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オランウータンの形態に関する研究は古くから行われ、顎二腹筋・前腹の欠如、大腿骨頭靭帯の欠如、母趾の退化もしくは消失等の形態学的特徴が知られている。しかし、これまでの報告における研究対象部位は限局的で、記載も断片的である。全身構造を完全に解説したものは少なく、調べた限り、Sonntag (1924)の報告が存在するのみであるが、これは若齢メス1個体の解剖所見であり、骨格筋の記載も不十分である。また、Straus (1941)は、前腕伸筋群について報告しているが、屈筋群に関する報告は認められない。\n 大型類人猿が絶滅の危機に瀕する現在、その検体は大変希少で、オランウータンの形態に関する詳細な記載が、あらゆる大型類人猿・霊長類研究、人類学研究において、有用なデータとなることは疑う余地がない。また、オランウータンは現生大型類人猿のうち最初に分岐した類人猿で、その特徴は大型類人猿の現代化を分析する上で重要である。さらにはこの先、望まざるも野生オランウータンが絶滅し、飼育下のみに生存する動物となった場合、その健康管理は現在以上に重要となり、詳細な解剖学的情報は必要不可欠となる。近年、各動物園が取り組むエンリッチメントや行動展示に寄与することもできる。\n 本研究では、オランウータンの形態学的特徴を明らかにするため、筋系、脈管系を中心に肉眼解剖学的に精査し、他の霊長類との比較解剖学的検討を行った。特に、いまだ検討の余地がある部位の特徴を明らかにし、それらが生息環境や特有の移動様式に対する適応によるものなのか、それとも霊長類としての系統発生学的なものなのかといった関連性や、それらがもつ機能について考察した。また、上下肢の動脈についてのX線解剖学的検討や、肉眼解剖学的手法では精査が困難な部位の非破壊的観察も行った。\n\n【材料および方法】\n オランウータン(オス、メス各1頭:成熟個体 仙台・八木山動物園より入手)および、チンパンジー(オス1頭:未成熟個体 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大腿二頭筋・長頭と短頭に結合はなく、坐骨結節から起こる長頭は、遠位に向かって二分し、一方は大腿骨に、一方は腓骨頭および外側膝蓋支帯に終わっていた。このうち、大腿骨に終わる部分は、文献によっては大殿筋の一部とされるが、観察の結果、長頭や半腱・半膜様筋と同じ坐骨神経枝の支配を受け、大殿筋とは神経支配が異なっていた。したがって、この部分は、神経支配から見ると、大腿二頭筋・長頭の一部とみなすのが妥当である。このような特有の形態は、特有の移動様式を反映していると考えられた。また、薄い腓腹筋や短いアキレス腱等、下腿の形態も特有の移動様式を反映し、さらに、足底筋はみられなかったが、足底腱膜はみられたことから、オランウータンは足底腱膜の役割を議論する上で重要な分化を遂げていると考えられた。\n\n【上下肢の血管系に関する形態学的研究】\n 上肢の動脈では、肘窩部において、ヒトでは橈骨動脈の枝として分岐する橈側反回動脈が上腕動脈から直接分岐し、また、ヒトでは総骨間動脈の枝として分岐する前・後骨間動脈が、それぞれ尺骨動脈から直接分岐していた。\n 下肢の動脈では、大腿深動脈の終枝である貫通動脈が認められず、大腿方形筋枝と内側大腿回旋動脈にそれぞれ大腿後面への分枝があり、これが貫通動脈の役割を補っていた。また、ヒトでは退化した伏在動脈が存在し、これが足背に至り足背動脈となっていた。さらに、ヒトでは膝窩筋下縁から骨間に入り込む前脛骨動脈が、上縁から入り込んで骨間膜を貫き下腿前面へ至っていた。\n\n【副鼻腔の3次元画像解析】\n CT画像から3次元的に観察した結果、眼窩底と歯槽骨に挟まれ上顎骨全体に広がる上顎洞、眼窩間に位置する前頭洞、蝶形骨洞前方に位置する篩骨洞、外側方向へ広がる蝶形骨洞が認められた。基本的に全洞で左右対称の広がりがみられたが、前頭洞は眼窩間にわずかに認められたのみで、領域、形態ともにヒトとは大きく異なっていた。また、上顎骨が前方に突出した形態であるため、上顎洞前端は鼻腔前端より前方に位置していた。さらに、副鼻腔とは別に、項稜を形成する骨内部に無数の骨洞が認められ、これはメスにはみられないことから、頭蓋骨を軽くするために存在し、ロングコールの際、共鳴腔となっていると考えられた。\n\n【総括】\n 本研究では、以上のようなオランウータンの形態学的特徴が明らかとなった。