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オランウータンやチンパンジーなどの大型類入猿は熱帯雨林を主な生活の場とし、果実などの植物を採るために木に登る。彼らは霊長類以外の哺乳類と比較して一般的に木登りが得意な動物として扱われるが、その大きな体のため枝の上でバランスを保つことが難しく、木の幹の側面や枝の下でも活動可能な懸垂型の行動を行うことにより、樹上環境に適応している。これら生活様式は、大型類人猿の前肢の筋骨格系に共通して認められる特徴に現れている。\n しかし、大型類人猿間においてもロコモーションの違いがあることが知られている。オランウータンは足を手のように巧みに使う四手移動型の木登りを行い、基本的に熱帯雨林の樹冠を生活の場とし、地上に降りてくることは少ない。また、オランウータンの行動はゆっくりとしていて、かつ慎重な動作が特徴的である。一方、チンパンジーは採食場や寝床となる樹木の間を移動するとき、第二指から第五指の中節骨の背側部のみを地面に着地させるナックル歩行という特有のロコモーションをとり、総移動時間の約90%が地上性ロコモーションである。\n このようなオランウータンとチンパンジーのロコモーションの明確な差異は前肢の骨形態に反映されており、それぞれの種としての特徴となる。ロコモーションの特性は骨格系と筋系の両方の形態と機能により決定されることから、オランウータンとチンパンジーのロコモーションの違いは、両種の筋形態にも影響していると考えられる。そこで本研究は、前肢筋の発達の程度の指標となる筋質量を計測し、さらに、最大発揮筋力に比例するといわれている筋の生理学的断面積(以下PCSAと略す)を算出して、それぞれを比較することにより、両種間の筋形態の違いとロコモーションとの関連性を明らかにすることを目的とした。\n\n【材料と方法】\n 3個体のオランウータンと4個体のチンパンジーから得た計8本の前肢の解剖を行った。2個体のオランウータンは死後、アルコール固定された標本である。チンパンジーの全4個体の標本は解剖まで凍結保存されていた。\n 剥皮後、筋を露出させ、骨から分離した。筋腹の筋質量を電子天秤で計測した。筋腹は10%ホルマリン液にて固定を行った。固定された筋は水に浸漬させた後、筋腹内の異なった部位に存在する3から6本の筋束の長さをノギスで計測し、平均値を算出し筋束長とした。アルコール固定されていたオランウータンの2標本における筋質量は、固定された筋を水に浸漬させた後の筋湿重量によって表した。筋のPCSAは筋の体積を筋束長で割ることにより算出した。筋の体積は筋質量を筋密度で割ることにより算出した。\n 本研究では、両種間の体サイズを標準化するため、各筋の筋質量とPCSAをそれぞれの前肢筋の総和で割ることにより、各値の比率(筋質量比、PCSA比)を算出した。両種の筋質量比とPCSA比の比較は、個々の筋で行うとともに、筋を機能群に分類して行った。一般的に、前肢筋には、前肢帯筋も含まれるが、標本を入手した段階で前肢帯筋に損傷が認められたので、本研究には含めていない。\n 両種間の筋質量比とPCSA比の有意差の検証は統計ソフトSPSS 11.0Jを用いてU検定(p\u003c0.05)により行った。\n\n【結果】\n1. 肩部の筋について\n 肩部の筋群においては、チンパンジーの肩関節の後引筋群の筋質量比が、オランウータンのそれよりも大きい値を示した。さらに、個々の筋においては、オランウータンの三角筋鎖骨部と肩甲下筋のPCSA比の値が、チンパンジーのそれらよりも大きかった。また、チンパンジーの大円筋の筋質量比ならびに棘下筋の筋質量比とPCSA比が、オランウータンのそれらよりも大きい値を示した。\n\n2. 上腕部の筋について\n 上腕部の筋群においては、オランウータンの肘関節のみに作用する屈筋群の筋質量比とPCSA比が、チンパンジーのそれらよりも大きい値を示した。チンパンジーでは、肩関節と肘関節の二つの関節に跨る伸筋群と屈筋群の両方の筋質量比が、オランウータンのそれらよりも大きい値を示した。さらに、個々の筋においては、オランウータンの肘関節のみに作用する屈筋である上腕筋と腕橈骨筋の筋質量比とPCSA比の値が、チンパンジーのそれらよりも大きかった。また、チンパンジーでは肩関節と肘関節の二つの関節に跨る上腕二頭筋短頭と上腕三頭筋長頭の筋質量比が、オランウータンのそれらよりも大きい値を示した。\n\n3. 