこで本研究は分娩および哺乳期におけるイノシシの行動ならびに子イノシシの行動発達の過程を明らかにし、イノシシ飼育の適切な管理方法を確立するための基礎として、イノシシの分娩前における行動の変化(第1章)、分娩時の行動(第2章)、分娩前後のヒトに対する行動の変化(第3章)、分娩直後1週間における母親と子どもの行動(第4章)、分娩後1ヶ月間における母親と子どもの成長に伴う行動の変化(第5章)、哺乳期における子の遊戯行動の発達(第6章)および、哺乳期におけるワラ給与の有無が行動に及ぼす影響(第7章)を調査した。\n 第1章.ニホンイノシシの分娩3週間前から前日までの行動を調査した。休息は、分娩日の1週間前に増加し、分娩前日に減少した。分娩3週間前から前日までの分娩房内における場所の利用は個体差が大きく、分娩日が近づくことによって一定の変化を示すこともなかった。本調査において、イノシシの遊歩が増加したこと、分娩室の利用や巣作り行動は個体によって差が大きく、分娩前に増加傾向を示さなかったことから、ブタの分娩前の歩行の増加は生得的なものであるが、巣作りおよび分娩巣の場所の選択については外部環境も影響を及ぼすという説が裏付けられた。また、イノシシは、分娩1週間前から3日前までの活動と休息の割合に変化が見られなかったが、その内容を比較すると、徐々にではあるが、各行動に変化がみられた。これまで、分娩前におけるブタやイノシシの調査では、分娩前日の遊歩の増加ばかりが議論されていたが、その前の段階から分娩を行なうための行動の変化が起きていることが示唆された。\n 第2章.観察が困難なために、これまでほとんど報告されていないイノシシの分娩時の行動を調査した。イノシシは、分娩開始から末子娩出までの分娩時間は個体によってかなりの開きがあった。分娩中および分娩の前後1時間における母イノシシの行動は、分娩後、子殺しを行なった個体とそうでない個体に違いがみられた。子殺しを行なわなかった母イノシシは、分娩前の1時間は巣作りと休息が多く、分娩中の行動は、休息・世話・巣作りが中心であった。分娩後1時間の行動は巣作りが消失し、80%以上が横臥休息で占められ、残りが世話行動であった。一方、子殺しを行なったイノシシは、分娩前の1時間は遊歩と探査の割合が比較的高く、分娩中は遊歩と探査が80%以上を占め、巣作り行動は観察されなかった。分娩後は遊歩と探査で50%近くを占めており、子を殺さなかった個体と明らかに異なっていた。本調査において、イノシシの分娩はブタに比べて非常に軽いものであること、イノシシは分娩後、最初の授乳を行なうまでに要した時間はブタよりも長いこと、イノシシは分娩直後に世話行動をよく行なうこと、イノシシは子イノシシに対してリッキングを行なっている可能性が示唆されたことなど、ブタとの違いがみられた。ブタの分娩時の行動は子ブタの哺乳に適応した行動と考えられてきたが、本調査によって、イノシシからブタへの家畜化によって増大した分娩時の負担がブタの分娩行動に変化をもたらしたことが示唆された。\n 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飼育下におけるニホンイノシシの分娩・哺育行動および子イノシシの行動発達に関する研究
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Item type | 学位論文 / Thesis or Dissertation(1) | |||||
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公開日 | 2013-02-28 | |||||
タイトル | ||||||
タイトル | 飼育下におけるニホンイノシシの分娩・哺育行動および子イノシシの行動発達に関する研究 | |||||
言語 | ||||||
言語 | jpn | |||||
資源タイプ | ||||||
資源タイプ | thesis | |||||
著者 |
江口, 祐輔
× 江口, 祐輔 |
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抄録 | ||||||