これらを他の霊長類と比較し、特有の移動様式や生息環境を加味して検討することで、それぞれの特徴は、霊長類としての系統発生学的特徴や、環境への適応により固有に獲得した形態であると考えることができた。特に、その特有の移動様式を反映したと考えられる特徴が多く認められた。また、系統発生学的要因と環境的要因はそれぞれ単独に働くのではなく、系統発生学的に備わっている構造が環境的要因によってより特有の形態へと変化するといったように、それぞれの要因が複雑に絡み合うことで固有の特徴を作り上げていた。\n", "subitem_description_type": "Abstract"}]}, "item_10006_dissertation_number_12": {"attribute_name": "学位授与番号", "attribute_value_mlt": [{"subitem_dissertationnumber": "甲第 110号"}]}, "item_10006_version_type_18": {"attribute_name": "著者版フラグ", "attribute_value_mlt": [{"subitem_version_resource": "http://purl.org/coar/version/c_ab4af688f83e57aa", "subitem_version_type": "AM"}]}, "item_creator": {"attribute_name": "著者", "attribute_type": "creator", "attribute_value_mlt": [{"creatorNames": [{"creatorName": "加世多, 美怜"}], "nameIdentifiers": [{"nameIdentifier": "16157", "nameIdentifierScheme": "WEKO"}]}]}, "item_files": {"attribute_name": "ファイル情報", "attribute_type": "file", "attribute_value_mlt": [{"accessrole": 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オランウータン (Pongo pygmaeus) 頭頸部および上下肢の形態学的研究
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Item type | 学位論文 / Thesis or Dissertation(1) | |||||
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公開日 | 2013-01-16 | |||||
タイトル | ||||||
タイトル | オランウータン (Pongo pygmaeus) 頭頸部および上下肢の形態学的研究 | |||||
言語 | ||||||
言語 | jpn | |||||
資源タイプ | ||||||
資源タイプ | thesis | |||||
著者 |
加世多, 美怜
× 加世多, 美怜 |
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抄録 | ||||||
内容記述 | 【序論】 アジアに現存する唯一の大型類人猿オランウータンは、現在、地理的分布、形態および遺伝学的研究から2種に分類され、絶滅危惧種とされている。大型類人猿としては唯一ほぼ完全な樹上性で、四肢を全て用いる特有の移動様式により木から木へ移動する。そのため、手足は把握やぶら下がりに優れ、手首は他の大型類人猿より可動性に富む。地上を歩く際、下肢は屈曲し外旋した状態で、足の外側を接地する。 オランウータンの形態に関する研究は古くから行われ、顎二腹筋・前腹の欠如、大腿骨頭靭帯の欠如、母趾の退化もしくは消失等の形態学的特徴が知られている。しかし、これまでの報告における研究対象部位は限局的で、記載も断片的である。全身構造を完全に解説したものは少なく、調べた限り、Sonntag (1924)の報告が存在するのみであるが、これは若齢メス1個体の解剖所見であり、骨格筋の記載も不十分である。また、Straus (1941)は、前腕伸筋群について報告しているが、屈筋群に関する報告は認められない。 大型類人猿が絶滅の危機に瀕する現在、その検体は大変希少で、オランウータンの形態に関する詳細な記載が、あらゆる大型類人猿・霊長類研究、人類学研究において、有用なデータとなることは疑う余地がない。