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オランウータンでは肩甲骨の内側に位置する肩甲下筋のPCSA比と、外側に位置する棘上筋と棘下筋のPCSA比がほぼ等しかったことに対し、チンパンジーでは棘上筋と棘下筋のPCSA比の割合が、肩甲下筋のPCSA比よりも大きくなっていた。筋電図の研究からチンパンジーにおいて、垂直木登り時に全ての回旋板筋の活動が確認されているが、ナックル歩行時では棘上筋と棘下筋の筋活動はあるものの肩甲下筋の活動は重要なレベルに達しない。すなわち、回旋板筋群のPCSA比の違いもまた、オランウータンにおいては樹上に、チンパンジーにおいては地上に適応するためのそれぞれの機能的な特殊化を反映していると考えられる。\n\n【まとめ】\n 本研究はオランウータンとチンパンジーにおいて、筋の特性を反映するパラメータの完全なデータセットを得た最初の報告であり、両大型類人猿における前肢筋の特性を比較することが可能となった。ここで明らかとなったオランウータンとチンパンジーの前肢における筋系の違いは、両大型類人猿の異なったロコモーションへの適応と考えられ、大型類人猿における前肢の筋系の機能とロコモーションとの関係を理解するうえで、重要な見解を与えるものと考えられる。\n", "subitem_description_type": "Abstract"}]}, "item_10006_dissertation_number_12": {"attribute_name": "学位授与番号", "attribute_value_mlt": [{"subitem_dissertationnumber": "甲第 119号"}]}, "item_10006_version_type_18": {"attribute_name": "著者版フラグ", "attribute_value_mlt": [{"subitem_version_resource": "http://purl.org/coar/version/c_ab4af688f83e57aa", "subitem_version_type": "AM"}]}, "item_creator": {"attribute_name": "著者", "attribute_type": "creator", "attribute_value_mlt": 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オランウータンとチンパンジーの前肢における骨格筋の機能および比較解剖学的研究
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Item type | 学位論文 / Thesis or Dissertation(1) | |||||
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公開日 | 2013-01-16 | |||||
タイトル | ||||||
タイトル | オランウータンとチンパンジーの前肢における骨格筋の機能および比較解剖学的研究 | |||||
言語 | ||||||
言語 | jpn | |||||
資源タイプ | ||||||
資源タイプ | thesis | |||||
著者 |
大石, 元治
× 大石, 元治 |
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抄録 | ||||||
内容記述 | 【序論】 オランウータンやチンパンジーなどの大型類入猿は熱帯雨林を主な生活の場とし、果実などの植物を採るために木に登る。彼らは霊長類以外の哺乳類と比較して一般的に木登りが得意な動物として扱われるが、その大きな体のため枝の上でバランスを保つことが難しく、木の幹の側面や枝の下でも活動可能な懸垂型の行動を行うことにより、樹上環境に適応している。これら生活様式は、大型類人猿の前肢の筋骨格系に共通して認められる特徴に現れている。 しかし、大型類人猿間においてもロコモーションの違いがあることが知られている。オランウータンは足を手のように巧みに使う四手移動型の木登りを行い、基本的に熱帯雨林の樹冠を生活の場とし、地上に降りてくることは少ない。また、オランウータンの行動はゆっくりとしていて、かつ慎重な動作が特徴的である。一方、チンパンジーは採食場や寝床となる樹木の間を移動するとき、第二指から第五指の中節骨の背側部のみを地面に着地させるナックル歩行という特有のロコモーションをとり、総移動時間の約90%が地上性ロコモーションである。 