内容記述 | 家畜種のブタにおける行動学的研究は数多く行なわれてきた。しかし、ブタの祖先種であるイノシシの行動学的研究はあまり進んでいるとは言えない。国内外を問わずイノシシの研究は生態学的なものが多く、行動の調査はほとんど行なわれていないのが現状である。 近年、わが国ではイノシシ肉の需要が増加してきており、また、地域活性化のための特産品の目玉としてもイノシシは各地で注目されている。イノシシを飼育するためのマニュアルも作られるようになってきたが、まだ飼育経験が浅く、科学的なデータもほとんど盛り込まれていないのが現状である。実際にイノシシを飼育している現場においてもイノシシ飼育のための研究を求める声は多い。そこで本研究は分娩および哺乳期におけるイノシシの行動ならびに子イノシシの行動発達の過程を明らかにし、イノシシ飼育の適切な管理方法を確立するための基礎として、イノシシの分娩前における行動の変化(第1章)、分娩時の行動(第2章)、分娩前後のヒトに対する行動の変化(第3章)、分娩直後1週間における母親と子どもの行動(第4章)、分娩後1ヶ月間における母親と子どもの成長に伴う行動の変化(第5章)、哺乳期における子の遊戯行動の発達(第6章)および、哺乳期におけるワラ給与の有無が行動に及ぼす影響(第7章)を調査した。 第1章.ニホンイノシシの分娩3週間前から前日までの行動を調査した。休息は、分娩日の1週間前に増加し、分娩前日に減少した。分娩3週間前から前日までの分娩房内における場所の利用は個体差が大きく、分娩日が近づくことによって一定の変化を示すこともなかった。本調査において、イノシシの遊歩が増加したこと、分娩室の利用や巣作り行動は個体によって差が大きく、分娩前に増加傾向を示さなかったことから、ブタの分娩前の歩行の増加は生得的なものであるが、巣作りおよび分娩巣の場所の選択については外部環境も影響を及ぼすという説が裏付けられた。また、イノシシは、分娩1週間前から3日前までの活動と休息の割合に変化が見られなかったが、その内容を比較すると、徐々にではあるが、各行動に変化がみられた。これまで、分娩前におけるブタやイノシシの調査では、分娩前日の遊歩の増加ばかりが議論されていたが、その前の段階から分娩を行なうための行動の変化が起きていることが示唆された。 第2章.観察が困難なために、これまでほとんど報告されていないイノシシの分娩時の行動を調査した。イノシシは、分娩開始から末子娩出までの分娩時間は個体によってかなりの開きがあった。分娩中および分娩の前後1時間における母イノシシの行動は、分娩後、子殺しを行なった個体とそうでない個体に違いがみられた。子殺しを行なわなかった母イノシシは、分娩前の1時間は巣作りと休息が多く、分娩中の行動は、休息・世話・巣作りが中心であった。分娩後1時間の行動は巣作りが消失し、80%以上が横臥休息で占められ、残りが世話行動であった。一方、子殺しを行なったイノシシは、分娩前の1時間は遊歩と探査の割合が比較的高く、分娩中は遊歩と探査が80%以上を占め、巣作り行動は観察されなかった。分娩後は遊歩と探査で50%近くを占めており、子を殺さなかった個体と明らかに異なっていた。本調査において、イノシシの分娩はブタに比べて非常に軽いものであること、イノシシは分娩後、最初の授乳を行なうまでに要した時間はブタよりも長いこと、イノシシは分娩直後に世話行動をよく行なうこと、イノシシは子イノシシに対してリッキングを行なっている可能性が示唆されたことなど、ブタとの違いがみられた。ブタの分娩時の行動は子ブタの哺乳に適応した行動と考えられてきたが、本調査によって、イノシシからブタへの家畜化によって増大した分娩時の負担がブタの分娩行動に変化をもたらしたことが示唆された。 第3章.分娩の前後において、イノシシがヒトに対してどのように反応するかを調査した。著者本人が分娩室の扉の前に姿を現し、直立姿勢で静止して、そのときのイノシシの行動と発声の反応を記録した。イノシシの反応を攻撃、親和、逃避の3つのカテゴリーに分類し、点数化した。テストの結果、分娩前、イノシシは実験者に対して親和的な行動および軽い逃避的な行動を見せた。分娩が近くなるにつれて供試イノシシの逃避性が強くなる傾向が見られた。分娩後は反応が激変し、すべてのイノシシに攻撃性が現れるようになり、実験者に向かって突進、あるいはそのまま扉に激突した。激突の際に、前頭部から出血することもあった。分娩後、約2週間後からはイノシシの攻撃性が減少し、実験者に対して親和的な行動を示すようになった。分娩直後には、ある程度慣れた者にでさえも、イノシシはブタでは見られないほどの強い攻撃性を示した。 第4章.イノシシの分娩直後1週間における母と子の行動を調査した。分娩後における母イノシシの行動は、分娩後1日目は休息が55.0%を占めていたが、7日目には39.4%にまで減少した。授乳の割合は分娩後1日目が3日目以降の割合よりも高く、逆に探査と遊歩の割合は1日目が低かった。世話行動の割合は分娩後7日間を通して、ほとんど変化しなかった。摂食は徐々にではあるが、増加した。母イノシシは分娩後、摂食中に広場にある餌場と子イノシシが休息している保温箱を頻繁に往復していたが、分娩後7日目には保温箱を気にすることもなく、摂食に集中する個体も見られるようになった。1日齢から7日齢の子イノシシの行動は、加齢に伴って休息の割合が徐々に減少したが、7日齢においても休息の割合は高く、64.1%であった。