また、オランウータンは現生大型類人猿のうち最初に分岐した類人猿で、その特徴は大型類人猿の現代化を分析する上で重要である。さらにはこの先、望まざるも野生オランウータンが絶滅し、飼育下のみに生存する動物となった場合、その健康管理は現在以上に重要となり、詳細な解剖学的情報は必要不可欠となる。近年、各動物園が取り組むエンリッチメントや行動展示に寄与することもできる。 本研究では、オランウータンの形態学的特徴を明らかにするため、筋系、脈管系を中心に肉眼解剖学的に精査し、他の霊長類との比較解剖学的検討を行った。特に、いまだ検討の余地がある部位の特徴を明らかにし、それらが生息環境や特有の移動様式に対する適応によるものなのか、それとも霊長類としての系統発生学的なものなのかといった関連性や、それらがもつ機能について考察した。また、上下肢の動脈についてのX線解剖学的検討や、肉眼解剖学的手法では精査が困難な部位の非破壊的観察も行った。 【材料および方法】 オランウータン(オス、メス各1頭:成熟個体 仙台・八木山動物園より入手)および、チンパンジー(オス1頭:未成熟個体 横浜・京浜鳥獣(株)より入手)を用いた。オランウータンは、入手時、動物園にて病理解剖が終了し凍結された状態にあり、解凍後、腋窩、大腿動脈より造影剤を注入し、上下肢のX線撮影を行った。固定後、頭頸部、上下肢を肉眼解剖学的に観察し、他の霊長類を含めた文献データとの比較検討を行った。上下肢の動脈をX線解剖学的にも検討し、さらに、CTを用いてオスの頭頸部、上下肢を撮影し、副鼻腔および動脈について3次元的解析を行った。チンパンジーについては、比較検討のため、頸部、下肢を肉眼解剖学的に観察した。 【頭頸部についての肉眼解剖学的検討】 性成熟過程でオスにのみ現れるフランジは、顔を大きくし、他のオスに対し自分を強く見せるための構造といわれる。観察の結果、頬部両側に結合組織や脂肪からなる発達したフランジがみられた。フランジ下には広頸筋が入り込み、フランジそのものには、筋系組織や神経等の構造はみられないが、その下の表情筋や広頸筋を動かすことで、フランジを動かすことが可能であることが明らかとなった。また、硬い食物を引き裂き、噛み砕くのに適した強大な顎をもち、咀嚼筋や口裂周辺の表情筋が非常に発達していた。この表情筋の発達は、口や唇を使って巧みに物を操ることや、咀嚼や感情表現の際に口を器用に動かすことを可能としていた。視覚にも優れていることから、コミュニケーションや生活環境において、顔面形態が果たす役割は大きいと考えられた。 【喉頭嚢についての肉眼解剖学的検討】 喉頭嚢は、声帯付近に開口部をもつ嚢状器官で、ヒトを除く多種の霊長類にみられる。発声や移動様式との関係が示唆されるものの、その機能は明らかではない。観察の結果、オランウータンの喉頭嚢は、喉頭室の外側壁から左右に独立して起こり、顎下、頸部、さらに鎖骨を境に、浅層から胸部、深層から背側や腋窩へと、広範囲に広がっていた。各々の嚢はさらに深部で分岐し、筋、骨格、これらを支配する脈管、神経を包含する鞘のような形態をしていた。オランウータンの場合、喉頭嚢は発声よりも樹上での移動様式に深く関わり、ブラキエーション(腕渡り)の際、軟部組織にかかる負荷を和らげるクッションや呼気流を緩衝させることで粘膜等を守る装置としての役割を果たす可能性が高いと考えられた。 【頸部・環椎鎖骨筋についての比較解剖学的検討】 環椎鎖骨筋(以下MAC)は、霊長類にみられる頸部の筋であり、ヒトには存在せず、これまで存在は報告されているが、作用に関する明確な報告はない。MACをもつ種を明らかにし、その作用を考察するため、各種霊長類および四足歩行動物(イヌ)の頸部の筋を比較検討した。観察の結果、オランウータン、チンパンジーには共にMACが認められ、各種霊長類の環椎、肩甲骨、鎖骨周辺筋の有無を分類すると、類人猿では全種にMACが存在し、MACをもつ種は樹上性が強いことがわかった。また、MACは樹上生活に適応する過程で前環椎肩甲筋の停止部位が変化したものであると考えられた。さらに、MACには上肢帯の挙上だけでなく、頭頸部を安定させる作用もあると考えられた。 【上肢についての肉眼解剖学的検討】 深部指伸筋群において、固有第二指伸筋、固有第五指伸筋に加え、固有第三指伸筋、固有第四指伸筋がみられ、第二指から第五指それぞれに終わる指伸筋が存在した。また、深指屈筋は尺骨頭と橈骨頭からなり、尺骨頭の腱は第三、第四、第五指に、橈骨頭の腱は第二指に終わっていた。ヒヒ、チンパンジー等には、深指屈筋腱から分かれ母指に終わる腱が存在し、ヒトには、長母指屈筋という特有の筋が存在し、その腱は母指に終わる。