このようなオランウータンとチンパンジーのロコモーションの明確な差異は前肢の骨形態に反映されており、それぞれの種としての特徴となる。ロコモーションの特性は骨格系と筋系の両方の形態と機能により決定されることから、オランウータンとチンパンジーのロコモーションの違いは、両種の筋形態にも影響していると考えられる。そこで本研究は、前肢筋の発達の程度の指標となる筋質量を計測し、さらに、最大発揮筋力に比例するといわれている筋の生理学的断面積(以下PCSAと略す)を算出して、それぞれを比較することにより、両種間の筋形態の違いとロコモーションとの関連性を明らかにすることを目的とした。 【材料と方法】 3個体のオランウータンと4個体のチンパンジーから得た計8本の前肢の解剖を行った。2個体のオランウータンは死後、アルコール固定された標本である。チンパンジーの全4個体の標本は解剖まで凍結保存されていた。 剥皮後、筋を露出させ、骨から分離した。筋腹の筋質量を電子天秤で計測した。筋腹は10%ホルマリン液にて固定を行った。固定された筋は水に浸漬させた後、筋腹内の異なった部位に存在する3から6本の筋束の長さをノギスで計測し、平均値を算出し筋束長とした。アルコール固定されていたオランウータンの2標本における筋質量は、固定された筋を水に浸漬させた後の筋湿重量によって表した。筋のPCSAは筋の体積を筋束長で割ることにより算出した。筋の体積は筋質量を筋密度で割ることにより算出した。 本研究では、両種間の体サイズを標準化するため、各筋の筋質量とPCSAをそれぞれの前肢筋の総和で割ることにより、各値の比率(筋質量比、PCSA比)を算出した。両種の筋質量比とPCSA比の比較は、個々の筋で行うとともに、筋を機能群に分類して行った。一般的に、前肢筋には、前肢帯筋も含まれるが、標本を入手した段階で前肢帯筋に損傷が認められたので、本研究には含めていない。 両種間の筋質量比とPCSA比の有意差の検証は統計ソフトSPSS 11.0Jを用いてU検定(p<0.05)により行った。 【結果】 1. 肩部の筋について 肩部の筋群においては、チンパンジーの肩関節の後引筋群の筋質量比が、オランウータンのそれよりも大きい値を示した。さらに、個々の筋においては、オランウータンの三角筋鎖骨部と肩甲下筋のPCSA比の値が、チンパンジーのそれらよりも大きかった。また、チンパンジーの大円筋の筋質量比ならびに棘下筋の筋質量比とPCSA比が、オランウータンのそれらよりも大きい値を示した。 2. 上腕部の筋について 上腕部の筋群においては、オランウータンの肘関節のみに作用する屈筋群の筋質量比とPCSA比が、チンパンジーのそれらよりも大きい値を示した。チンパンジーでは、肩関節と肘関節の二つの関節に跨る伸筋群と屈筋群の両方の筋質量比が、オランウータンのそれらよりも大きい値を示した。さらに、個々の筋においては、オランウータンの肘関節のみに作用する屈筋である上腕筋と腕橈骨筋の筋質量比とPCSA比の値が、チンパンジーのそれらよりも大きかった。また、チンパンジーでは肩関節と肘関節の二つの関節に跨る上腕二頭筋短頭と上腕三頭筋長頭の筋質量比が、オランウータンのそれらよりも大きい値を示した。 3. 前腕部の筋について 前腕部の筋群においては、オランウータンの指伸筋群のPCSA比がチンパンジーのそれよりも大きい値を示した。さらに、個々の筋においては、オランウータンの尺側手根伸筋、長掌筋および長母指伸筋の筋質量比の値が、チンパンジーのそれらよりも大きく、逆にチンパンジーでは浅指屈筋の筋質量比の値が、オランウータンのそれよりも大きかった。また、オランウータンの長掌筋と総指伸筋のPCSA比の値が、チンパンジーのそれらよりも大きく、逆にチンパンジーでは尺側手根屈筋と方形回内筋のPCSA比の値が、オランウータンのそれよりも大きかった。 4. 手部の筋について 手部の筋群においては、オランウータンの骨間筋群の筋質量比ならびに虫様筋群のPCSA比が、チンパンジーのそれらよりも大きい値を示した。さらに、個々の筋においては、オランウータンの短小指屈筋、第一・第二・第四背側骨間筋および第二虫様筋の筋質量比の値が、チンパンジーのそれらよりも大きかった。また、オランウータンの短母指屈筋、短小指屈筋および第二・第四虫様筋のPCSA比が、チンパンジーのそれらよりも大きい値を示した。 【考察】 1. 