WEKO3
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第2章では、捕獲された成獣雌ハクビシン6頭を飼育下におき、個体レベルでの発情周期と発情持続期間を調査した。実験は2009年7月から2011年5月の約2年間継続して実施した。発情周期は糞中の性ステロイドホルモン含量の動態により判定した。糞は、隔日採取し、-20℃で凍結保存した。その後、熱乾燥した糞からメタノール抽出法によりステロイドホルモンを抽出し、酵素免疫測定法により乾燥糞1g当たりのエストラジオール17β(E_2)含量を測定した。また、発情評価の補足手段として、外陰部の観察と膣垢検査も並行して隔日実施した。さらに、行動観察についても、上記期間中、隔日実施し、1日の活動割合と糞採取前夜の21:00~3:00における各行動(身繕い、陰部舐め、マーキング、排尿)の頻度(/h)を記録した。実験の結果、6頭中5頭において糞中エストラジオール17β含量に周期的変動が認められ、発情周期は18.9±1.5(n=5)日間隔で推移することが示された。発情周期を示した期間は個体により様々であったが、全体として、10月~1月には発情を停止している傾向が認められた。この発情停止期間は、第1章でハクビシンが繁殖を休止していると推定した期間とほぼ一致しており、第1章で得られたハクビシンの繁殖可能期間の妥当性を示すとともに、この繁殖可能期間中に周期的な発情を持続することが明らかとなった。\n 台湾では、ハクビシンは周年繁殖動物とされている。日本に生息するハクビシンは台湾由来とされているが、本研究の結果から、日本の気候に順応し、環境の厳しい冬期には繁殖を停止しているものと考えられた。しかしながら、1個体で周年発情が認められたことから、潜在的には周年繁殖が可能な能力を有していることが示唆された。糞中エストラジオール17β含量の周期的変動を認めた期間において、外陰部の持続的な腫脹と膣垢検査での角化上皮細胞の増加が認められた。これらは、いずれもエストラジオール17βに依存した変化であるため、外陰部観察と膣垢検査がハクビシンの発情状況を調査する際に、簡易で有効な方法として利用可能なことが示された。また、発情周期を認めた期間において、糞中エストラジオール17β含量が最高値を示した日(高値日)とその後最低値を示した日(低値日)の各行動を比較すると、活動割合が高値日に増加し(P<0.05)、マーキングは低値日に増加した(P<0.05)。このことから、ハクビシンは雄を誘引する手段としてマーキングを行い、排卵間近に活動を活発にすることで交尾成功に導くという繁殖戦略を有している可能性が示唆された。\n 本研究の結果により、これまで不明確であった我が国におけるハクビシンの繁殖季節、受胎数、発情周期などの繁殖特性に関する多くの新たな知見が得られた。これらの結果をふまえると、日本に生息するハクビシンの繁殖能力は、日本の気候に順応しつつも、多くの繁殖機会に恵まれている南方系動物としての名残を留めていることが示唆された。この繁殖特性が、日本におけるハクビシンの急激な生息域拡大の一因となり、それに伴う様々な問題を助長していると考えられた。\n このような繁殖能力を有するハクビシンの被害管理を考えた場合、個体数管理のみによる被害防除の効果を期待することは、困難であると考えられる。よって、今後のハクビシン被害管理の方策には、繁殖能力の高い動物種に推奨されている、被害地周辺の環境整備や柵の設置など物理的防除を取り入れた総合的被害対策が必要であると考えられる。\n 以上、本研究の結果は、ハクビシンの繁殖学的基礎知見に留まらず、我が国におけるハクビシンの被害管理を計画する際の実用的な情報を提供するものとして貢献することが期待される。", "subitem_description_type": 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ハクビシンの繁殖特性に関する行動学的・生理学的研究
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名前 / ファイル | ライセンス | アクション |
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Item type | 学位論文 / Thesis or Dissertation(1) | |||||
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公開日 | 2013-02-28 | |||||
タイトル | ||||||
タイトル | ハクビシンの繁殖特性に関する行動学的・生理学的研究 | |||||
言語 | ||||||
言語 | jpn | |||||
資源タイプ | ||||||
資源タイプ | thesis | |||||
著者 |
豊田, 英人
× 豊田, 英人 |
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抄録 | ||||||