また、母親の頭部に対する接触が加齢に伴って減少する傾向が見られた。分娩後1週間の母イノシシにおいては、全体的な行動の変化はブタとよく類似していた。しかし、母イノシシはブタに比べて活動的ではあり、子イノシシにおいてもブタでは見られない背乗り行動が観察された。また、母イノシシ、子イノシシともにブタよりも身軽であり、母親の横臥時に子イノシシが圧死などの危険にさらされることはなかった。 第5章.分娩後1ヶ月間の母と子イノシシの成長に伴う行動の変化を調査した。子イノシシが成長するに伴って母イノシシの行動がどのように変化するかを調べた結果、摂食、遊歩および探査において、有意な増加が見られた。授乳においては各週時間に大きな変化は見られなかった。休息および世話行動は減少した。各週齢における子イノシシの行動は、加齢に伴い活動が増加し、休息が急速に減少した。また、休息場所にも変化が現れ、1週齢では休息の77.8%が保温箱の中で行なわれていたが、3週齢においては12.6%にまで減少した。摂食に関しては、わずかではあるが、2週齢で母親の餌を口にするようになってきた。飲水の割合に経日的な変化は見られなかった。子イノシシにおける吸乳は各週齢間においてほとんど変化はなかった。子イノシシの行動は1週齢から3週齢にかけて大きく変化し、活動的になった。2週齢時に摂食行動が観察されるなど、行動のレパートリーも増加した。 第6章.1週齢から3週齢における子イノシシの遊戯行動を調査した。複数個体で追いかけ合う行動や併走する行動は2週齢が最も多く、4頭が一緒に走ることが有意に多かった。模擬乗駕は2週齢から観察されたが、持続時間が短く、模擬闘争の中に組み込まれて行なわれることが多かった。模擬闘争は2週齢時に増加する傾向が認められ、週齢が進むにつれて多様化し、複雑になった。模擬闘争において子イノシシは1週齢から3週齢にかけて大きく行動が発達すると考えられる。子イノシシでは授乳・横臥時に母親の背に乗って遊ぶ行動や、母親の鼻先や四肢を飛び越える個体遊戯行動が多く見られた。母親の体が子イノシシの運動能力の発達のための遊戯場となっていると考えられる。 第7章.分娩房で飼育されている哺乳期のイノシシの親子にワラを給与し、ワラ給与の有無がどのように行動に影響を及ぼすのかを調査した。ワラ給与1日目において、母イノシシの授乳・休息および摂食は、ワラを与えない対照区よりもかなり低い値となり、探査においてはワラ給与1日目の値が対照区に比べ、著しく高くなった。しかし、ワラ給与2日目においてはこれらの傾向が続くことはなく、摂食のように1日目と類似した値をとって安定するか、または授乳・休息および探査のように対照区の値に近づく2つのパターンが見られた。世話や遊歩はワラ給与によって減少する傾向にあった。巣作りについては、個体差が認められた。子イノシシでは、吸乳がワラ給与1日目において対照区よりも急激に減少し、遊歩および探査においてはワラ給与1日目の値が対照区に比べ、著しく高かった。しかし、母イノシシと同様にワラ給与2日目においてもこれらの傾向が続くことはなく、遊歩のように1日目の値に近づいて安定するか、または哺乳および探査のように対照区の値に近づく2つのパターンが見られた。休息は対照区において高い値を示す傾向にあった。また、活動の割合や探査行動において、イノシシとブタの行動に違いがみられた。これは、これまで行なわれてきたブタにおける調査の結果をそのままイノシシの管理へ応用することはできないことを示唆している。 本研究において、ニホンイノシシの分娩前から分娩1カ月後までの一連の行動ならびに子イノシシの行動発達の過程を明らかにしてきた。イノシシと家畜種であるブタの行動に異なる点が多く認められ、今後は、ブタの飼養管理を参考にしながらも、イノシシ独自の飼育管理技術を模索していく必要性が示された。イノシシの飼育に関する研究が希少である現在、本研究の成果は、今後のイノシシ飼育の基礎となるだけでなく、自然環境におけるイノシシの調査研究の糸口にもなるものと確信する。 |
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学位名 | ||||||
学位名 | 博士(学術) | |||||
学位授与機関 | ||||||
学位授与機関名 | 麻布大学 | |||||
学位授与年月日 | ||||||
学位授与年月日 | 1998-03-20 | |||||
学位授与番号 | ||||||
学位授与番号 | 甲第1号 | |||||
著者版フラグ | ||||||
出版タイプ | AM | |||||
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