肘関節の屈筋群の一関節筋と二関節筋の違いについて オランウータンの肘関節を屈曲させる筋、特に上腕筋と腕橈骨筋は、チンパンジーよりも大きなPCSA比をもつことから、より強力な肘関節の屈筋力を生み出すことが可能と考えられる。肘関節の屈筋群は樹上において体重を支え、かつ推進力を生み出すのに重要であることから、オランウータンにみられる肘関節の屈筋群の発達は、垂直木登りや体幹を垂直にした懸垂運動に起因すると考えられた。 しかし、上腕筋や腕橈骨筋と協調して肘関節を屈曲させる上腕二頭筋の筋質量比は、オランウータンよりもチンパンジーの方が大きい値を示した。上腕二頭筋は、肩関節と肘関節の二つの関節に跨る二関節筋であるという点で、肘関節のみに作用する上腕筋や腕橈骨筋とは筋が持つ特性は異なる。例えば、類人猿が木の幹などの垂直に立つ支持基体を登るとき、肩関節の後引と肘関節の屈曲が同時に起こることにより体を持ち上げている。このような場合、上腕二頭筋は肩関節の後引により、筋全体が近位に偏位するため、肘関節を屈曲させるために必要な筋の収縮距離は肩関節が固定されているときに比べ短くなり、筋の収縮速度が減少する。すなわち、肩関節の後引が起こるとき、上腕二頭筋の肘関節を屈曲させるのに必要な収縮速度は、一関節筋である上腕筋と腕橈骨筋の収縮速度に比べて遅いことが予想される。力-速度関係により筋が発揮する力は、収縮速度が遅くなると大きくなる。すなわち、二関節筋の特性として、一方の関節運動によってもう片方の関節に作用する筋力が増加する場合があり、特に速い収縮速度が求められる素早い運動の際には、重要な役割を果たす。地上、樹上の両方において素早く動くチンパンジーにとって、上腕二頭筋を発達させることは有利であったが、ゆっくりとした動作で慎重に移動するオランウータンにとっては、上腕二頭筋を発達させることはそれほど効率のよいことではなかったと考えられる。つまり、オランウータンとチンパンジーのロコモーションの速度の違いが、両大型類人猿における肘関節の屈筋群の一関節筋と二関節筋の筋質量比の違いと機能的に関係があると考えられる。 2. 肘関節の伸筋群の違いについて チンパンジーの肘関節の伸筋群は、オランウータンのそれよりもよく発達している傾向が認められ、特に肩関節と肘関節の二つの関節に跨る上腕三頭筋長頭の筋質量比が、オランウータンのそれより大きい値を示した。チンパンジーにおけるナックル歩行時の筋電図の研究から、上腕三頭筋は肘関節を伸展位に維持しながら上腕骨を後引する立脚期に活動していることが知られている。発達した上腕三頭筋は、地上を頻繁に移動するチンパンジーにおける地上性ロコモーションへの適応と考えられる。 3. 回旋板筋群の違いについて オランウータンでは肩甲骨の内側に位置する肩甲下筋のPCSA比と、外側に位置する棘上筋と棘下筋のPCSA比がほぼ等しかったことに対し、チンパンジーでは棘上筋と棘下筋のPCSA比の割合が、肩甲下筋のPCSA比よりも大きくなっていた。筋電図の研究からチンパンジーにおいて、垂直木登り時に全ての回旋板筋の活動が確認されているが、ナックル歩行時では棘上筋と棘下筋の筋活動はあるものの肩甲下筋の活動は重要なレベルに達しない。すなわち、回旋板筋群のPCSA比の違いもまた、オランウータンにおいては樹上に、チンパンジーにおいては地上に適応するためのそれぞれの機能的な特殊化を反映していると考えられる。 【まとめ】 本研究はオランウータンとチンパンジーにおいて、筋の特性を反映するパラメータの完全なデータセットを得た最初の報告であり、両大型類人猿における前肢筋の特性を比較することが可能となった。ここで明らかとなったオランウータンとチンパンジーの前肢における筋系の違いは、両大型類人猿の異なったロコモーションへの適応と考えられ、大型類人猿における前肢の筋系の機能とロコモーションとの関係を理解するうえで、重要な見解を与えるものと考えられる。 |
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学位名 | ||||||
学位名 | 博士(獣医学) | |||||
学位授与機関 | ||||||
学位授与機関名 | 麻布大学 | |||||
学位授与年月日 | ||||||
学位授与年月日 | 2009-03-15 | |||||
学位授与番号 | ||||||
学位授与番号 | 甲第 119号 | |||||
著者版フラグ | ||||||
出版タイプ | AM | |||||
出版タイプResource | http://purl.org/coar/version/c_ab4af688f83e57aa |