内容記述 | ハクビシン(Paguma larvata)は食肉目(ネコ目)ジャコウネコ科に属し、東南アジアや中国南東部、台湾などに生息している。我が国に生息するハクビシンは、海外から持ち込まれた外来種であるという説が有力であるが、2004年に環境省から公布された「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」(外来生物法)では、生態系や人の生活に影響を及ぼす可能性のある特定外来生物には指定されていない。日本における本種の生息域は、1940年代には局地的であったが、現在では全国に広がりをみせており、今なお拡大し続けている。生息域の拡大に伴い、近年では、ハクビシンによって引き起こされる農作物被害や生活環境被害が日本各地で問題視されている。ハクビシン被害への対策として、被害地域では比較的捕獲が容易などの理由から、捕獲による個体数管理が第一手段として実施されており、2009年には全国で6,835頭が有害鳥獣として捕獲されている。捕獲による個体数管理は、対象動物の繁殖特性に応じて実施することが推奨されており、繁殖能力の高い動物種では、実施が困難とみなされる場合もある。しかしながら、我が国におけるハクビシンの繁殖特性に関する知見は、これまでにほとんど報告がなく、捕獲による個体数管理の効果が不明なまま実施されている現状がある。そこで本研究では、ハクビシン被害に対しての適切な管理を検討するための基礎知見を得るため、雌ハクビシンを対象に繁殖特性に関する調査を実施した。 第1章では、埼玉県と神奈川県で有害鳥獣として捕獲された成獣雌ハクビシン150頭を対象に、繁殖季節と受胎数について調査を行った。繁殖季節は、妊娠個体から得られた胎子の胎齢から推定した。その結果、ハクビシンは1月~9月にかけて繁殖可能であり、10月~12月にかけては繁殖を休止していることが示唆された。また、胎子数と胎盤痕数から求めた受胎数は1頭~4頭で、平均して2.8±0.9頭であり、過去に報告された産子数と同様の結果が得られた。さらに、本調査から、ハクビシンの受胎数を求める指標として胎盤痕の評価が有用であることが示された。 第2章では、捕獲された成獣雌ハクビシン6頭を飼育下におき、個体レベルでの発情周期と発情持続期間を調査した。実験は2009年7月から2011年5月の約2年間継続して実施した。発情周期は糞中の性ステロイドホルモン含量の動態により判定した。糞は、隔日採取し、-20℃で凍結保存した。その後、熱乾燥した糞からメタノール抽出法によりステロイドホルモンを抽出し、酵素免疫測定法により乾燥糞1g当たりのエストラジオール17β(E_2)含量を測定した。また、発情評価の補足手段として、外陰部の観察と膣垢検査も並行して隔日実施した。さらに、行動観察についても、上記期間中、隔日実施し、1日の活動割合と糞採取前夜の21:00~3:00における各行動(身繕い、陰部舐め、マーキング、排尿)の頻度(/h)を記録した。実験の結果、6頭中5頭において糞中エストラジオール17β含量に周期的変動が認められ、発情周期は18.9±1.5(n=5)日間隔で推移することが示された。発情周期を示した期間は個体により様々であったが、全体として、10月~1月には発情を停止している傾向が認められた。この発情停止期間は、第1章でハクビシンが繁殖を休止していると推定した期間とほぼ一致しており、第1章で得られたハクビシンの繁殖可能期間の妥当性を示すとともに、この繁殖可能期間中に周期的な発情を持続することが明らかとなった。 台湾では、ハクビシンは周年繁殖動物とされている。日本に生息するハクビシンは台湾由来とされているが、本研究の結果から、日本の気候に順応し、環境の厳しい冬期には繁殖を停止しているものと考えられた。しかしながら、1個体で周年発情が認められたことから、潜在的には周年繁殖が可能な能力を有していることが示唆された。糞中エストラジオール17β含量の周期的変動を認めた期間において、外陰部の持続的な腫脹と膣垢検査での角化上皮細胞の増加が認められた。これらは、いずれもエストラジオール17βに依存した変化であるため、外陰部観察と膣垢検査がハクビシンの発情状況を調査する際に、簡易で有効な方法として利用可能なことが示された。また、発情周期を認めた期間において、糞中エストラジオール17β含量が最高値を示した日(高値日)とその後最低値を示した日(低値日)の各行動を比較すると、活動割合が高値日に増加し(P<0.05)、マーキングは低値日に増加した(P<0.05)。このことから、ハクビシンは雄を誘引する手段としてマーキングを行い、排卵間近に活動を活発にすることで交尾成功に導くという繁殖戦略を有している可能性が示唆された。 本研究の結果により、これまで不明確であった我が国におけるハクビシンの繁殖季節、受胎数、発情周期などの繁殖特性に関する多くの新たな知見が得られた。これらの結果をふまえると、日本に生息するハクビシンの繁殖能力は、日本の気候に順応しつつも、多くの繁殖機会に恵まれている南方系動物としての名残を留めていることが示唆された。この繁殖特性が、日本におけるハクビシンの急激な生息域拡大の一因となり、それに伴う様々な問題を助長していると考えられた。 このような繁殖能力を有するハクビシンの被害管理を考えた場合、個体数管理のみによる被害防除の効果を期待することは、困難であると考えられる。よって、今後のハクビシン被害管理の方策には、繁殖能力の高い動物種に推奨されている、被害地周辺の環境整備や柵の設置など物理的防除を取り入れた総合的被害対策が必要であると考えられる。 以上、本研究の結果は、ハクビシンの繁殖学的基礎知見に留まらず、我が国におけるハクビシンの被害管理を計画する際の実用的な情報を提供するものとして貢献することが期待される。 |
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学位名 | ||||||
学位名 | 博士(学術) | |||||
学位授与機関 | ||||||
学位授与機関名 | 麻布大学 | |||||
学位授与年月日 | ||||||
学位授与年月日 | 2012-03-15 | |||||
学位授与番号 | ||||||
学位授与番号 | 甲第55号 | |||||
著者版フラグ | ||||||
出版タイプ | AM | |||||
出版タイプResource | http://purl.org/coar/version/c_ab4af688f83e57aa |