オランウータンの深指屈筋・橈骨頭はヒトの長母指屈筋に相当すると考えられたが、その腱は第二指に終わり、母指に終わる腱はみられなかった。この腱の欠如は、樹上性による母指退行性変化の筋学的特徴であると考えられた。 【指背腱膜に関する肉眼解剖学的検討】 指背腱膜は、指伸筋、骨間筋、虫様筋の腱で構成され、指の伸展・屈曲をスムーズに行なうため、指骨の背側に存在する腱膜である。観察の結果、オランウータンもヒトとほぼ同様の指背腱膜構造をもつことが明らかとなった。しかし、中央索の幅はヒトより広く、固有第三、第四指伸筋腱の一部も加わるため、さらに幅が広くなっていた。また、横支靭帯と斜支靭帯はPIP関節とDIP関節の伸展・屈曲に同時性を持たせていたが、これは、横1列に並んだ第三、第四、第五指のPIP関節とDIP関節が同時に伸展・屈曲することで、ブラキエーションの際、把握をよりスムーズにし、枝を瞬時に確実に捉えるために役立つと考えられた。 【下肢についての肉眼解剖学的検討】 大腿二頭筋・長頭と短頭に結合はなく、坐骨結節から起こる長頭は、遠位に向かって二分し、一方は大腿骨に、一方は腓骨頭および外側膝蓋支帯に終わっていた。このうち、大腿骨に終わる部分は、文献によっては大殿筋の一部とされるが、観察の結果、長頭や半腱・半膜様筋と同じ坐骨神経枝の支配を受け、大殿筋とは神経支配が異なっていた。したがって、この部分は、神経支配から見ると、大腿二頭筋・長頭の一部とみなすのが妥当である。このような特有の形態は、特有の移動様式を反映していると考えられた。また、薄い腓腹筋や短いアキレス腱等、下腿の形態も特有の移動様式を反映し、さらに、足底筋はみられなかったが、足底腱膜はみられたことから、オランウータンは足底腱膜の役割を議論する上で重要な分化を遂げていると考えられた。 【上下肢の血管系に関する形態学的研究】 上肢の動脈では、肘窩部において、ヒトでは橈骨動脈の枝として分岐する橈側反回動脈が上腕動脈から直接分岐し、また、ヒトでは総骨間動脈の枝として分岐する前・後骨間動脈が、それぞれ尺骨動脈から直接分岐していた。 下肢の動脈では、大腿深動脈の終枝である貫通動脈が認められず、大腿方形筋枝と内側大腿回旋動脈にそれぞれ大腿後面への分枝があり、これが貫通動脈の役割を補っていた。また、ヒトでは退化した伏在動脈が存在し、これが足背に至り足背動脈となっていた。さらに、ヒトでは膝窩筋下縁から骨間に入り込む前脛骨動脈が、上縁から入り込んで骨間膜を貫き下腿前面へ至っていた。 【副鼻腔の3次元画像解析】 CT画像から3次元的に観察した結果、眼窩底と歯槽骨に挟まれ上顎骨全体に広がる上顎洞、眼窩間に位置する前頭洞、蝶形骨洞前方に位置する篩骨洞、外側方向へ広がる蝶形骨洞が認められた。基本的に全洞で左右対称の広がりがみられたが、前頭洞は眼窩間にわずかに認められたのみで、領域、形態ともにヒトとは大きく異なっていた。また、上顎骨が前方に突出した形態であるため、上顎洞前端は鼻腔前端より前方に位置していた。さらに、副鼻腔とは別に、項稜を形成する骨内部に無数の骨洞が認められ、これはメスにはみられないことから、頭蓋骨を軽くするために存在し、ロングコールの際、共鳴腔となっていると考えられた。 【総括】 本研究では、以上のようなオランウータンの形態学的特徴が明らかとなった。これらを他の霊長類と比較し、特有の移動様式や生息環境を加味して検討することで、それぞれの特徴は、霊長類としての系統発生学的特徴や、環境への適応により固有に獲得した形態であると考えることができた。特に、その特有の移動様式を反映したと考えられる特徴が多く認められた。また、系統発生学的要因と環境的要因はそれぞれ単独に働くのではなく、系統発生学的に備わっている構造が環境的要因によってより特有の形態へと変化するといったように、それぞれの要因が複雑に絡み合うことで固有の特徴を作り上げていた。 |
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学位名 | ||||||
学位名 | 博士(獣医学) | |||||
学位授与機関 | ||||||
学位授与機関名 | 麻布大学 | |||||
学位授与年月日 | ||||||
学位授与年月日 | 2007-03-15 | |||||
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著者版フラグ | ||||||
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